今回の記事では、「言語学」(Linguistics)のジャンルについて扱います。
言語学とは、「言語を科学的に研究する学問」ですが、実際には以下のように、様々な言語学のジャンルや下位分野が存在しています。

そこで今回は、
- 「言語学にはどんなジャンルがあるのか?」
- 「それぞれの言語学にはどんな特徴があるのか?」
このような「言語学の世界の道案内」のお力添えになれればと思います。
- 言語学の記事紹介
- 「言語学」と聞いて思い浮かべるイメージ
- 言語学の学問体系
- 言語学のジャンルと全体像
- 言語学を「2つの側面」から捉えてみる
- 内的言語学についての紹介
- 外的言語学についての紹介
- ①歴史言語学 (Historical Linguistics)
- ②比較言語学 (Comparative Linguistics)
- ③対照言語学 (Contrastive Linguistics)
- ④社会言語学 (Sociolinguistcs)
- ⑤生物言語学 (Biological Linguistics)
- ⑥認知言語学 (Cognitive Linguistics)
- その他の言語学のジャンル
- 言語学ジャンルをまとめると…
- 最後に
- おすすめ記事
- 参考資料
言語学の記事紹介
本題に入る前に少しだけ記事の紹介です。
当サイトでは、言語学に関する記事を作成しています。それぞれの言語学の分野・種類別にまとめているので、ぜひご覧ください。
■まずはここから!
「言語学」と聞いて思い浮かべるイメージ
「言語学」という言葉を聞いてどのようなイメージを持つでしょうか?

言語学の扱う対象は多岐にわたります。
『言語学の領域が広大な理由』。それは、「言語学の学問体系」に隠されています。
言語学の学問体系
「言語学」が非常に幅広い対象を相手取るのは、「言語学」という学問体系に関係しています。
「言語学の学問体系」をうまく表現したイラストを見てみましょう。

有名な「群盲 象を評す」というインド発祥の寓話です。
つまり、言語学とは、
言語学のジャンルと全体像
言語学は範囲が広いので、最初に分野の地図を持っておくと読みやすくなります。音を見る分野、意味を見る分野、言語の変化や社会との関係を見る分野などに分けて整理できます。

気になる分野から読み進めるなら、次の記事が入口になります。
言語学の全体像を見てみましょう。ジャンルの例を挙げると、以下のようになります。

ひたすら用語が並んでいますが、今の段階では、
このイメージが重要です。
ここからこの組織図に色付けして理解を深めていきましょう。
言語学を「2つの側面」から捉えてみる
それではここらへんで、言語学をシンプルに定義してみましょう。
言語学を噛み砕いて説明しようとすると、次のようになります。
ここで、「言語の様々な側面」と「様々なアプローチ」という2つの観点から言語学を捉えていることが重要です。
なぜなら、その2つのアプローチこそ、言語学のジャンルを線引きする役割を持っているからです。
言語学のジャンル分け
言語学という学問は、「言語の様々な側面」と、「様々なアプローチ」という2つの部分でジャンル分けされています。
その分類された2つのジャンルは、〈内的言語学〉と〈外的言語学〉と呼ばれます。
「言語の様々な側面」の観点から分類
⇒〈内的言語学〉
「その対象へのアプローチ」の観点から分類
⇒〈外的言語学〉
内的言語学と外的言語学の詳しい説明
〈内的言語学〉と〈外的言語学〉は、「言語学」における一番大きな二大カテゴリーというイメージです。
それに対して、〈外的言語学〉は、言語を研究する時に、言語に影響/関係を与え得ると考えられる要因(地域・歴史・社会・認知・心理…)などの観点を取り入れる姿勢をとる言語学です。
つまり簡潔に言うと、〈内的言語学〉の方が「限定的な視点」、〈外的言語学〉は「包括的な視点」だということになります。
それぞれの下位カテゴリー
そんな〈内的言語学〉と〈外的言語学〉も、その下にカテゴリーを持っています。
そしてその結果、以下のような組織図が完成します。

最初にお見せした全体像よりも、言語学の全体像をイメージしやすくなってきたと思います。
それでは、言語学の全体像が見えてきたところで、もう少し言語学の世界を探検してみましょう。
内的言語学についての紹介
ここでは、〈内的言語学〉の分類を紹介します。〈内的言語学〉は6種類に分類されることが一般的です。
したがって、この図の赤色の研究領域が存在しているのです。

内的言語学の詳しい説明

これらの5つの〈内的言語学〉については、順次詳細記事を追加していく予定です。
追記
「言語の意味の側面」に注目する〈意味論〉の記事を作成しました。ぜひご覧ください。

外的言語学についての紹介
それでは次に、〈外的言語学〉について紹介します。つまり下の図の青い箇所に相当するジャンルをご紹介します。

①歴史言語学 (Historical Linguistics)
〈歴史言語学〉は、おそらく「言語学」というワードから最も連想されやすい分野だと思います。
- 「言語の歴史を調べる」
- 「言語の変遷を辿る」
このようなイメージは、全て〈歴史言語学〉に含まれます。
英語における歴史言語学
〈歴史言語学〉の研究の結果、英語の歴史は次のような区分に分類されています。
1100年頃ー1500年頃 中英語
1500年頃ー1900年頃 近代英語
1900年頃ー 現在 現代英語
私たちが接する今の英語の姿になるまで、英語は様々な変化を辿ってきたのです。そして、今まさにこの瞬間の英語も変化の真っ最中と言えるでしょう。
歴史言語学の記事紹介
そして、当サイト『英文法のスパイス』にもこの〈歴史言語学〉を取り入れています。
〈英語史〉は、現代の英文法の謎を解決してくれることもあります。
例えば、、
このような疑問も〈英語史〉のアプローチを借りると解決できるのです。
まず全体像を押さえたい場合は、英語史の全体像を読むと、古英語から現代英語までの流れをまとめて確認できます。
気になる方はぜひ下からご覧ください。


補足説明
〈歴史言語学〉は、以下の〈比較言語学〉と組み合わさるのも1つの特徴です。ある言語の歴史を研究しようとする時、「その言語の祖先は何なのか?」という問題提起が生じます。この時、他の言語と比較し、もし何かしらの共通項を見出せれば、その2つの言語の祖先は同じ、即ち「同じ歴史背景をもっている」と推定できるわけです。このような手法に基づき、〈歴史言語学〉と〈比較言語学〉を合わせて、〈歴史比較言語学〉と呼ぶ場合もあります(比較言語学を歴史言語学の1種とする立場もあるようです)。
参考資料
〈英語史〉に関する書籍をご紹介します。
この『英語の歴史 -過去から未来への物語』は英語史の全体像を理解するのに非常に参考になる1冊です。
こちらの1冊は、英文法学習に活かすことができる英語史の面白さを徹底的に書き記した最高におすすめする書籍です。
②比較言語学 (Comparative Linguistics)
〈比較言語学〉の最大の目的は以下の通りです。
学問としての言語学の誕生は、この〈比較言語学〉に端を発していると言われています。
つまり、言語学は〈比較言語学〉の誕生と共に成立したのです。
時は遡ること 1786年2月2日、ウィリアム・ジョーンズという学者が次のような発表をしました。
インドで用いられていたサンスクリット語という言語は、古典ギリシア語やラテン語と非常に似ているため、同じ共通の祖先を持っているはずである
これを機に〈比較言語学〉、そして「言語学そのもの」が始まったと言われています。
この時点ではまだ推測でしたが、実際にジョーンズの推測が正しいことが後世で証明されました。(次の具体例でも触れます)
このような背景を受け、「言語学の誕生日」は、ジョーンズが講演会を行った2月2日と例えられることもあるようです。
ジョーンズの発表
先ほどウィリアム・ジョーンズが次のような発表をしたと説明しました。
インドで用いられていたサンスクリット語という言語は、古典ギリシア語やラテン語と非常に似ているため、同じ共通の祖先を持っているはずである
そして実際にその予測は的中しました。しかし、それだけでは終わりません。
もっと調べていくうちに、サンスクリット語は、古典ギリシア語やラテン語だけではなく、英語やフランス語、もっと多くの言語と共通点を持っていることが判明したのです。
つまり、
今では似ても似つかないそれぞれの言語たちですが、実は遥か昔まで遡ると、同じ親元から生まれていたのです。
インドで用いられていたサンスクリット語と欧州の英語やフランス語が同じルーツを持っているなんて衝撃的な発見です。
その共通の祖先のことを、〈印欧祖語〉(いんおうそご)、またの名を〈インド・ヨーロッパ祖語〉と言います。
単語の綴り字の構造や発音などの類似性を根拠に、諸言語の共通祖先を突き止めたのです。
〈比較言語学〉のイメージとしてはこんな感じです。

「複数の中から共通項や法則性を抽出する」というイメージです。
サンスクリット語の具体例
サンスクリット語は、実は現在の日本語にも受け継がれています。お寿司の白米部分を指す「シャリ」という言葉は、サンスクリット語由来です。また、「旦那(だんな)」という言葉もサンスクリット語の「ダーナ」から来ていると言われています。さらに興味深いのは、この「ダーナ」が西洋にも流入し、ある言葉に変化したということです。それが、臓器提供者の意味の「ドナー」です。つまり、「旦那」と「ドナー」はサンスクリット語という同じ祖先を持っています。
他にはどんな「語族」があるの?
「語族」の例
- インド・ヨーロッパ語族:英語, ドイツ語, スペイン語, イタリア語, などなど
- シナ・チベット語族:中国語, チベット語, などなど
- フィン・ウゴル語族:フィンランド語, ハンガリー語, などなど
- オーストロネシア語族:東太平洋~マダガスカル島周辺に分布する諸語
私たちの日本語のルーツはどこに…?
英語の祖先は、〈印欧祖語〉と言いましたが、それでは私たちの母語である日本語のルーツはどこにあるのでしょうか? 中国大陸?朝鮮半島?それとも反対側のアフリカ大陸?様々な憶測と研究が飛び交いますが、実のところは不明です。日本語と類似性を持つ言語はいくつか報告されているのですが、どの報告例も日本語の祖先と断定するまでには至っていないのです。日本語研究の歴史は当然長いわけですが、未だに日本語のルーツは謎に閉ざされています。そのような背景を踏まえ、日本語は〈孤立語〉と呼ばれています。
その理由として以下の2つほど挙げられます。
①第一の理由として、研究者の数の違いです。日本語のルーツを専業で研究する人が非常に少ないのです。
②次に研究手法の課題が挙げられます。先ほどの説明で記載した通り、ある言語の祖先を特定するためには比較できる対象が必要ですが、その際の比較基準は音韻的な特徴や語の構造の特徴です。そして音韻的な特徴にある程度の類似性が見て取れなければ、本格的な比較言語学としての研究が始まりません(まったく似ていないもの同士を比較するよりも、最初から似ているようなもの同士を比較した方が効率が良いのは当然です)。そして日本語と音韻的な特徴で類似性のある言語が発見されているかと言うと、残念ながら発見されていないのです。つまり、印欧祖語の特定の鍵となった比較言語学のメソッドをそのまま使うには、日本語が置かれた環境はあまりに条件が違いすぎるということです。比較言語学の手法を使いたくても使えない状態と言えるでしょう。
以上の①と②が原因で、量的にも質的にも日本語のルーツの研究が進んでいないのです。
私たちが生きているあいだに、日本語のルーツは解明されるのでしょうか? おそらく日本語の祖先が解明されたところで「それ、どこの言語?」となるのは目に見えていますが、それにしても「日本語のルーツ」ってどこか魅力的な響きを持っているように思えます。
注意事項
次の〈対照言語学〉と名前が似ているので注意が必要です。
③対照言語学 (Contrastive Linguistics)
前述の〈比較言語学〉(Comparative Linguistics)と似た響きですが、両者は区別されています。
先ほどの〈比較言語学〉は、語彙の発音や構造などに注目し、そこから共通祖先を推定することが目標でした。
一方で〈対照言語学〉は、目指すのはあくまで個別言語の性質を深めることです。
〈対照言語学〉の基本的なスタンスは以下の通りです。
何かを知ろうとするときは、それだけを見つめるのではなく、他のモノと比較することが重要ということです。

先ほどの〈比較言語学〉の「複数から共通の1つを抽出する」というイメージと大きくことなることが分かるはずです。
比較言語学と対照言語学の厳密な定義
先ほどの〈比較言語学〉と〈対照言語学〉の違いを明確に説明しておきたいと思います。
この2つの違いを理解するためには、「比較」と「対照」という語の意味を理解する必要があります。

対照言語学の分析例
それでは、日本語と英語に〈対照言語学〉のフィルターを通してみましょう。
いわゆる『日英比較』というものです(厳密に言うならば『日英対照』です)。
有名なものとして、修飾関係の語順が挙げられます。
1つ目の例として、「名詞に係る形容詞節」を見てみましょう。
例文
- 私は、[ 父親が私に買ってくれた ]時計を無くした
- I lost the watch [ which my father had bought for me].
このように、名詞に係る形容詞節の位置は日本語と英語で鏡像関係になっています。
これは、「動詞を修飾する副詞節」でも同じです。
例文
- 私は、[ 始発に乗るために ]走った
- I ran [ to catch the first train] .
以上が〈対照言語学〉の1例でした。
対照言語学の記事紹介
〈対照言語学〉に特化した記事を作成しています。詳しくは以下の記事をご覧ください。
④社会言語学 (Sociolinguistcs)
〈社会言語学〉は、「社会学」と「言語学」が融合した学問です。
そんな〈社会言語学〉は、言語と社会の関係性を扱います。
社会や文化だけでなく、言語がものの見方や思考にどう関わるかまで広げるなら、言語と思考の関係を考えるサピア・ウォーフの仮説も入口になります。
〈社会言語学〉では、「社会」を細分化します。
そして、
といった具合にそれぞれの「社会」における言語のバリエーションを分析します。
このことををもう少し深掘りしてみましょう。
「社会を細分化する」とは?
細分化された社会における言語のバリエーションを分析するのが〈社会言語学〉ですが、
そもそもどうやって社会を細分化するのしょうか?
細分化の観点として次のようなものが挙げられます。
具体例
例えば、「性別」という細分化の観点を取ってみましょう。
「性別」という観点から細分化された社会における、言語のバリエーションは、一人称に現れます。
これも立派な〈社会言語学〉です。
今の場合は、「性別」という観点から見た結果、一人称の差異という結論に帰着しました。
他の例として、「地域」という細分化の観点を据えてみましょう。
『「地域」という観点から細分化された社会におけるバリエーション』
それは即ち〈方言〉です。
そして、〈方言〉が違えば、発音の仕方(アクセントや訛り)も異なります。
したがって、発音の差異に帰着します。
先ほどの「性別」による細分化の結果と異なる帰着点であることが分かります。
社会言語学を端的に示したフレーズ
社会言語学者で有名な Peter Trudgill という人物の説明を引用します。
The way we talk is deeply influenced by our class, sex(gender*) and ethnic background. It can also have a profound effect on how we are perceived by others.
(私達の話し方(言語の使い方)は、社会階級、性別、人種の影響を根強く受けている。また、それ(言語の使い方)は、他者からどのような印象を持たれるかということにも強い影響を与えている)
このように、〈社会言語学〉では、「言語」と「社会(社会的階級・性別・人種)」の関係性を研究します。
補足説明
社会言語学は、常に「差別」と隣り合わせです。というのも、例えば「身分階級」という観点から言語の性質を捉えようとした際、そこにはどうしても経済的な評価が介入します。そして、「経済的収入が低い人が用いる言語の特徴は○○で、経済的収入が高い人は△△の傾向がある」という結論を仮に出した場合、それは当然「社会的差別」になりかねないのです。こうした危険性は、「言語学」が「社会学」と融合したからには避けられない運命と言えるでしょう。
⑤生物言語学 (Biological Linguistics)
〈生物言語学〉とは、「生物学」と「言語学」がコラボしたものと言えるでしょう。
こんな疑問が浮かんできます。
しかし、理屈は非常にシンプルです。
〈生物言語学〉の根底には非常に説得力のある基盤が存在します。
生物言語学の基盤
〈生物言語学〉は以下の紛れもない事実に基づいています。
「全ての人間が言語を使用できる」というのが重要な点です。この事実を踏まえて、〈生物言語学〉では次の主張を提起しました。
〈生物言語学〉にとって「言語」とは、全ての人間がもっている「身体」の一部(もしくは「心」の一部)に過ぎないというのです。
したがって、
という流れに繋がります。
かなり大雑把に話をまとめましたが、たしかに「言語学」と「生物学」が融合するのも納得であるようにも思えます。
最大の特徴
〈生物言語学〉の最大の特徴は、言語の捉え方にあります。
「言語」の本体を、「文字」や「音」などではなく、「生物学的器官」と捉えたところが大きな特徴だと言えるでしょう。
そして更に興味深いのは、「言語学」という学問が「理系」と結びついたということです。
(「文系」「理系」を区別するのは日本くらいですが、)
「言語学」というワードを聞いて多くの方が連想されるように、それ以前の言語学は、「言語の歴史」や「社会における言語使用の役割」などのように「歴史学」や「社会学」という一般的に言う文系学問の色が濃かったのです。
しかし、〈生物言語学〉の登場で、「言語学」は理系学問としての一面を獲得したのです。
✔生物言語学の代表例
〈生物言語学〉で最も有名な一派が〈生成文法〉と呼ばれる領域です。ノーム・チョムスキーと呼ばれる言語学者が創始した言語学の領域で、近代言語の主流の1つとされています。『どんな人間も最低でも1つの言語を不自由なく使うことができるのは、全ての人間の身体のどこかしら(おそらく心か脳)に「言語を産出(=生成)するシステム」が生物学的に備わっているからだ』という理念のもとに展開しています。その「言語を産出(=生成)するシステム」のことを〈生成文法〉と呼びますが、この〈生成文法〉はそれを研究する学問領域も指すことがあります。学問名を明確に示したいときは〈生成言語学〉や〈生成文法論〉などという用語が使われます。
生成文法の基本を先に押さえたい場合は、生成文法の入門記事で全体像を確認できます。
〈生物言語学〉や〈生成文法〉に関してはこの書籍がおすすめです。
⑥認知言語学 (Cognitive Linguistics)
〈認知学言語学〉は、「認知科学」と「言語学」が融合した学問です。
〈認知言語学〉をシンプルに表現すると、
基本的な考え方
〈認知言語学〉は「言語」を研究するアプローチとして、認知を選択したのです。
こんな疑問が浮かびます。
この問いに対して、〈認知言語学〉は次のような回答を与えます。
〈認知言語学〉では、私たち人間が言語を使う能力は、人間の認知能力に深く関わっているという立場を取っているのです。
このことをイラストにしてみました。

イラストの通り、②の「言語使用」は、①の「認知」と深く関わっているのです。
したがって、〈認知言語学〉にはこんな理念があります。
これが〈認知言語学〉の根底に在る考え方です。
具体例
〈認知言語学〉の根底にある『言語は認知を映し出す』という理念を具体例を交えて説明します。
次のイラストを見てください。

おそらく多くの方は次のように言うのではないでしょうか?
「ワインが半分ある」
これに間違いはありません。しかし、次のようにも言えるはずです。
「ワインが半分しかない」
つまり、同じ状況に対して、少なくとも2つの言語表現が可能なのです。
(1)「ワインが半分ある」
(2)「ワインが半分しかない」
この(1)と(2)の言語の違いは何なのでしょうか?
(1)「ワインが半分ある」

「ワインが半分ある」という言語表現が為された時、人間の認知はどのようになっているのでしょうか?
(1) 「ワインが半分ある」という言葉をイラスト化してみます。

ここで重要なのは、「認知の焦点」です。
イラストを見て分かる通り、(1)の言葉は、
そこから、「ワインがまだ飲める!」というようなポジティブな認知をしていると推測できます。
このイメージを残したまま、(2)を見てみましょう。
(2) 「ワインが半分しかない」

(2) 「ワインが半分しかない」という言語表現をイラスト化してみましょう。

(2)における「認知の焦点」を考えてみましょう。
したがって、(2) 「ワインが半分しかない」という言語は、「ワインが半分しかなくて残念」というようなネガティブな認知を反映していると言えます。
(1)と(2)の比較結果
以上のことをまとめます。
(2) 「ワインが半分しかない」


これが、
ということであり、〈認知言語学〉の根底にある理念です。
補足説明
当サイトでは〈認知言語学〉だけに特化した記事を作成しています。

「言語を通して人間の認知・思考を覗き見る」というなかなか面白い体験に出会えるはずです。



認知言語学の参考書籍
〈認知言語学〉の参考書籍をご紹介します。
↑東京大学大学院の西村先生と哲学者 野矢先生の対談形式によって認知言語学が分かりやすく解説されています。「そもそも言語学とは何か?」というところから丁寧に説明が書いてあるため、誰でも楽みながら理解できる内容になっています。何よりも野矢先生のツッコミどころが最高に面白い。
↑こちらは認知言語学の基礎的な内容を合計14講にわたって丁寧に説明しています。(日本語のみを取り上げているので、英語を対象とした認知言語学を学びたい方はご注意ください)
その他の言語学のジャンル
今まで挙げてきた〈外的言語学〉以外にも以下のようなものが存在します。
言語学ジャンルをまとめると…
お疲れさまでした。以上で説明は終了です。
今までの説明を統括します。
①言語学の定義
②内的言語学
③外的言語学
これら3つの説明を全てまとめます(スマートフォンの方は画像を拡大して見てください)。

最初の頃よりも言語学の全体像が鮮明になっていたら幸いです。
最後に
ここでもう1度この絵を見てみましょう。

最初にお見せした絵ですが、言語学という学問がまさにこれとそっくりであることが分かるはずです。
「言語」という1つの対象を、
- どの側面を観察するか?
- どんなアプローチを用いるか
この2つが変われば、そこから見えてくるものが全く違うのです。
その角度やアプローチには唯一絶対の正しさは存在しません。いろんな見方や捉え方や考えた方があって当たり前です。
だからこそ、こんなにも奥深い言語学の世界が広がっているのです。
注意事項
「群盲 象を評す」と言語学では、確実に異なる点が存在します。それは、対象の定義です。「群盲 象を評す」では、「象」という対象は明確な存在でした。(象という動物を観たことがある人ならば)誰が見ても「これは象だ」と言えるのです。しかし、「言語学」における「言語」の定義は絶対的ではありません。「言語とは○○だ」とは断定できないのです。今回の記事で例を挙げるなら、〈生物言語学〉では「言語」を「生物学的器官」と捉えていた一方で、〈認知言語学〉では「言語」を「認知の反映」と捉えていた具合です。今の例からも分かるように、言語学における「言語」には絶対的で普遍的な定義が存在しません。本来であれば、このお話から始めるべきですが、冒頭からこの「言語の定義」を扱ってしまうと話が複雑になりすぎるので、最後に補足説明としてご紹介させていただきました。しかし、本当はここが最重要とも言える部分です。
おすすめ記事
今回の記事では、言語学の全体像について扱いました。
具体的な言語学のアプローチや分析に関しては、以下の記事がおすすめです。
➤➤【言語学】いろいろな言語学から『3単現のs』を眺めてみた
参考資料
- Anderson, Stephen R. (2002),The Language Organ: Linguistics as Cognitive Physiology, Cambridge University Press.
- Tomalin, M. (2007), Linguistics and the Formal Science: The Origin of Generative Grammar, Cambridge University Press.
- 堀田隆一 (2016) 『英語の「なぜに?」に答えるはじめての英語史』 研究社
- 渡部昇一 (1983)『英語の歴史』 大修館書店
- 加藤重広 (2019)『言語学講義 -その起源と未来』 ちくま新書
- 籾山洋介 (2010)『認知言語学入門』研究社
- 西村正樹・野矢茂樹 (2013)『言語学の教室』中公新書
- 福井直樹 (2018)「生成文法の思想 -自然主義と言語の内在主義-」『沖縄外国文学会』
- 成田宏樹 (2016)『チョムスキー 言語の科学』岩波新書
- 李在鎬 (2010) 『認知言語学への誘い -意味と文法の世界-』開拓社
- イェスペルセン,オットー (2006)『文法の原理』安藤貞雄 訳 岩波文庫
この中でも特に次3冊はおススメです。
英文法の学習で浮かんでくる素朴な疑問を英語史の知見を使って紐解く1冊です。
『人間にとって言語とは何か?』、『そもそも人間とは何か?』という広大なテーマをに現代言語学の父 ノーム・チョムスキーが語ります。
言語学全般を広く扱った書籍です。
今回もご覧いただきありがとうございました。『言語学概論シリーズ』は今後も作成していきます。
また宜しければご覧ください。




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