言語学

【認知言語学概論③】比喩(メタファー・メトニミー・シネクドキ)

比喩表現 メタファー・メトニミー・シネクドキ言語学
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この記事では、比喩表現(メタファー・メトニミー・シネクドキ)を扱います。

〈認知言語学〉では、「比喩表現」は非常に重要な意味を持つ言語表現だと言われています。

この記事では、

➤一般的な比喩に対するイメージ
➤認知言語学の比喩の捉え方
➤比喩の種類(メタファー・メトニミー・シネクドキ)
➤メタファー・メトニミー・シネクドキの具体例
今回のテーマ認知言語学における比喩表現について

 

 

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一般的な「比喩表現」のイメージ

「比喩表現」と聞いてどのようなイメージを浮かべるでしょうか?

一般的な比喩表現に対するイメージとして、

  • 作文やスピーチで使うとオシャレ
  • 小説家などがよく使う表現
  • 技巧的で飾った言い回し

などのようなものが挙げられます。

また、比喩表現の分類としては、

  • 直喩 :「まるで」「~のようだ」などを使う表現
  • 隠喩 :「まるで」「~のようだ」などを使わない表現
というのを学校の国語の授業で習ったことがあるかと思います。
このような比喩表現の一般的なイメージと分類をまとめると以下のようになります。
一般的な比喩のイメージ➤文学的・修辞的なイメージ
➤形式的な特徴で分類できる
しかしながら、次に見ていく〈認知言語学〉では比喩の捉え方が少し違います
この記事を最後まで読んで頂ければ、比喩に対する印象が180度転換するはずです。

認知言語学の「比喩表現」の捉え方

認知言語学における比喩の捉え方をご紹介します。

認知言語学における「比喩」比喩表現は、人間の思考や認知と強く結び合っている

先ほどの『形式的な修飾』などの一般的な比喩のイメージと大きく異なります。

この結論をもっと分かりやすく理解するために、例文を通してみていきたいと思います。

比喩を使った例文

例文・彼は議論の相手の主張を攻撃した。
・私は新聞を読んだ。
・太郎は目黒川に花見に行った。
上の3つは全て比喩表現です。
そして3つとも異なる種類の比喩表現です。
どこにどんな比喩表現が使われているのでしょうか?

比喩表現の種類

今回は、〈認知言語学〉における3つの比喩表現をご紹介します。

比喩の種類隠喩いんゆ (メタファー)
換喩かんゆ (メトニミー)
提喩ていゆ (シネクドキ)
以下から漢字表記を採用します。どれも漢字が似ているので見間違いにご注意ください。
そして先ほどの3つの例文は上から順に対応しています。
例文と比喩の種類・彼は議論の相手の主張を攻撃した →隠喩
・私は新聞を読んだ →換喩
・太郎は目黒川に花見に行った →提喩
次から具体的な特徴を観察していきましょう。

① 隠喩 (メタファー/metaphor)

まずは〈隠喩〉と呼ばれる比喩表現を見てみましょう。

隠喩(1)彼は議論の相手の主張を攻撃した。
(2)こんな主張では、彼に議論で負けるだろう。

この2つの例文は、一見すると普通の表現ですが、実は比喩が使われているのです。

どこが隠喩なのか?

(1) 彼は議論の相手の主張を攻撃した。
(2) こんな主張では、彼に議論で負けるだろう。

攻撃」、「負ける」が〈隠喩〉に相当します。

本来、「攻撃」や「負ける」という用語は議論における用語ではなかったのです。

それでは、どの場面における用語だったのでしょうか?

それは、戦争において使われる用語なのです。

したがって、(1)と(2)の文を生み出し、理解するメカニズムの基盤には「議論は戦争だ」という知識・認識 が存在するのです。

するとこんな疑問が浮かんできます。

「議論は戦争だ」という知識はどこから来るのか?

この問いには次のように答えられます。

人間は、無意識に戦争と議論の間に共通項を見出して「議論は戦争だ」と認識している
以下で戦争と議論の共通項を考えてみましょう。

議論と戦争の共通項

議論と戦争の共通項をイラストにしてみました。

参考:李2010: 96
このように戦争と議論の間には、決定的な共通項が存在するのです。
私たち人間の脳はこれらの共通項を無意識に認識して、
(1) 彼は議論の相手の主張を攻撃した。
(2) こんな主張では、彼に議論で負けるだろう。
という〈隠喩〉を生成するのです。

隠喩の原理 〈概念メタファー〉

ここで〈認知言語学〉の用語をいくつか導入ておきます。

先ほどのイラストを見て分かる通り、議論戦争の間には複数の共通項があり、戦争の特性を議論に投射しています。

そのような「特性を投射する側」を〈起点領域〉と呼び、「特性を投射される側」〈目標領域〉と呼びます。

先ほどの例で言うと、「戦争」が〈起点領域〉で、「議論」が〈目標領域〉です。

そしてその投射の結果、議論戦争だ」という認識を獲得しています。

この認知解釈によって、『議論』という対象を『戦争』という対象を通して理解しようとしています。

この認知プロセスを〈概念メタファー〉と呼びます。

〈概念メタファー〉抽象的な対象(=目標領域)を、具体的で馴染みのある物事(=起点領域)を通して理解しようとする認知の仕組みのこと

今の話をイラストにまとめます。

概念メタファーの関係図

ここで重要なのは、写像関係は「起点領域目標領域への一方性」ということです。つまり、「戦争議論への写像」は可能ですが、逆方向の「戦争議論への写像」は不可能です。

以上の全てまとめると、〈隠喩〉は次のように定義されます。

〈換喩〉の定義〈起点領域〉から〈目標領域〉に向けての一方向性の写像関係である〈概念メタファー〉が作り出す言語表現のこと

関連した概念

この〈概念メタファー〉には〈イメージスキーマ〉という認知言語学の別の概念が絡んできます。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

関連リンクは新規タブ(別ウインドウ)で開くようになっています。また、この記事の最後にも再度掲載しているので、お好きなタイミングでご覧ください。

補足説明

1つの事象に対して、〈概念メタファー〉は複数存在します

要するに、「議論」の〈概念メタファー〉は「議論は戦争だ」だけではないということです。

「議論」に関する他の〈概念メタファー〉として次の2つが挙げられます。

 ①「議論は容器だ」
 ②「議論は旅だ」

この〈概念メタファー〉によって生成される〈隠喩〉は以下のようになります。

①「議論は容器だ」・その議論は中身がない。
・解決策はその議論の中には無かった
・その議論は不透明である。
上の3つは、議論を容器と認識しているから生まれる表現です。
②「議論は旅だ」・今日の議論はその話題から始まった
・その議論で合意に達した
・その議論は紆余曲折だった。
上の3つは、議論を旅と認識しているから生まれる表現です。

他の概念メタファーの例

「議論」以外に関する〈概念メタファー〉の例とそれによる表現を紹介します。

太字の箇所が〈隠喩〉に相当します。

「恋愛は旅だ」• そのカップルは別々の道を歩むことにした。
• 彼らの仲は迷走している。
• その夫婦は再スタートを切った。
「考えは食べ物だ」• その難しい考えを噛み砕いて説明した。
• その考え方には歯が立たない
• その考えに消化不良を感じている(納得できないの意味)

概念メタファーの意義・役割

最後に〈概念メタファー〉の役割・意義を考えてみたいと思います。

今まで出した〈概念メタファー〉を全てまとめてみます。

[紹介した概念メタファー]・「議論戦争だ」
・「議論容器だ」
・「議論だ」
・「恋愛だ」
・「考え食べ物だ」
これらの〈概念メタファー〉の意義はどこにあるのでしょうか?
〈概念メタファー〉の意義抽象的な事象具体的な事象を代用して捉えることができる

したがって、先ほどの〈起点領域〉〈目標領域〉に話を戻すと、

〈起点領域〉になるのは具体的な事象で、〈目標領域〉になるのは抽象的な事象である
と関連付けることができます。

前の補足説明の

ここで重要なのは、写像関係は「起点領域目標領域への一方性」ということです。つまり、「戦争議論への写像」は可能ですが、「戦争議論への写像」は不可能です。

というのも納得できるのではないでしょうか?

隠喩(メタファー/metaphor)のまとめ

以上で、1つ目の比喩表現の〈隠喩〉の説明は終了です。〈隠喩〉と〈概念メタファー〉についてイメージが膨らんだでしょうか?>ここだけでも話が長かったと思うので一度まとめを入れておきます。

  • 〈隠喩〉とは、〈起点領域〉から〈目標領域〉に向けての一方向性の写像関係によって生まれた〈概念メタファー〉が作り出している
  • 〈概念メタファー〉とは、○○△△だ」で言い表され、抽象的な対象(=目標領域)を、具体的で馴染みのある物事(=起点領域)を通して理解しようとする認知の仕組みのこと
  • 〈概念メタファー〉は、抽象的な事象具体的な事象を代用して捉えることを可能にする
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② 換喩(メトニミー/metonymy)

次に紹介するのは〈換喩〉(メトニミー)と呼ばれる比喩表現です。

【換喩の例文】① 私は新聞を読んだ
② ここのレストランは美味しい
1つずつ見ていきましょう。

①「私は新聞を読んだ」

①の表現のどこに〈換喩〉が使われているのでしょうか?
〈換喩〉を使わない表現は、以下のようになります。
①’ 私は新聞の文字を読んだ
つまり、「新聞」という表現は「新聞の文字」を表す比喩表現であると解釈できるのです。
「省略と何が違うの?」という疑問は後で取り上げます。

②「マックは美味しい」

これも〈換喩〉を使わないと以下のようになります。
②’ ここのレストランの料理は美味しい
「レストラン」という表現は「料理」を表す比喩表現です。

よくある疑問

ここで多くの方が思っている疑問についてお答えします。

〈換喩〉と「省略」は何が違うのか?

確かに「私は新聞を読んだ」や「マックは美味しい」は、「私は新聞の文字を読んだ」や「マックのハンバーガーは美味しい」における下線部の省略と思えるかもしれません。

しかし、実際は2つは別の現象として扱われています

実際には、「メトニミーなんて存在せず、全部省略表現である」と考える研究者がいるのも事実です。メトニミーに対して様々な見解があることをご承知おきください。

この疑問を解決するためには、〈換喩〉の基盤を成す原理を説明する必要があります。

換喩の基盤を成す原理「隣接性の原理」

〈換喩〉という比喩表現には、〈隣接性の原理〉というものが働いています。

〈隣接性の原理〉隣接関係にあるABの内、Aを指示することで結果的にBを意味すること
これも研究者によって見解が異なります。中には〈フレーム〉と呼ばれる概念を使って説明する考え方もありますが、ここでは一般的な「隣接性」という説明を紹介します。

イラストを交えながら解説していきます。

「赤ずきん」という言葉

ここからの具体例は、言語学の教室 哲学者と学ぶ認知言語学 (中公新書)(西村・野矢 2013, 143)参考にしています。

〈隣接性の原理〉に基づく例として、「赤ずきん」という言葉が挙げられます。

この「赤ずきん」という言葉を聞いて、何を想像しましたか?

おそらく多くの方は次のような「女の子」を想像したはずです。

赤ずきん

しかし、よくよく考えてみると、「赤ずきん」という言葉自体は、本来「赤い頭巾という衣服」を表しています。

赤い頭巾

これが字義通りの「赤ずきん」のはずです。

つまり、ここには

本来は「赤い頭巾という衣服」を意味するはずの「赤ずきん」という言葉が、「それを着ている女の子」を意味している

という現象が起きています。

そしてこの現象を成り立たせているのが、〈隣接性の原理〉というものなのです。

メトニミーは、隣接性の原理によって成立している。

これで〈隣接性の原理〉ついて何となく理解してもらえたでしょうか?

✔〈隣接性の原理〉の英文法への応用

この〈隣接性の原理〉は、時制に応用可能です。
次のような説明を聞いたことはないでしょうか?
「現在形は、過去・現在・未来を示す習慣形である」
この説明も〈隣接性の原理〉によって理解可能です。というのも、「現在」という時間は、時間軸上で「過去と未来の中央」に位置しています。したがって、『「時間軸上の中央に位置する現在」を指すことで(=現在形を使うことで)、「周辺部分に位置する過去と未来」も同時に指すことができる』、この解釈が成立するはずです。英文法と認知言語学は、実はこんなところでも繋がっているんです。
『現在形が習慣を表す理由』については以下の記事で詳しく解説しています。
➤➤【時制】なぜ現在形は『習慣』を表すのか? -現在形の本質-
(この記事の最後にもリンクを貼っておくので、お好きなタイミングでご覧ください)

例文と疑問への立ち返り

ここでもう一度例文を見てみましょう。
【例文①】① 私は新聞を読んだ
⇨ ①’ 私は新聞の文字を読んだ
【例文②】② ここのレストランは美味しい
⇨ ②’ ここのレストランの料理は美味しい
この2つを〈隣接性の原理〉の観点から分析してみましょう。
① 私は新聞を読んだ
⇨ ①’ 私は新聞の文字を読んだ
全体部分」の隣接性
ここのレストランは美味しい
⇨ ②’ ここのレストランの料理は美味しい
作成者産物」の隣接性
ここで新しい例文③を紹介します。
ホワイトハウスは声明を発表した
⇨ ③’ アメリカ政府は声明を発表した
建物機能」の隣接性

③の文も〈隣接性の原理〉に戻づいた〈隠喩〉を使った文ですが、③と③’は省略関係ではありません

したがって、

〈隠喩〉と「省略」は別のものである
と言えます。
そして、最初の
〈換喩〉と省略は何が違うのか?
という疑問に答えるならば、
 ①「私は新聞を読んだ」、②「ここのレストランは美味しい」、③「ホワイトハウスは声明を発表した」は、全て〈隣接性の原理〉に基づいた〈隠喩〉であり、①と②だけたまたま省略現象と同じ形式に見えるだけである。
と結論付けられます。
①「私は新聞を読んだ」、②「マックは美味しい」は形式的には省略現象と一致していますが、表現の本質は〈隣接性の原理〉に基づいた〈換喩〉だと言えるでしょう。(他にも様々な見解があります)
〈換喩〉の定義は次のように表現されます。
〈換喩〉の定義〈隣接性の原理〉によって生み出される言語表現のこと

言語使用のほとんどは換喩

今までの例文を見て実感して頂けたと思いますが、〈認知言語学〉では次のように言われています。

私たちの言語使用のほとんどが〈換喩〉である
今まで無意識に使っていた表現も実は〈換喩〉という比喩表現が使われていたのです。

換喩の存在意義

さて最後に〈換喩〉について考えたいことがあります。

なぜこんなにも言語表現には〈換喩〉が使われているのでしょうか?

先ほど書いた通り、私たちの言語表現のほとんどは〈換喩〉です。

その理由はなぜか? 答えは至ってシンプルです。

〈換喩〉を使わなければ、全てを言い表さないといけないため、コミュニケーションにおいて非合理だから

〈換喩〉がこんなにも使用されるのは、〈換喩〉が使用されないと言語使用の負荷が膨大になってしまうからです。

例えば、「この新聞読んだ?」と質問するときに、「この新聞の文字読んだ?」と表現するのは言語使用の負荷が増えてしまいます。

この説明を聞くと、次のような考えが浮かぶのではないでしょうか?

たった「新聞の文字を読む」が「新聞を読む」になっただけで、言語使用の負荷は変わるのか?

その考えも確かに納得です。

しかし、人間が1日に使う単語数を考えてみてください。

アメリカのメリーランド大学の研究結果によると、 

1日の使用単語数は、男性で7,000語、女性で20,000語である  (出典元)

という研究報告が出ています。
研究言語が英語のため日本語の正確な数値は分かりませんが、おそらく日本語でも単語数が膨大なのは確かです。それよりも個人的には女性が男性の2倍以上も話していることに驚きです。

このような現状を踏まえ、もし仮に〈換喩〉が存在しなかったどうなるでしょうか?

〈換喩〉が日常言語の何割を占めているかで結果は変わってきますが、1日の使用単語数は確実に増加します。

そうすると、言語を使う人(話し手・書き手)の負荷が増加するのは当然ですが、受け取る側(聞き手・読み手)の負荷も同様に増加してしまいます。

その結果、コミュニケーションが円滑に行われないといった問題点が出てきてしまいます。

これらのことを防ぐために、〈換喩〉という比喩表現、そしてそれを理解できる〈隣接性の原理〉というものが存在しているのです。

〈換喩〉と〈隣接性の原理〉は円滑なコミュニケーションのために必要(?)
✔オススメ情報 
ちなみに同研究では、男性と女性の1日で使う単語数の違いにはFoxp2というタンパク質が関与していることを突き止めたらしいですよ。ぜひ興味があればぜひリンクから飛んでみてください。

〈換喩〉についてのまとめ

以上で2つ目の〈換喩〉についての説明は終了です。一度まとめを入れておきます。
  • 〈換喩〉とは、〈隣接性の原理〉に基づいた比喩表現である
  • 隣接関係にあるABの内、Aを指示することで結果的にBを意味すること
  • 〈換喩〉は日常の言語使用のほとんどを占めており、円滑なコミュニケーションのために不可欠
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③ 提喩(シネクドキ/Synecdoche)

最後の3番目に紹介する比喩表現が、〈提喩〉と呼ばれるものです。

提喩の例文太郎は目黒川に花見に行った
この表現にも比喩が使われているのです。

どこに〈提喩〉が使われているのか?

突然ですが、「太郎が目黒川で見たのは何でしょうか?」と質問したら、おそらく全員の方が「桜」と答えるでしょう。

当然「桜」で正解なのですが、よくよく考えるとおかしな表現であることに気付くはずです。

見」というのは字の如くを見ること」です。

ということは、バラでもチューリップでもコスモスでも字義的には見」になるはずです。

しかし、私たちは「花見」と言った時、「桜を見ること」と無意識に判断するのです

この思考回路に関与しているのが、〈提喩〉というものです。

「花見」に関しては単純に慣習的な問題として片付けることも可能ですが、慣習的な問題ではない具体例も紹介するので、しばしお待ち下さい。

提喩の原理

つまり〈提喩〉の原理はこうです。
〈提喩〉の原理「花」というカテゴリーを登場させることによって、ある特定のメンバーである「桜」を指定する
「メンバー」という用語が登場しましたが、〈認知言語学〉ではあるカテゴリー(集団)に含まれる個々の要素のことを「メンバー(成員)」と呼びます。カテゴリー理論については別記事を作成しています。【認知言語学概論④】カテゴリー化(古典的カテゴリー理論とプロトタイプ理論)
私たちの脳内では「花」というカテゴリーが「桜」というメンバーを指定していることを無意識に理解しているのです。

補足説明

ここで注意が必要なのは、提喩は必ずしも「カテゴリー → メンバー」の指示方向とは限らないということです。

つまり、「メンバー →カテゴリー」の指示方向でも可能です。

メンバー → カテゴリーの例一緒にお茶でもしませんか?

この表現を使った人は、お茶だけしか飲めないのでしょうか?

そうではありませんね。別にオレンジジュースやコーヒーを飲んでも良いのです(更にはケーキやクッキーを食べても良いのです)。

つまりここでは、「お茶」という特定のメンバーが「飲み物」(食べ物)というカテゴリーを指示しています。

これが「成員 → カテゴリー」の指示方向を成す〈提喩〉の例です。

以上のことから、〈提喩〉を次のように定義できます。

〈提喩〉の定義〈提喩〉とは、カテゴリーとメンバーの包含関係に基づく言語表現のこと
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3種類の比喩のまとめ

〈隠喩〉〈換喩〉〈提喩〉の3種類の比喩表現をまとめます。

種類原理特徴
隠喩
(メタファー)
概念メタファー1つの事象に対して複数の概念メタファーが存在する
・その考え方を嚙み砕いて太郎に説明した。(考え=食べ物)
・そのカップルは別々の道を歩むことにした。(恋愛=旅)
・ゲームに2時間費やした。(時間=お金)
換喩
(メトニミー)
隣接性の原理言語使用のほとんどが換喩である
・私は新聞を読んだ。(新聞→文字)
・そのは面白い。(本→内容)
・彼はが良い。(目→視力)
提喩
(シネクドキ)
包含関係の原理「カテゴリー ⇔ メンバー」の双方向性
・太郎は目黒川に花見に行った。【花(カテゴリー)→桜(成員)の指示方向】
お茶でも行きませんか?【飲み物(カテゴリー)←お茶(成員)の指示方向】

全体のまとめ

これにて言語学概論③は終了です。

比喩表現に対して次のようにイメージが変わったのではないでしょうか?

文学的で、形式的な特徴で分類できる

科学的で、認知的な特徴で分類できる
比喩は文学的な言葉の綾や形式上の問題ではなく、人間の言語と認知の関連性を示す重要な証拠なのです。

今回の記事内容をまとめます。

  • 比喩表現には、〈隠喩〉〈換喩〉〈提喩〉の3種類ある。
  • 比喩は、人間の認知の仕方を反映した言語表現である。
記事内に出てきた用語も整理しておきます。
〈隠喩(メタファー)〉〈換喩(メトニミー)〉〈提喩(シネクドキ)〉
〈概念メタファー〉〈起点領域〉〈目標領域〉
〈隣接性の原理〉〈包含関係〉

関連コンテンツの紹介

今回の記事で紹介してきた【関連記事】のリンクをまとめておきます。

◆認知言語学概論シリーズ:
認知言語学概論シリーズ一覧

◇概念メタファーと関係のある概念:
【認知言語学概論⑤】イメージスキーマ

◆〈隣接性の原理〉を英文法に応用した記事 :
【時制】なぜ現在形は『習慣』を表すのか? -現在形の本質-

〈認知言語学〉と英文法の繋がりを実感できる面白い記事だと思います。ぜひご覧ください。

参考文献

  • Lakoff, George & Mark Johnson (1980), Metaphors We Live By, University of Chicago Press.
  • 西村正樹・野矢茂樹 (2013)『言語学の教室』中公新書
  • 籾山洋介 (2010)『認知言語学入門』研究社
  • 李在鎬 (2010) 『認知言語学への誘い -意味と文法の世界-』開拓社
  • メリーランド大学の研究記事

認知言語のメタファー研究と言えば絶対に名前が挙がるのが、この『レトリックと人生』。メタファー研究の認知的な研究の幕開けとなった Metaphors We Live By の邦訳です。この1冊を読めば、認知言語学のメタファー研究の本質を学ぶことができるはずです。

➤➤ 【書籍紹介】認知言語学を学べる書籍

 

今回もご覧頂きありがとうございました。
また次の記事でお会いしましょう。

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