〈認知言語学〉(Cognitive Linguistics)と聞いて、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか?
一見小難しい響きを持っていますが、この記事では「認知言語学とは何か?」ということをイラストや具体例を交えながら分かりやすく解説していきます。
定義:認知言語学とは
最初に〈認知言語学〉の定義を紹介します。
認知言語学という用語
手始めに、〈認知言語学〉という用語を見てみましょう。
この用語は2つに分解できそうです。
①「認知」とは
「認知」とは何か? 以下のように言われています。
そうは言っても、ここらへんは漠然に捉えて頂いても構いません。
②「言語学」とは
それでは次に『言語学』の定義を考えてみましょう。
「認知」をアプローチとして選んだ「言語学」
ここで、①「認知」と②「言語学」を関連付けてみましょう。
さきほど②で「言語学」を次のように定義しました。
ここに、①の「認知」を絡ませます。「認知」はアプローチとして機能します。
すなわち、
このように表現することができるでしょう。
「認知」と「言語」を別々に考えて、そしてそのあと組み合わせてあげれば〈認知言語学〉を理解することができるのです。
「認知」と「言語学」が融合した理由
ここで、1つの疑問が出てきます。
例えば言語を研究する時に、「歴史に沿って考える」という方法を選択するのは恐らく納得できると思います。
それでは、なぜ「認知」をアプローチとして選択したのか?
この問いに対して、〈認知言語学〉は次のような回答を与えます。
〈認知言語学〉では、私たち人間が言語を使う能力は、人間の認知能力に深く関わっているという立場を取っているのです。
言語能力と認知能力を一体化して捉える、これが〈認知言語学〉の特徴です。
このことをイラストにしてみました。

「認知を映し出す」とは?
〈認知言語学〉の理念を説明しましたが、漠然とし過ぎてよく分からない方も多いかと思います。
そこで最後に「言語が認知を反映する」とはどういうことなのか?を具体例を出して実感して頂きたいと思います。
具体例
次のイラストを見てください。

ワインを飲んでいるというシチュエーションを踏まえてお考えください。
(2)「ワインが半分しかない」
(2)「ワインが半分しかない」
(1)「ワインが半分ある」

「ワインが半分ある」という言語表現が為された時、人間の認知はどのようになっているのでしょうか?
(1) 「ワインが半分ある」という言葉をイラスト化してみます。

このイメージを残したまま、(2)を見てみましょう。
(2) 「ワインが半分しかない」


(1)と(2)の比較
以上のことをまとめます。
(2) 「ワインが半分しかない」


認知言語学の書籍紹介
名前の通り認知言語学の入門書として最高最適な1冊です。対象言語は日本語。解説・具体例が丁寧で、各章の最後には理解の定着を図るための確認テストも付随しています。本当に親切丁寧な書籍です。
Amazonレビューで高評価(4.7/5.0)を誇ってる有名・人気な認知言語学の参考書です。こちらも認知言語学の入門書としては外さない1冊としておすすめします。こちらは英語を対象にしています。
認知言語学に関する書籍についてもっと詳しく知りたい方は、以下の記事を御覧ください。
全体のまとめ
- 認知言語学とは、認知というアプローチを用いて言語の問題を分析する言語学
- 認知言語学では、言語能力と認知能力を一体化して捉える
- 『言語は認知を映し出す』という理念を据えている
認知言語学についても知識を吸収していきたい方は、ぜひ今後もご覧ください。
認知言語学の更に詳しい説明は以下をお読みください。
認知言語学のもう少し詳しい説明
最後に〈認知言語学〉について、学問としての歴史や学者などの情報をまとめておきます。
〈認知言語学〉という言語学の分野は、1980年代に ジョージ・レイコフ (George Lakoff)による Women, Fire, and Dangerous Thingsという書籍、そして ロナルド・ラネカー (Ronald Langacker)による Foundations of Cognitive Linguistics という書籍が出版されたことによって誕生したと言われています。
〈認知言語学〉の特徴は、『人間の言語能力と認知能力を関連付けて扱う』と説明しましたが、これは認知言語学以前の〈生成文法〉という言語学と対立しています。〈生成文法〉とは、1957年に ノーム・チョムスキー (Noam Chomsky) が Syntactic Structuresを発表したことに由来すると言われていますが、そんな〈生成文法〉では、『人間には、言語能力だけを司る独立した機能が存在する』としています。 つまり、簡単に言うと、言語能力を認知能力から独立したものとして扱ってきた〈生成文法〉に対して、言語能力を認知能力と関連付けて扱おうとしたのが〈認知言語学〉になります。
➤➤ 認知言語学概論シリーズ
参考文献
- Radden & Dirven (2007), Cognitive English Grammar, John Benjamins.
- 李在鎬 (2010) 『認知言語学への誘い -意味と文法の世界-』開拓社
- 西村正樹・野矢茂樹 (2013)『言語学の教室』中公新書
- 加藤重広 (2019)『言語学講義 -その起源と未来』筑摩書房
- 李在鎬 (2010) 『認知言語学への誘い -意味と文法の世界-』開拓社
- 籾山洋介 (2010)『認知言語学入門』研究社
➤➤ 認知言語学の書籍紹介
コメント
面白かったです。