【入門】歴史言語学でわかる英語史|古英語から現代英語まで簡単解説

英語史の記事サムネイル。英語はなぜ今の形にという問いを歴史の巻物と年代軸で示す

今回は、歴史言語学の一分野である英語史について扱います。

英語を学んでいると、理屈に合わない「不規則」に何度もぶつかります。go の過去形がなぜ went なのか。knife の k はなぜ書くのに読まないのか。be 動詞はなぜ am・is・are・was・were とバラバラなのか。ひとつひとつ「そういうもの」として丸暗記してきた人は多いはずです。

こうした形には、それぞれ成り立ちがあります。音が変わって綴りだけが残ったもの、別の動詞が一つの活用に合流したもの、古い変化の型を保つもの。今は同じ「不規則」に見えても、歴史をたどると違う理由が見つかります。

英語史とは、こうした変化を時間の流れにさかのぼって読み解く分野です。まずは英語史という分野の輪郭から見ていきましょう。

英語史えいごしhistory of English分野名英語という言語が、古英語から現代英語へと約1500年かけてどう変わってきたかを研究する分野。発音・文法・語彙・綴りの移り変わりを、時間の流れに沿って跡づける。言語を時間軸で見るので〈歴史言語学〉の一分野にあたる。

この記事では、英語史の全体像を、次の順番でたどります。

  • 英語史とは何を見る分野か(歴史言語学)
  • 英語の出身:印欧語族とゲルマン語派
  • 古英語・中英語・近代英語という3つの時代
  • 英語を今の形にした3つの大きな変化
  • 「不規則は歴史の化石」という読み方

英語史を1本の地図として描くことで、点で覚えてきた英語の謎が、線でつながって見えてきます。

今回のテーマ英語はなぜ、今のような姿になったのか
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よくある疑問「なぜ英語はこんなに不規則だらけなのか」

英語の勉強では、「これは例外」「こういうものだと覚えて」と片づけられる場面が何度もあります。代表的なのが、次のような謎です。

  1. go の過去形が、なぜ goed ではなく went なのか
  2. knife や know の k を、なぜ書くのに発音しないのか
  3. 同じ「〜である」なのに、be 動詞だけ am・is・are・was・were とそろっていないのはなぜか

ひとつずつなら「例外」として暗記できます。しかし数が増えてくると、英語は不規則だらけのいい加減な言語に見えてきます。

結局ぜんぶ暗記するしかないんですか? なぜこうなったのか、理由はないんでしょうか。
理由を探す手がかりは、英語の歴史にあります。went と knife では変化の仕方が違うので、一つずつたどってみましょう。

英語がどこから来て、どんな社会で使われ、音や文法がどう変化したかを追うと、今の形を説明できます。その道のりを描くのが英語史です。

英語史とは、今の英語を時間でさかのぼって読む分野

英語史は、ひとことで言えば「今の英語を、時間をさかのぼって読み解く」分野です。年表を暗記する勉強ではなく、目の前の英語がなぜこの形なのかを、過去にたどって説明していきます。

言語の研究には、大きく2つの見方があります。ある一時点の言語のしくみを切りとって調べる見方と、時間の流れに沿って変化を追う見方です。

ある時点での言語のしくみを調べる立場を〈共時的〉、時間に沿った変化を追う立場を〈通時的〉と呼びます。英語史は後者、つまり通時的に英語を見る分野です。

言語学には「意味」を切り口にする〈意味論〉のように、さまざまな入口があります。英語史は、そのなかで「時間」を切り口にする入口だと考えると位置づけがはっきりします。

英語史を歴史言語学という分野として見ると、ほかの言語学分野との違いもつかみやすくなります。

分野の地図そのものを知りたいときは、意味論の入門記事もあわせて読むと、英語史がどのあたりにある分野かが見えてきます。

意味論とは何かを見る(分野の入門ハブ)

英語はゲルマン語の一員として始まった

英語の歴史を読むには、まず英語の出身を押さえる必要があります。英語は、世界の言語のなかでどこに属しているのでしょうか。

英語が印欧語族のゲルマン語派に属し、ドイツ語やオランダ語と同じ枝から分かれたことを示す系統樹
英語はゲルマン語派に属し、ドイツ語やオランダ語と同じ枝から分かれました。フランス語は別の枝です。

英語の親戚は、ドイツ語やオランダ語

英語は印欧語族という大きな語族のなかの、ゲルマン語派に属します。ドイツ語やオランダ語は、同じゲルマン語派から分かれた兄弟のような言語です。

兄弟である証拠は、基本的な単語にはっきり残っています。water、father、mother のような毎日使う語や、one・two・three といった数の数えかたは、ドイツ語やオランダ語の対応する単語とよく似ています。借りてきたのではなく、同じ祖先から受け継いだから似ているのです。

フランス語は「いとこ」で、別の枝

英語にはフランス語由来の単語が大量にあります。そのため英語とフランス語を近い言語だと感じる人もいますが、系統で見ると両者は別の枝です。フランス語はラテン語から育ったロマンス諸語で、ゲルマン語派ではありません。

語彙は大量に借りても、文法の血筋までは変わらない。
英語はあくまでゲルマン語として生まれ、あとからフランス語の語彙を大量に取り込んだ言語です。

この「ゲルマン語として始まった」という出発点が、のちのち pig と pork のような語彙の二層を生む伏線になります。

英語は三つの時代を通って今の形になった

英語史では、英語の歩みを大きく古英語・中英語・近代英語に分けます。以下の1100年・1500年という境界は、長い変化を見渡すための目安です。1066年のノルマン征服は政治史上の転機ですが、その年に文法や発音が一斉に切り替わったわけではありません。

古英語・中英語・近代英語のおおよその区分と主な特徴を示す図
年代は便宜的な目安です。言語の変化や綴りの標準化は、時代区分をまたいで徐々に進みました。

古英語(約450〜1100年):屈折ゆたかな、別言語のような英語

5世紀ごろ、ヨーロッパ大陸からアングロ・サクソン人がブリテン島に渡ってきました。彼らの言葉が英語の土台です。

この時代の英語は、名詞が格・性・数によって形を変え、動詞も細かく変化する屈折のゆたかな言語でした。語の形そのものが「主語なのか目的語なのか」を示すため、語順はかなり自由でした。代表的な作品が叙事詩『ベーオウルフ』で、今の私たちが見ても、もはや外国語のように読めません。

中英語(約1100〜1500年):フランス語に揺さぶられた英語

1066年のノルマン征服後、支配層や宮廷ではフランス語が重要な位置を占め、英語には多くのフランス語由来の語が入ります。一方、英語の屈折が減る変化は征服前から始まっていました。

語尾の弱い母音が似た音になる音韻変化、古ノルド語との接触、方言どうしの接触などが重なり、語の形による区別がしだいに減っていきます。「フランス語に支配されたので、英語の語尾が消えた」と一つの事件だけでは説明できません。

このころの英語が中英語で、チョーサーの『カンタベリー物語』が有名です。古英語よりはぐっと今の英語に近づきますが、それでもまだ読みこなすには学習が要ります。

近代〜現代英語(約1500年〜):発音の変化と綴りの標準化

中英語末期から近代英語期にかけて、長母音の発音が大きく動く大母音推移が進みます。同じ時期には印刷も普及し、綴りの標準化が徐々に進みました。音の変化と書き方の統一は長期間重なっており、「先に綴りが完全に固定され、後から発音だけが変わった」という単純な順番ではありません。シェイクスピアや欽定訳聖書は初期近代英語の代表です。

三つの時代の特徴を並べると、変化の方向がはっきりします。

時代 およその時期 文法のすがた 関係する出来事・変化
古英語 約450〜1100年 屈折がゆたか・現代より語順の選択肢が多い アングロ・サクソン人の渡来
中英語 約1100〜1500年 屈折がすり減る・語順が固まりだす ノルマン征服/フランス語の流入
近代〜現代英語 約1500年〜 SVO語順の定着・綴りの標準化 大母音推移/印刷術の普及

この三つの時代をまたいで、英語を今の形に作りかえた力が、大きく三つあります。次からは、その力を一つずつ取り上げます。

格が消えると、語順が文法を背負うことになった

英語を今の姿にした力は、大きく三つに分けられます。格の喪失・ノルマン征服・大母音推移です。まずは一つ目、格の喪失からです。
古英語では、格語尾が「誰が・誰を」の区別を助けていました。語順にも規則はありましたが、現代英語より広い並べ方が使えました。語尾の区別が減るにつれ、名詞の文法上の役割を読み取るうえで、語順や前置詞の重要性が高まりました。

「主語→動詞→目的語」というSVOの並びが定着する変化と、屈折が減る変化は関連しています。ただし、古英語にも語順の規則があり、現代英語にも代名詞の he/him のような格の区別が残ります。「形か語順か」が完全に入れ替わったというより、文法を示す手段の比重が変わったのです。

なぜ英語が語順をここまで固定するのかは、次の記事でさらにくわしく扱っています。

なぜ英語はSVOの語順をほぼ崩せないのか

ノルマン征服が、英語に「二階建ての語彙」を作った

二つ目の力が、先ほど時代区分でも触れたノルマン征服です。これは文法だけでなく、英語の語彙にもはっきりした層を残しました。

征服後のフランス語との接触は、英語に多くの借用語をもたらしました。身近な例が、動物を表す語と肉を表す語の違いです。次の組では、日常の動物名とフランス語由来の肉の名が並んでいます。

動物を表す語 肉を表すフランス語由来の語
pig(豚) pork(豚肉)
cow(牛) beef(牛肉)
sheep(羊) mutton(羊肉)
calf(子牛) veal(子牛肉)
deer(鹿) venison(鹿肉)

この対応を「庶民が育て、支配層が食べたから」と説明する話は有名です。ただ、表だけから当時の食生活や階級分業を証明することはできません。語の借用時期や意味の変化、どの場面で使われたかも調べる必要があります。

pig/pork 型から確かめられるのは、由来の違う語が英語の中で役割を分けたということです。すべての動物名と肉の名が、この組み合わせになるわけではありません。

なぜ pig と pork で語が違うのかというテーマそのものは、次の記事で深掘りしています。

なぜ英語はpigとporkで語が違うのか

発音の変化と綴りの標準化は、同じ速さでは進まない

三つ目は大母音推移を含む音の変化と、綴りの標準化です。この重なりが、現代英語の「綴りと発音のズレ」を理解する手がかりになります。

中英語末期から数世紀にわたって、英語の長母音は大きく変わりました。たとえば name の強勢母音は長い /aː/ に近い音から、段階を経て現代の /eɪ/ へ、time の /iː/ は /aɪ/ へと変わりました。ここで比べているのは強勢のある母音で、語末の音の消失は別の変化です。

印刷は綴りの標準化を促しましたが、一度に固定したわけではありません。
書き手や印刷業者の慣習が集まり、一定の綴りが広がる過程にも時間がかかりました。その間も発音は変わるため、綴りには古い音や書き方の名残が残ります。

knife の k も、かつて /kn/ と発音していた名残です。ただし、k が発音されなくなるのは子音の変化で、大母音推移そのものではありません。綴りと発音のズレは、母音・子音の変化や書き方の慣習が重なった結果として考える必要があります。

綴りと発音のズレ、そして黙字については、次の記事でくわしく扱っています。

なぜ英語の綴りは発音と合わないのか

英語の語彙は、三つの地層でできている

ここまで見た「ゲルマン語としての出発」「フランス語の流入」「学術語の流入」は、英語の語彙に三つの地層を残しました。同じ意味の語が三つそろう「三つ組」を見ると、その層がよく分かります。

英語語彙をゲルマン基層・フランス借用・ラテンギリシャ学術語の三つの地層として示し、ask question interrogateを対応させた図
英語の語彙を、ゲルマン基層・フランス借用・ラテン/ギリシャ学術語の三つの地層として見た図です。

一番下の古い層が、日常語をなすゲルマン基層です。その上にノルマン征服以降のフランス借用が重なり、さらにルネサンス以降、ラテン語やギリシャ語からの学術語・専門語が積もりました。

日常(ゲルマン基層) あらたまった(フランス借用) 専門・学術(ラテン/ギリシャ)
ask(たずねる) question(質問する) interrogate(尋問する)
fire(火) flame(炎) conflagration(大火)
kingly(王らしい) royal(王の) regal(帝王の)

ゲルマン系の基礎語に対し、借用語が改まった場面や専門分野を担う傾向はあります。ただし三つの層は見取り図で、由来だけから難易度や語調が決まるわけではありません。ask と interrogate も、場面を選ばず交換できる同義語ではなく、尋ね方や意味に違いがあります。

「不規則」の成り立ちは、変化の種類ごとに読める

冒頭の謎を見直すと、補充法、音の消失、古い活用の保持という異なる経緯が見つかります。「化石」という比喩が役立つのは、現在の形に過去の痕跡を読み取れるからです。

went・be動詞・knifeの黙字といった今の不規則が、それぞれ歴史のどんな経緯の跡なのかを左右で対応させた図
今の不規則(左)が、それぞれ歴史のどんな跡(右)なのかを対応させた図です。

went は、別の動詞 wend の過去形だった

go の過去形が went なのは、go がもともと持っていた過去形が使われなくなり、別の動詞 wend(進む)の過去形 went が入り込んだからです。こうして別々の語源が一つの動詞にまとまることを補充法(suppletion)と呼びます。現代の文法では不規則な活用ですが、その成り立ちは別の動詞からの合流として説明できます。

goの過去形はなぜwentなのか(補充法)

be 動詞のバラバラさは、三つの語源の合流

am・is・are・was・were がそろっていないのも、同じ補充法です。これらはもともと別々の語源を持つ動詞で、それが一つの be 動詞の活用としてまとめられました。バラバラに見えるのは、複数の動詞が一つの役割に合流した名残だからです。

knife の黙字も、sing-sang-sung も、規則の化石

knife の k は、かつて発音されていた音が綴りに残ったものでした。一方、sing-sang-sung のような母音を変える変化は、ablaut(母音交替)と呼ばれるゲルマン語の古い規則の名残です。これらは英語の乱れではなく、昔の規則が形を変えて生き残った化石として読めます。

  • went・be 動詞のバラつき=別々の語源が合流した跡(補充法)
  • knife の黙字=かつて発音されていた音が綴りに残った跡
  • sing-sang-sung=ゲルマン語の母音交替(ablaut)の名残

まとめ:今の英語には、異なる変化の跡が重なっている

最初の問い――なぜ英語には不規則な形があるのか――に答えるには、変化を分けて見る必要があります。音の変化、別語源の合流、借用、ほかの語の型に引かれる類推などが、長い時間の中で今の形を作ってきました。

古英語から現代英語までの流れを一本の年代軸でたどり、いまの英語が積み重なった歴史であることを示した図
三つの時代をひと続きに見ると、いまの英語が「積み重なった歴史」だと分かります。

その目で見ると、不規則にも歴史をたどって説明できる道筋が見えてきます。古い形が残ることも、新しい変化が起きることもある。その両方を扱うのが英語史です。

この記事の要点

  • 英語史は、今の英語を時間でさかのぼって読み解く分野。
  • 英語はゲルマン語として始まり、ノルマン征服でフランス語の語彙を大量に取り込んだ。
  • 屈折の減少と語順の定着は長い変化。ノルマン征服の一件だけで文法が変わったわけではない。
  • 大母音推移などの音の変化と、綴りの標準化は重なって進んだ。
  • went・be 動詞・黙字には、それぞれ補充法や音の消失など異なる経緯がある。

FAQ:英語史についてよくある疑問

英語史についてよく聞かれる疑問を、時代区分と不規則の理由から振り返ります。

英語史はいつからいつまでを指しますか?

おおよそ5世紀、アングロ・サクソン人がブリテン島に渡ってきたころから現代までです。期間にしておよそ1500年を、古英語・中英語・近代英語の三つに区切って扱います。

なぜ英語は不規則が多いのですか?

音の変化、古い活用の保持、別の語の合流、類推や借用など、複数の経緯があります。同じ「不規則」という名前でも、went と knife では成り立ちが違います。

古英語は今の私たちが読めますか?

ほとんど読めません。古英語は今の英語とは別言語のように見えます。中英語のチョーサーになると今の英語の片鱗が見えてきますが、それでも読むには学習が必要です。

英語史を学ぶと何の役に立ちますか?

丸暗記してきた不規則の「理由」が分かるため、暗記が理解に変わります。語彙の難易度やニュアンスの違いも、どの層の語かで見当がつくようになります。

関連して読みたい記事

この記事で触れた個別の謎は、それぞれ次の記事でくわしく扱っています。あわせて読むと、英語史の地図がさらに細かくなります。

参考文献

英語史の全体像と、時代区分・変化の連続性を確認できる文献です。

  • Charles Barber, Middle English, The English Language, Cambridge University Press.
  • Norman Blake, Introduction, The Cambridge History of the English Language, Cambridge University Press.
  • 寺澤盾『英語の歴史―過去から未来への物語』中央公論新社(中公新書)
  • 中尾俊夫・寺島廸子『図説 英語史入門』大修館書店
  • 堀田隆一「hellog〜英語史ブログ」 http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/
  • Baugh, A. C. & Cable, T., A History of the English Language, Routledge.
  • Crystal, David, The Cambridge Encyclopedia of the English Language, Cambridge University Press.

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