【音声学Ⅷ】音声学における音の変化(帯気音化・母音鼻音化・長母音化)

言語学
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この『音声学Ⅷ』では「音声学における音の変化」について見ていきます。

これは〈音声学〉だけではなく〈音韻論〉でも扱われるトピックです。

その中でも当記事では、以下の3つの項目を扱います。

  1. 帯気音化 (aspiration)
  2. 母音鼻音化 (vowel nasalization)
  3. 長母音化 (vowel lengthening)

1つ目の〈帯気音化〉が子音と関係し、2つ目と3つ目は母音における音変化です。

また、当記事をご覧いただくにあたって、音声学に関していくつかの予備知識が必要となります。

具体的には、以下の3つの記事で説明された情報が関係してきます。

必要最低限の予備知識は当記事で簡単におさらいしますが、一応上記3つをご紹介しておきます。

母音と子音やIPAの基礎知識が必要となるかもしれませんが、ぜひ最後までご覧ください。

子音の種類・分類法・記述・具体例
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【予備知識1】音声学(Phonetics)とはどんな学問か?

本題に入る前に、そもそも音声学とはどんな学問か?ということに触れておきます。

音声学は、言語学の1つの分野であり、人間の言語の(物理的な)音に注目します。また、以下のように3種類の音声学が代表的です。

音声学の定義は「言語音がどうやって作られ、空気中を伝わり、耳で理解されるか」です。」

つまり音声学の定義は、人間の言語に使われている音が「どのように作られ」、「どのように空気中を伝播し」、「どのようにして聞き取られ理解されるのか」、を研究する学問です。

もっと知りたい

【音声学Ⅰ】音声学とは何か?定義/種類/音韻論との違いをわかりやすく解説

言語学における音声学の位置付け

ここで言語学全体における音声学の立ち位置を確認しておきましょう。

言語学の分類・種類「音声学・音韻論・形態論・統辞論・意味論・語用論」

言語には、大雑把に言うと「音」「構造」「意味」の3つの側面がありますが、音声学は、名前の通り言語の「音」に注目します。

つづいて、2つ目の予備知識を見ていきましょう。

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【予備知識2】IPAと言語音

予備知識の2つ目は、IPAと言語音(母音&子音)についてです。

非常に大雑把に言うと、音声学ではIPAという記号を用いて言語の音を記述します。

そして、(現代アメリカ)英語においては、母音と子音の合計2つの下記のようなIPAを用います。

【音声学】アメリカ英語における母音は舌の高低、舌の前後、円唇性から分類される

母音のIPAチャート

現代アメリカ英語における子音のIPAチャート

子音のIPAチャート

これらの母音と子音のIPA記号を用いて、下記のように記述します。

単語IPA記述
cake[keɪk]
though[ðəʊ]
arrive[əɹaɪv]

今回の記事で必要となる予備知識のおさらいは以上です。次から本題の「音声学における音の変化」について見ていきます。

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3つの音の変化

今まで見てきたように音声学では、言語の音をIPA記号を用いて記述します。

しかしながら面倒なことに、いくつかの言語音が何かしらの環境下で発音の変化を起こすケースが知られています。

そして、IPA記号を用いた記述においてもその音変化を示す必要があるのです。

つまり、

  • どの言語音がどんな環境下で変化を起こすのか?
  • その変化をIPAでどのように表現するのか?

この2つの問いを見ていく必要があります。

そして冒頭でも紹介したように、当記事では下記の3つの音変化を扱います。

  1. 帯気音化 (aspiration)
  2. 母音鼻音化 (vowel nasalization)
  3. 長母音化 (vowel lengthening)

1つずつ見ていきましょう。

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1. 帯気音化/有気音化 (aspiration)

〈帯気音化〉とは、特定の子音を発音した後に、次に続く母音が発音されるまでの間に、「h」のような息成分でできた音が挟まる現象のことを指します。

一般的に、帯気音化の対象となる子音は、とある環境下にある〈無声破裂音(voiceless stop)〉です。

現代アメリカ英語において帯気音化の対象となるのは、音節(syllable)の初めに位置する〈無声破裂音(voiceless stop)〉、すなわち[p], [t], [k]です。

下記の子音のIPAチャートで〈無声破裂音〉を確認しましょう。[p], [t], [k]が〈無声破裂音〉に該当します。

現代アメリカ英語における子音のIPAチャート

子音のIPAチャート

IPAでは、この〈帯気音化〉を表すためには、該当する子音の右上に小さなを記します。

[p][t][k]が帯気音化した[p][t][k]が帯気音化していない
単語IPA単語IPA
pin[phɪn]spin[spɪn]
pat[phæt]spat[spæt]
tub[thʌb]stub[stʌb]
cope[khoʊp][scope][skoʊp]
上記の表を通して、〈帯気音化〉の対象となるのは〈無声破裂音(voiceless stop)〉である[p, t, k]、IPAでは右上に小さなhが置かれていることが確認できます。

左側の単語のみが〈帯気音化〉を起こしている理由は、〈無声破裂音(voiceless stop)〉が音節の初めの位置(syllable initial position)に生起しているからです。

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2. 母音鼻音化 (vowel nasalization)

〈母音鼻音化〉とは、母音が後続する鼻音につられて鼻音化する現象を指します。

下記の子音のIPAチャートで英語の〈鼻音〉を確認しましょう。[m], [n], [ŋ]が〈鼻音〉です。

現代アメリカ英語における子音のIPAチャート

子音のIPAチャート

IPAでは、この〈母音鼻音化〉を表すためには、該当する母音の上に「̃」を記します。

鼻音化した鼻音化していない
単語IPA単語IPA
kin[kĩn]kid[kɪd]
bone[bõʊn]bole[boʊl]
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3. 長母音化 (vowel lengthening)

長母音化とは、有声音の前で母音の発音が長くなる現象を指します。

下記の子音のIPAチャートで英語の〈有声音〉を確認しましょう。赤色のマスが〈有声音〉に該当します。すなわち、それらの〈有声音〉の前に置かれる母音は〈長母音化〉します。

現代アメリカ英語における子音のIPAチャート

子音のIPAチャート

IPAでは、この〈長母音化〉を表すためには、該当する母音の横にːを記します。

長母音化した長母音化していない
単語IPA単語IPA
kid[khɪːd]kit[khɪt]
bed[bɛːd]bet[bɛt]
上記の表からわかるように、母音(今回の例では[ɪ],[ɛ])は有声音(今回の例では[d])の前で〈長母音化〉しています。
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全体のまとめ

以上で『音声学Ⅷ』は終了です。今回は「音の変化」を3つ見てきました。

下記、今回のポイントです。

  • 帯気音化 (aspiration)
    ➤特定の子音を発音した後に、次に続く母音が発音されるまでの間に、「h」のような息成分でできた音が挟まる現象
    ➤該当する子音の右上に小さなをつける
  • 母音鼻音化 (vowel nasalization)
    ➤母音が後続する鼻音につられて鼻音化する現象
    ➤該当する母音の上に「̃」をつける
  • 長母音化 (vowel lengthening)
    ➤有声音の前で母音の発音が長くなる現象
    ➤該当する母音の横に「ː」をつける

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