【言語学】生成文法vs認知言語学-両者の違いと共通点

生成文法と認知言語学の違いをわかりやすく説明します 言語学
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言語という驚くべき能力は、私たち人間のもつ最も顕著な特徴の一つです。そして、その言語をどのように理解し、解析するかに関して、言語学という学問は数多くの理論やアプローチを提案してきました。中でも「生成文法」と「認知言語学」という二つの理論は、特に注目されている主要なアプローチとして知られています。

しかし、これらのアプローチはどのように異なるのでしょうか?なぜ言語学者はこれらの理論を用いて言語を研究するのでしょうか?

この記事では、これらの疑問に答えるため、生成文法と認知言語学の主要な違いを明らかにしていきます。それにより、読者の皆様がこれらの理論の背景と、言語に関するそれぞれの見解を深く理解できることを目指します。

生成文法と認知言語学の違いと共通点
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この記事の構成

まずは当記事の全体像を示しておきます。

この記事の構成

  • 生成文法の概要
  • 認知言語学の概要
  • 生成文法と認知言語学の3つの違い
  • 生成文法と認知言語学の4つの共通点
  • どちらのアプローチが正しいのか?

上記の内容と流れで生成文法と認知言語学のそれぞれの理解を深めていきましょう。

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生成文法の概要

生成文法という言葉を初めて耳にする方も多いかと思います。これは、20世紀中盤から注目されるようになった言語学の理論で、主にアメリカの言語学者ノーム・チョムスキーによって提唱されました。この理論は、言語の構造を探求し、人間が持つ普遍的な文法能力を探ることを中心としています。

ここからは、生成文法における主要な考え方を3つ見ていきます。

表層構造と深層構造

生成文法の中心的な考え方としては、私たちが日常で使用する言語の背後にある深層的な構造、すなわち「深層構造」と、それがどのように表現されるかの「表層構造」が存在するということです。これらの構造を通じて、異なる言語や方言に共通する基本的な構造やパターンを解明しようとする試みが行われています。

例えば、日本語の「彼は走る」と英語の「He runs」は異なる表現をしていますが、これらの背後には同じような文の構造が存在するというのが、生成文法の一つの視点です。

言語の普遍性と固有性

さらに、生成文法は「言語の普遍性」と「固有性」にも注目しています。すなわち、すべての人間が生まれながらに持っている、普遍的な文法の原則と、特定の言語や文化に特有の文法の差異を研究しています。

言語の普遍性とは、異なる言語間に見られる共通の特性やパターンを指します。これは、世界中の数千の言語が異なる文化や歴史を持ちながらも、一定の文法的な原則や構造に従っていることから、言語学者たちはその背後に共通のメカニズムや原則が存在するのではないかと考えてきました。

生成文法の観点から言うと、言語の普遍性は私たちが生まれつき持っている普遍的な文法の原則に由来しているとされています。これは「普遍文法」とも呼ばれ、すべての人間に共通する言語の骨格やフレームワークと考えられています。

例として、世界中の人言語には「再帰」と呼ばれる特徴があることが知られています。再帰というのは、文の中にさらに文を埋め込める特徴のことを指します。例えば、日本語では「太郎は」これらの共通点は、言語の普遍的な原則が影響している可能性が考えられます。

言語の普遍性を研究することは、人間の言語能力の根底にあるメカニズムを理解する上で極めて重要です。なぜなら、異なる文化や背景を持つ言語が共通の構造や原則に基づいていることを知ることで、言語を超えた人間の共通の認知機能に迫ることができるからです。

言語の習得と生得説

そして、言語の習得に関しては「生得説」が提唱されています。これは、人間は生まれつき言語を習得するための能力を持っているとする考え方で、このため子供たちは非常に短い期間で複雑な言語の構造を学ぶことができるのです。

生成文法は、言語の深層的な構造を明らかにすることで、私たちの言語能力の本質や、言語の普遍的な特性についての理解を深める試みとして、多くの研究者や学生に支持されています。

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認知言語学の概要

次に認知言語学の概要を見ていきます。

当サイトは認知言語学についてかなり詳細のコンテンツを作成していて詳細は【認知言語学概論①】認知言語学とは何か?定義と具体例をわかりやすく解説に譲りますが、ここでも簡単に説明しておきます。

認知言語学は1970年代後半から1980年代初頭にかけて注目を集め始めた比較的新しい言語学の分野です。このアプローチは、言語を人間の認知の一部として捉え、認知プロセスが言語の形成や使用にどう影響しているかを中心に研究します。

主要な学者とその業績

  1. ジョージ・レイコフ (George Lakoff): 彼は、言語のメタファーに関する研究で知られています。私たちが日常的に使う表現が、実は深いメタファー的な意味を持つことを明らかにしました。例えば、「時間はお金だ」という表現は、時間の価値をお金という概念で理解することを示しています。
  2. マーク・ジョンソン (Mark Johnson): レイコフとともに、身体的経験が言語や思考にどのように影響を与えるかを探求しています。彼らの共著『Metaphors We Live By』は、この分野の基礎的なテキストとして広く知られています。
  3. ロナルド・ランゲッカー (Ronald Langacker): 彼は、認知文法の提唱者として知られ、語や句、文の意味が認知プロセスとどう関連しているかを詳細に研究しました。

認知言語学の歴史は、これらの学者をはじめとする研究者たちの業績に支えられています。彼らは、言語の形式や構造だけでなく、それが私たちの認知や経験とどのように関連しているかを深く探求し、言語学の新しい地平を開拓しました。

認知言語学の基本スタンスと歴史を見たところで、ポイントとなるいくつかの概念を見ていきます。繰り返しになりますが、認知言語学は、言語を人間の認知の一部として捉える学問分野です。以下はその主要な考え方や視点を具体例とともに紹介します。

言語のカテゴリ化と概念化

認知言語学において、私たちが物事をカテゴリ化する方法は、単純な固定的なラベルを超えたものとされています。例えば、鳥を思い浮かべてみてください。多くの人が「スズメ」や「カラス」といった一般的な鳥をイメージするかもしれませんが、実際には「ペンギン」や「オウム」も鳥のカテゴリに属します。このように、中心的な例(スズメ)と周辺的な例(ペンギン)の間には、カテゴリの柔軟性が存在すると考えられています。

【認知言語学概論④】カテゴリー化(古典的カテゴリー理論とプロトタイプ理論)を具体例とイラストでわかりやすく解説

経験と文化の役割

言語は私たちの日常的な経験や文化的背景に深く根ざしています。例えば、日本語では「花が咲く」と表現しますが、英語では”Flowers bloom”と言います。このような違いは、言語ごとの経験や文化の違いが反映されていると言えます。

メタファーと概念のマッピング

認知言語学は、私たちが物事を理解するために使用するメタファーに大きな関心を持っています。例として、「時間はお金だ」というメタファーを考えてみましょう。このメタファーを通じて、私たちは時間を「使う」「節約する」「浪費する」という言葉で表現することができます。これは、時間という抽象的な概念を、具体的なもの(お金)を通じて理解しようとする私たちの試みと言えます。

【認知言語学概論③】比喩(メタファー・メトニミー・シネクドキ)について定義と具体例をわかりやすく解説

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生成文法と認知言語学の違い

さて、生成文法と認知言語学のそれぞれの基本スタンスや主要な考え方を見てきたところで、早速本題の両者の違いについてご紹介します。

挙げるときりがないのですが、今回は特に違いが鮮明に際立つ3つの観点をご紹介します。

形式的アプローチ vs. 認知的アプローチ

形式的アプローチ

生成文法のような形式的アプローチは、言語の内在的な構造や規則性に焦点を当てます。言語の普遍的な特性や文の構造を理論的にモデル化することを重視します。

認知的アプローチ

認知言語学は、言語を人間の認知の一部として捉えます。このアプローチは、言語が私たちの知覚、経験、感情などといった認知プロセスとどのように関連しているかを中心に研究します。例えば、私たちの身体的経験や感覚が言語のメタファーや意味構造にどのように影響を与えているかを考察します。

言語の習得と使用に関する考え方の違い

形式的アプローチ

生成文法は、人間が生得的に言語を習得する能力を持っていると主張します。この視点では、特定の文法的な構造や規則が人の心の中に組み込まれていると考えられます。

認知的アプローチ

認知言語学は、言語習得は私たちの日常的な経験や知覚と密接に関連していると考えます。子供が言語を学ぶ過程は、その環境や体験との相互作用の中で自然に進行するとされます。

言語の普遍性に対する見解の相違

形式的アプローチ

生成文法は、すべての人間言語に共通する普遍的な文法が存在すると主張します。この普遍的な文法は、人間の言語能力の生得的な部分を反映しているとされます。

認知的アプローチ

認知言語学者は、言語の多様性は私たちの身体的、文化的、社会的な経験の違いから来ると考えます。同じ現象でも異なる文化や言語背景を持つ人々が異なる言語的表現を持つことは、その経験や視点の違いを反映しています。

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生成文法と認知言語学の共通点

両者の違いについて見てきましたが、キレイなコントラストが織りなされていることをわかっていただけ高と思います。

同じ言語学に属していながらも、こんなにも対照的な両者ですが、もちろん共通点だって存在します。

次に生成文法と認知言語学の共通点を4つ取り上げます。

言語の研究の重要性

両者とも、言語は人間の認知や社会における重要な側面であると認識しています。言語の理解は、人間の思考や行動、文化や社会といった多くの側面に深く関連しているため、その研究は非常に価値があると考えられています。

普遍性と変異のバランス

両アプローチとも、言語の普遍的な特性と言語間の変異を考慮することが必要だと考えています。認知言語学と生成文法はそのアプローチや焦点が異なるものの、両者ともに言語の普遍性や変異性を理解することの重要性を認識しています。

理論的フレームワークの構築

両者とも、言語の構造や機能を理解するための理論的なフレームワークを構築することに努めています。この理論的背景は、言語の研究や理解を深めるための基盤として機能します。

実証的データの重要性

実際の言語使用の例やデータは、両アプローチにおいて非常に重要です。実証的なデータを元に、理論やモデルの妥当性を評価し、必要に応じて修正や拡充を行うことが求められます。

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どちらのアプローチが「正しい」のか?

いきなり結論ですが言語学の研究において、一つの「正しい」アプローチや理論が存在するわけではありません。生成文法と認知言語学のような異なる理論やアプローチは、言語の異なる側面や機能を照らし出すものとして捉えることができます。

異なる問題や目的に対する異なるツールとしての理論

生成文法

生成文法は、言語の深層的な構造や、人間が持つ生得的な言語能力を理解するための強力なツールとなり得ます。特に、言語の普遍的な特性や、異なる言語間での共通の文法的構造を探求する際に有効です。

認知言語学

認知言語学は、言語が私たちの日常的な経験や知覚とどのように関連しているかを明らかにするためのアプローチとして特に有効です。言語と思考、感覚、文化との相互関係を探る際には、認知言語学のフレームワークが魅力的な視点を提供します。

複数の視点から言語を理解する重要性

言語は非常に複雑で多面的な現象であり、一つのアプローチや理論だけではその全体像を捉えることは難しいでしょう。生成文法と認知言語学のような異なる視点やアプローチを採用することで、言語の異なる側面や機能をより深く理解することが可能になります。それぞれのアプローチが持つ強みや限界を理解し、それらを補完的に用いることで、言語学の研究はより豊かで多様なものとなるでしょう。

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この記事のまとめ

言語学の領域には多様なアプローチや理論が存在します。このブログでは、生成文法と認知言語学という二つの主要なアプローチに焦点を当て、その概要、主要な違い、共通点を探求しました。

  • 生成文法は、言語の内在的な構造や規則性、そして人間の生得的な言語能力を重視する形式的なアプローチを取ります。
  • 認知言語学は、言語を人間の認知の一部として捉え、私たちの日常的な経験や知覚との関連性を中心に研究します。

両アプローチは異なる視点や方法論を持ちつつも、言語の普遍的な特性や変異性を理解し、その複雑な構造や機能を明らかにしようとする共通の目的を持っています。研究者や学者の間での議論や異なる見解は、言語学の進歩や発展に寄与しています。

最後に、言語学は常に進化している分野であり、新しい研究や発見が続々と行われています。生成文法や認知言語学の枠組みを超えて、さらなる深い理解や新しい視点を探求することが、今後の言語学の発展の鍵となるでしょう。

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