Colorless green ideas sleep furiously.
「無色の緑の考えが猛烈に眠る」。意味はかなり奇妙です。それでも、英語の文らしい形はしています。では、同じ語をほぼ逆順に並べた Furiously sleep ideas green colorless. はどうでしょう。こちらは、意味を考える前に形が壊れているように感じられます。
どちらも学校で習う例文ではありません。それなのに差が分かる。この反応を手がかりに、頭の中の文法を探るのが文法性判断です。
ただし、「文法的であること」と「自然に感じること」は同じではありません。生成文法の研究では、この2つを分けたうえで、人の反応から内在文法を慎重に推測します。
具体例と実験の考え方をたどりながら、その違いをほどいていきましょう。
生成文法とはなにか?
まずは、生成文法の定義を確認しておきましょう。
生成文法が中心に置くのは、学校で習う規則の一覧ではなく、話し手が意識せずに使っている言語知識です。生成文法の定義、基本発想、理論の変遷は、【生成文法】生成文法とは?定義・特徴・歴史をわかりやすく解説で詳しく解説しています。文法性判断は、その見えない知識を探るための大切な手がかりになります。
文法性判断とは?習っていない文にも働く「文の感覚」
文法性判断とは、ある語の並びが自分の言語の文として成り立つかどうかを判断することです。英語では grammaticality judgment と呼ばれます。
「文法」と聞くと、学校で教わる正誤ルールを思い浮かべるかもしれません。しかし、ここでいう文法は、試験の採点基準ではありません。母語話者が意識せずに身につけている、語を句や文へ組み立てる知識です。
たとえば、The book that I bought yesterday was heavy. という文を初めて読んでも、関係節がどこまで続き、主節の主語と動詞がどれかをたどれます。The book that my sister recommended was surprisingly difficult. と中身を入れ替えても同じです。
どちらも丸ごと暗記した文ではないはずです。それでも、構造に沿って理解できます。人は聞いたことのない文にも、語順や階層構造の知識を当てはめられます。

教わっていない文なのに、どうして「これは変だ」と分かるんですか?

単語の記憶だけでなく、文を組み立てる知識も身についているからです。ただし「変だ」という反応には、文法以外の原因も混ざります。
この「文法以外も混ざる」という点が、文法性判断を正しく理解するカギです。
文法的な文でも、意味が奇妙なことはある|チョムスキーの有名な例
Colorless green ideas sleep furiously. は、ノーム・チョムスキーが『Syntactic Structures』(1957)で示した有名な例です。形容詞が名詞を修飾し、名詞句が主語になり、動詞に副詞がかかる。英語の統語構造には沿っています。
ところが、色のないものが緑であり、考えが眠るという組み合わせは、通常の世界知識では理解しにくい。つまりこの文は、統語的には整っている一方、意味の上では奇妙に見えるわけです。
ここから「統語と意味は完全に無関係だ」とまでは言えません。比喩や詩の文脈を与えれば、意味を読み込むこともできます。それでも、語の意味が奇妙かどうかと、語が英語の構造に従っているかどうかを分けて考えられることは分かります。
| 例 | 形・構造 | 意味・文脈 |
|---|---|---|
| Colorless green ideas sleep furiously. | 英語の構造に沿う | 通常の解釈では奇妙 |
| Furiously sleep ideas green colorless. | 語順が英語の構造から外れる | 解釈以前に形が崩れる |
| The book that I bought yesterday was heavy. | 関係節を含む構造に沿う | 自然に解釈できる |
文法性判断が生成文法で重視された理由の一つは、こうした対比から、目に見えない構造上の制約を探れるからです。
「文法性」と「容認可能性」は同じではない
日常会話では「文法的」と「自然」を同じ意味で使いがちです。研究では、できるだけ区別します。

| 用語 | 何を指すか | 直接観察できるか |
|---|---|---|
| 文法性 grammaticality |
仮定した文法が、その文の構造を許すか | 直接は見えない。理論とデータから推測する |
| 容認可能性 acceptability |
人が、その文をどの程度自然・受け入れ可能だと感じるか | 評定や選択として観察できる |
たとえば、次の文は構造をたどれますが、入れ子が深いため読みづらくなります。
ジャーナリストが取材した上院議員が批判した報告書は長かった。
文法が許していても、作業記憶への負荷が高ければ容認度は下がります。逆に、会話でよく耳にする形は、規範文法で避けるよう教えられていても自然に感じられることがあります。
生成文法は、文法性判断から「内在文法」を推測する
生成文法が説明しようとするのは、正しい英文の一覧ではありません。有限の語彙と規則から、初めて出会う文を作り、理解し、一定の制約に反する文を退けられる仕組みです。
この仕組みは、しばしば内在文法やI-languageと呼ばれます。頭の中を開いて規則一覧を直接取り出すことはできないため、研究では話す・理解する・判断するといった反応から、その中身を推測します。
有限の規則から、初めての文を作れる
関係節を重ねると、文は理論上いくらでも伸ばせます。
同じ構造を再び組み込めるため、暗記していない長い文も作れる。
実際には記憶や時間に限界があるので、無限に長い文を発話することはできません。それでも、文法の仕組みと、現実の使用時にかかる処理の限界を分けると、有限の規則から無数の文を生み出せる能力を説明しやすくなります。「生成文法」の「生成」は、この意味で文の集合を生み出すことです。
言語能力と実際の言語運用を分ける
チョムスキーは、話者が持つ言語知識である言語能力(competence)と、記憶・注意・言い間違いなども含む実際の言語運用(performance)を区別しました。
文法性は、言語能力を記述する文法が、ある構造を許すかという理論上の性質です。一方、実際に得られる容認度の反応には言語運用も入り込みます。したがって、判断を集めるだけで内在文法がそのまま見えるわけではありません。
文法性判断には、文法以外の要因も混ざる
同じ人でも、文脈や提示方法が変わると評価が揺れることがあります。人どうしで判断が分かれるのも珍しくありません。

処理負荷
長い依存関係や深い埋め込みは、文法的でも理解に時間がかかります。途中の語を覚えておく負担が大きいほど、「変な文だ」という評価につながりやすくなります。
文脈と意図
単独では不自然な文も、質問への答え、対比、皮肉などの文脈があれば自然になることがあります。記号の # は、構造違反ではなく、想定した意味や場面では不適切だと示すために使われることがあります。
頻度と慣れ
見慣れない構文は低く評価されやすく、繰り返し触れると受け入れやすくなる場合があります。方言、年代、所属する言語共同体によっても、日頃接する形は違います。
規範意識
学校やスタイルガイドで避けるよう教わった形を、「自分なら使わない」という理由で退けることもあります。たとえば Who did you speak to? のような前置詞残置は、古い規範では避けられることがあっても、現代英語で広く使われる構造です。
こうした要因はノイズとして切り捨てるだけのものではありません。言語処理、変異、習得を研究する大切な手がかりにもなります。ただ、内在文法の制約を知りたい場面では、どの要因が評価を動かしたのかを区別しなければなりません。
文法性判断を研究データにする4つの工夫
一人の言語学者が「私には変に聞こえる」と言っただけでは、強い証拠にならない場合があります。差が微妙なほど、条件をそろえた調査が必要です。

1. 最小対で、違いを一つに絞る
最小対とは、調べたい部分だけが異なる文の組み合わせです。
- The key to the cabinets is on the table.
- *The key to the cabinets are on the table.
主語の中心は単数の key なので、標準英語の一致では is が対応します。ただし直前の複数名詞 cabinets に引かれ、are が一瞬よく見えることがあります。これは、一致の文法と処理上の「誘引」を分けて考える例です。
2. 二択だけでなく、段階で評価する
判断は「完全に正しい/完全に間違い」の二択とは限りません。尺度を使うと、「少し不自然」「かなり不自然」といった勾配を記録できます。どの尺度が適切かは、研究の問いに合わせて決めます。
3. 複数の話者と複数の例を使う
一つの文、一人の反応に依存せず、同じ構造を持つ複数の例を用意します。調査対象の文だけを並べると狙いが伝わってしまうため、フィラーと呼ばれる別タイプの文を混ぜ、提示順も調整します。
4. 文法要因と処理要因を切り分ける
語の長さ、頻度、意味のもっともらしさ、文脈などをそろえ、調べたい条件差が反応にどう現れるかを比べます。差が大きく明瞭な例では非形式的な判断も有用ですが、微妙な差や理論上重要な差では、実験による再検証が力を発揮します。
例文の「*」「?」「#」は何を表すのか
統語論の本や論文では、例文の前に記号が付きます。これは句読点ではなく、その例に対する判断の目安です。
| 記号 | よくある意味 | 読むときの注意 |
|---|---|---|
| 記号なし / ✓ | 容認される | すべての文脈で自然という意味ではない |
| * | 非文法的、または強く容認されない | 何の違反を表すかは本文の分析で確かめる |
| ? | やや不自然、判断が揺れる | 個人差や文脈差がありうる |
| ?? | ? より容認度が低い | 段階の刻み方は著者によって異なる |
| # | 想定した意味・文脈では不適切 | 統語構造そのものは成り立つ場合がある |
記号の使い方は論文や研究分野によって少し違います。とくに * を、話者がしてはいけない誤りを示す赤ペンの印のように受け取ってはいけません。ある分析のもとで、その構造が許されないという技術的な表示です。
文法性判断から、目に見えない移動や階層構造を探る
生成文法で重要なのは、単語の横並びよりも階層構造です。表面に同じような語が並んでいても、どの句の内側に入っているかで判断が変わります。
疑問詞の移動には、出られる場所と出にくい場所がある
次の空所 __ は、疑問詞 who が解釈される位置を表します。
- Who did Emma say that Liam invited __?
- *Who did Emma hear the rumor that Liam invited __?
どちらも who と invited の目的語位置を結びつけます。しかし2では、疑問詞が名詞句 the rumor that … の内側から外へ出るため、標準的な分析では強い制約にぶつかります。
発音されない位置と移動の考え方は、生成文法の「痕跡(trace)」の記事で、具体例から詳しく扱っています。
日本語では、格助詞と文脈も判断に関わる
日本語は英語より語順を動かしやすく、「太郎が花子に本を渡した」の要素を入れ替えても、格助詞が役割を示します。ただし、どの並びも同じ場面で同じように自然なわけではありません。焦点や旧情報・新情報が変わるからです。
生成文法は語順の自由さを「規則がない」とは考えません。許される移動、基底となる構造、談話条件を区別して分析します。詳しくは日本語の語順を生成文法から考える記事で解説しています。
子どもの言語獲得と普遍文法へ、どうつながるのか
子どもは、限られた入力から新しい文を理解・産出し、特定の構造には一貫した制約を示します。生成文法は、その一部を生得的な言語能力で説明しようとしてきました。これが普遍文法の仮説へつながります。
言語ごとに表面の語順や形は違います。それでも、語を階層的に組み合わせることや、離れた要素どうしに依存関係ができることは、多くの言語で観察されます。表面の違いの下にどんな共通設計があるのかという問いが、生成文法を動かしてきました。
文法性判断は、この仮説を検討する証拠の一つです。聞いた回数だけでは説明しにくい制約を、話者が共有しているように見えるからです。
ただし、一組の判断結果だけで普遍文法が証明されるわけではありません。 どんな入力を受けたか、一般的な学習能力でどこまで説明できるか、言語間で同じ制約が見つかるかを合わせて検討する必要があります。普遍文法は、観察事実そのものではなく、その事実を説明するための理論仮説です。
生成文法の全体像、刺激の貧困、普遍文法、生物言語学の関係は、生成文法とは何かをまとめた入門記事で俯瞰できます。
文法性判断は「主観」だから科学ではないのか
判断は人の反応なので、物差しで長さを測るようにはいきません。それでも、主観的な反応を扱うことと、方法が恣意的であることは別です。心理学が記憶や知覚の反応を実験で扱うのと同じように、条件を統制し、予測を立て、再現性を確かめられます。
生成文法の研究では、おおむね次の手順を行き来します。
- 対照的な例から、構造上の一般化を見つける。
- その一般化を説明する文法仮説を立てる。
- まだ調べていない文や別の言語について予測する。
- 判断実験、コーパス、言語処理、言語獲得などの証拠で確かめる。
- 合わない結果が出れば、仮説や補助仮説を修正する。
ここには科学哲学上の大事な点があります。観察されたのは「参加者が尺度の4を選んだ」といった反応であり、「その文は内在文法で生成されない」という結論は理論に基づく解釈です。観察データと理論上の性質を分けて記述するからこそ、どこが反証され、どこを修正すべきかが明確になります。
判断だけに頼らず、自然な発話のコーパス、読み時間、眼球運動、脳活動、子どもの理解などを組み合わせれば、説明はさらに強くなります。一つの測定法を絶対視せず、異なる証拠が同じ構造を指すかを見るわけです。
なお、言語を独立した計算体系として重く見る生成文法と、使用頻度・意味・一般認知との連続性を重く見る認知言語学では、判断の説明にも違いがあります。対立点と重なりは生成文法と認知言語学の比較記事で扱っています。
まとめ:文法性判断は、反応から内在文法を探る入口
最初の問いは、「人の自然/不自然という反応から、頭の中の文法はどこまで分かるのか」でした。
反応は、内在文法を探る強力な手がかりになります。習っていない文でも判断でき、最小限の違いに反応し、階層構造に応じた一貫した差が現れるからです。
一方で、反応は内在文法の写しではありません。処理負荷、文脈、頻度、規範意識も混ざります。だからこそ、文法性という理論上の性質と、容認可能性という観察可能な反応を区別する必要があります。
今回の要点
- 文法性判断は、語や文が内在文法に照らして成り立つかを判断すること。
- 文法性は理論上の性質、容認可能性は人が示す反応であり、同じではない。
- 意味が奇妙でも統語的に成り立つ文があり、統語と意味は区別して分析できる。
- 最小対、尺度評定、複数人の反応、条件統制によって判断を検証可能なデータにする。
- 判断は普遍文法を含む理論を検討する証拠になるが、それだけで理論を証明するわけではない。
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- 痕跡(trace)とは?発音されない位置から移動を考える
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- unhappy は言えて unbig は言えない理由
参考文献
- Chomsky, Noam. 1957. Syntactic Structures. Mouton.
- Chomsky, Noam. 1965. Aspects of the Theory of Syntax. MIT Press.
- Schütze, Carson T. 2016. The Empirical Base of Linguistics: Grammaticality Judgments and Linguistic Methodology. Language Science Press.
- Sprouse, Jon, Carson T. Schütze & Diogo Almeida. 2013. A comparison of informal and formal acceptability judgments using a random sample from Linguistic Inquiry 2001–2010. Lingua 134.
- Warstadt, Alex, Amanpreet Singh & Samuel R. Bowman. 2019. Neural Network Acceptability Judgments. Transactions of the Association for Computational Linguistics 7.


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