この記事では、〈助動詞〉の will について扱います。
will と聞くと、『未来』や『意志』としての使い方が有名ですが、実はその他にも『習慣』や『能力』の意味を表す用法も存在します。
そして、それらのwillの用法に共通するコアイメージを見出すことも可能です。
今回は、そんな助動詞の will のあらゆる「用法」と「コアイメージ」を見ていきましょう。
法助動詞の2つの用法
はじめに、助動詞の全体像をお話します。
今回のメインとなる助動詞 will は、助動詞の中でも〈法助動詞〉と呼ばれるグループに分類されています。
・『〈法助動詞〉とは何か?』
・『そもそも助動詞にはいくつ種類があるのか?』
このような助動詞の大まかな説明や全体像については、ぜひこちらをご参照ください↓
➤➤【助動詞】 助動詞の種類・分類について
そして、will を含む〈法助動詞〉には、大きく2つの種類の用法が存在すると言われています。
それが、〈根源的用法〉と〈認識的用法〉というものです。
今の段階では、それぞれの用語の意味が難しく感じられても問題ありません。具体的な用法や例文を見ていけば、最後にはこの意味も理解していただけるはずです。
それでは、 ①will の〈根源的用法〉と ②will の〈認識的用法〉 をそれぞれ例文を交えて見ていきましょう。
① will の〈根源的用法〉
willの〈根源的用法〉としての意味は次のようなものがあります。
『意志』を表す
まずは、『意志』を表す用法から見てみましょう。
「真実をお話します」
『意志』の用法はIf節中で使用可能
「もし私を助けてくれる意志があるなら、お金を支払います」
「もし明日助けてくれたら、お金を支払います」
‣【時制&接続詞】『If節中の現在形』を紐解く3つのアイデア
『話し手の意志』を表す
この『意志』の用法は、主語が2人称(you)の場合は『話し手(I)の意志』を表します。
「荷物をまとめてこの家から出て行っておくれ」
発話内容で言及されている行為(ここでは「荷物をまとめて家を出て行く」という行為)が達成されるのを、話し手が見届けるという強い意志が込められています。そのため、主語がyouでも『話し手の意志』を表すことが可能となっています。
疑問文では『依頼・勧誘』を表す
『意志』に関する最後の補足です。
『意志』の用法が疑問文で用いられると、『依頼・勧誘』の意味になります。
「この手紙を投函してくれませんか?」
「今晩散歩に行きませんか?」
〈語用論的用法〉で注意すべきなのは、will に『依頼』や『勧誘』の意味は本来無いが、場面によっては『依頼』や『勧誘』の意味として伝達されるという点です。「意味は本来無いのに、その意味として伝達される表」とはどういうことでしょうか? それは、日本語の「時計持ってる?」という表現が場面/状況によっては「時間教えて」という意味で伝達されるのと同じ理屈です。言うまでもなく「時計持ってる?」という言葉そのものには「時間教えて」という意味はありません。しかし、場面や状況(=コンテキスト)によっては「時間教えて」という意味として伝達されることになるのです。言語学の話になりますが、「言語そのものが持っている意味」を対象にする言語学を(狭義の)〈意味論〉、「特定のコンテキストにおいて伝達される意味」を対象とする言語学を〈語用論〉と呼びます。(「広義の意味論」では、語用論も含まれます)
『拒絶』を表す
2つ目に『拒絶』を表す用法を紹介します。
「トムは私の話を聞こうとしない」
この『拒絶』の用法は、先ほどの『意志』の用法が否定文において使われたもの と解釈することも可能です。『意志』と『拒絶』を一括りにするかどうかは意見の分かれ所です。
『固執』を表す
次に『固執』を表す用法を見てみましょう。
「トムはその車を買うといってきかない」
『習慣』を表す
will には『習慣』を表す用法もあります。
「トムは決まって息子の自慢をする」
『能力』を表す
「このホールは500人収容できる」
『能力』と聞くと”can”を思い出されるかもしれませんが、willの場合の方が用法の制約が存在します。具体的な制約としては、①無生物が主語の場合 ②使用される動詞がseat(収容する), hold(留める)などに限定されている、などが挙げられます。
[例文] This pin will not hold this. 「このピンではこれは留まらない」
『傾向・習性』を表す
『傾向・習性』という言葉は、先ほどの『習慣』と似た響きですが、『傾向・習性』を表す場合、主語に置かれるのは3人称の無生物になります。
2つ前の『習慣』を再度確認しておきましょう。
「トムは決まって息子の自慢をする」
「事故は起こるものである」
この『傾向・習性』の用法は、前述の『能力』の用法と同一と見なす立場もあります。ここにも〈曖昧性〉が影響しています。
Q.will の『傾向・習性』と〈現在時制〉の違いは?
ご存知の方も多いと思いますが、『傾向・習性』というのは、〈現在時制〉によって表現することも可能です。
そこで浮かび上がってくるのが次のような疑問です。
この話題に関しては、別の記事で扱っています。ぜひ合わせてご確認ください。
➤➤【助動詞】willと現在形が表す『習慣』の違い
〈根源的用法〉のまとめ
以上で〈根源的用法〉の紹介は終了です。
willの〈根源的用法〉を一度まとめます。
この後の〈認識的用法〉の説明の後に、全ての用法の例文をまとめて再度掲載しているので、そちらでご確認いただければ幸いです。
② will の〈認識的用法〉
続いては、willの〈認識的用法〉を見てみたいと思います。
will の〈認識的用法〉には、次の2種類があります。
(2)『未来』を表す
しばしば『willは未来を表さない』との指摘もありますが、『未来』を示すwillの用法も認められています。
「もしそんなこと言ったら、トムを怒らせることになるよ」
上述の例文において、その話し手は、「条件節(If節)の物事が起これば、必然的に主節(帰結節)の内容も起こる、即ち主節の内容は当然の帰結である」と判断しているため、この will は〈推量〉や〈意志〉などの用法ではなく、確実な〈未来〉の用法と見なせると言われています。 【参考 中野(2014: 137)】
「The 比較級 ~, the 比較級 …」
受験英語で頻繫に登場する「~すればするほど、ますます…だ」という構文に登場するwillも『未来』の用法だと解釈できます。
「年を取れば取るほど、ますます君の記憶力は悪くなる」
前半の内容(今回の場合は「年を取る」という内容)が起きた場合、後半の内容(「記憶力が悪くなる」という内容)は必然的・当然的に起こるものであると話者は認識しているため、このwillは『未来』の用法だと考えられます。
「命令文, and ~」
willの『未来』の用法の最後の例は、これまた受験頻出の「○○しなさい、そうすれば~」という命令文の表現です。
「一生懸命勉強しなさい。そうすれば君はその試験に合格するよ」
[例文] Know the answer, you will get 10 points.「答えが分かれば、10ポイント獲得です」
[c.f] × Know the answer.「答えを知りなさい」
この構文でも、命令文の内容(今回の場合は「一生懸命勉強する」という内容)を実行した場合、and以下の帰結節の内容(「その試験に合格する」という内容)は必然的・当然的に起こるものであると話者は認識しているため、このwillは『未来』の用法だと考えられます。
Q. be going to との違いは?
will の『未来』の用法とよく比較されるのが、be going to です。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
➤➤【助動詞】will と be going to の違い
(2)『推量』を表す
will の〈認識的用法〉の2つ目は、『推量』です。
will が表す『推量』は、(1)現在、(2)過去、(3)未来 の3点についてのものです。
1⃣『現在についての推量』
「お仕事の後で(今現在)お疲れのことでしょう」
2⃣『過去についての推量』
『過去における推量』は、〈完了形 have +p.p〉の力を借ります。
「トムは昨晩 その映画を観ただろう」
3⃣『未来についての推量』
「明日は雨になるだろう」
〈根源的用法〉の『未来』の使い方を復習しておきましょう。
「もしそんなこと言ったら、トムを怒らせることになるよ」
以上で、will の〈認識的用法〉の説明は終了です。
will の用法のまとめ
以上でwillの用法の説明は終了です。
さて、ここでもう一度こちらをご覧ください。
最初は〈根源的用法〉と〈認識的用法〉の意味が分からなかったかもしれませんが、例文を交えながら見てみると何となくでも言葉の意味や使い方を分かっていただけたのではないでしょうか?
それでは、今まで見てきたことの全体像をまとめておきましょう。
「私は真実を話します」
「トムは私の話を聞こうとしない」
「トムはその車を買いたいといってきかない」
「トムは決まって息子の自慢をする」
「このホールは500人収容できる」
「事故は起こるものだ」
「もしそんなこと言ったら、
トムを怒らせることになるよ」
「お仕事の後で(今現在)お疲れのことでしょう」
「トムは昨晩 その映画を観ただろう」
「明日は雨になるだろう」
ここから先は、これらの will の用法に共通するコアイメージを扱っていきます。
willのコアイメージ
ここまで will の用法をいくつか挙げてきましたが、それらに一貫したコアイメージは存在するのでしょうか?
今回は便宜上、〈根源的用法〉と〈認識的用法〉で別々のコアイメージを提案させていただきます。
〈根源的用法〉のコアイメージ
〈根源的用法〉のコアイメージは、『意志・意図』です。
それぞれの用法は、その『意志・意図』の段階性によって生じると考えられます。
〈認識的用法〉のコアイメージ
〈認識的用法〉のコアイメージは、『推量』です。
〈認識的用法〉には、『未来』と『推量』がありますが、それらはコアイメージの強弱の違いから生じるものです。
『過去推量』『現在推量』『未来推量』のコアイメージの強弱は一致すると考えられます。なぜなら、3つの推量は発話時(現在)における状況に基づいているからです。
『未来』の用法は、話者が「必然的・当然的に起こると認識している内容」を表すため、推量の度合いは強くなります。
補足情報
全体のまとめ
今回は、法助動詞 will のあらゆる用法とそこに共通するコアイメージをお話してきました。
内容が盛り沢山だったので、何度か見直してみなさんの will の理解を更に深めていただけたら嬉しい限りです。
参考資料
今回の記事を作成する際に参考にした資料をご紹介します。
・安井稔 (1983)『改訂版 英文法総覧』開拓社
・吉波和彦 他 (2011)『ブレイクスルー総合英語(改訂二版)』美誠社
・大西泰斗、ポール・マクベイ (2017)『総合英語 FACTBOOK これからの英文法』桐原書店
・中野清治 (2014)『英語の法助動詞』開拓社
・佐藤芳明 他 (2009) 『レキシカル・グラマーへの招待 -新しい教育英文法の可能性』開拓社
・井上永幸 他 (2010)『ウィズダム英和辞典』三省堂
助動詞に関してはこの1冊があればかなり専門的で奥深い理解を得られるはずです。タイトルの通り、『英語の法助動詞』のすべてが丸々1冊227ページを使いきって網羅されています。
『イラストで理解する英文法』をテーマにした参考書の中では、群を抜いて分かりやすい1冊です。「話せる英文法」というテーマのもと、実践的な英語の使い方やポイントを教えてくれる文法書です。
関連記事の再掲載
今回の記事の途中で紹介してきた「関連記事」のリンクを最後にまとめて掲載しておきます。
① 助動詞の全体像について
➤➤【助動詞】 助動詞の種類・分類について
② willの『習慣』と現在形の『習慣』の違い
➤➤【助動詞】willと現在形が表す『習慣』の違い
③ will と be going to の違い
➤➤【助動詞】will と be going to の違い
今回もご覧いただきありがとうございました。
また次の記事でお会いしましょう。
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