Snow is white. の意味を、日本語訳を出さずに説明するとしたらどうなるでしょうか。形式意味論では、「雪が白い世界で、この文は真になる」と答えます。実際に雪が白いかを今確認することと、どんな条件なら文が真かを知ることは別です。
認知言語学は、意味を経験、カテゴリー化、文脈、話者の捉え方と結びつけて考えます。形式意味論は別の角度から、表現が何を指し、文がどんな条件で真になり、文どうしにどんな推論関係があるかを明示します。二つは意味についての問いが異なり、どちらか一方で全体を尽くすものではありません。

形式意味論は真理条件で意味を記述する
形式意味論の「形式的」とは、数式をたくさん書くことではありません。分析に使う対象、規則、前提を明示し、同じ条件なら同じ結論をたどれるようにすることです。
真理条件とは、ある文がどのような場合に真になるかという条件です。文の意味を話者の連想へそのまま還元せず、世界または分析上のモデルとの対応として記述できます。
- 名詞句がどの対象を指すか
- 述語がどの対象に成り立つか
- 単語と構造が文全体へどう寄与するか
- 一つの文から別の文が必ず従うか
真理条件は真偽の答えではなく判断基準である
The cat is asleep. を例にすると、the cat がある猫を指し、その猫が評価する世界と時点で眠っているなら、文は真です。

話し手がその猫を実際に見ていなくても、文の意味は理解できます。「眠っているかどうかは分からないが、眠っていれば文は真だ」と言えるからです。真理条件を知ることと、現実の真理値を知ることを分けます。
同じ方法で、文どうしの関係も比べられます。A cat is asleep. が真なら、An animal is asleep. も真です。逆は成り立ちません。このような一方向の関係は、含意を説明する土台になります。
ただし、the cat がどの猫か、どの時点を見ているかは文脈が補います。形式意味論も文脈を不要にするわけではありません。どの情報をモデルの中へ入れるかを明らかにして扱います。
合成性は単語と構造の寄与を追う
文の意味は、単語の意味だけでなく、その組み合わせ方によって決まります。

Maya likes Leo. と Leo likes Maya. は同じ単語を使いますが、語順が変わると、誰が誰を好むかが変わります。主語と目的語の構造が、文全体の真理条件へ寄与しているからです。
また、a sleepy cat の sleepy は、猫の集合を「眠そうな猫」に絞ります。単語、句、文という階層ごとに意味を組み立てる考え方を合成性と呼びます。詳しい問題点も含めて合成性の原理で解説しています。
記号は自然言語の関係を短く固定する
記号は、意味を難しくするためではなく、誰がどの性質を持つかを混同しないための略記です。

P(a) なら、P を「眠っている」という性質、a を特定の猫とすれば、「その猫は眠っている」と読めます。¬P(a) は、その猫に眠っているという性質が成り立たないことを表します。
量化表現も、少なくとも一つなのか、すべてなのかを区別できます。記号を覚える前に、対象、性質、否定、量化という自然言語上の役割へ読み戻すと、式が何を省略しているか分かります。
可能性・曖昧性・含意へ分析を広げる
現実の一つの世界だけでは、may や must の意味を十分に表せません。あり得る複数の状況を比べる可能世界意味論へ広げると、可能と必然を真理条件で記述できます。詳しくは可能世界意味論と様相意味論で説明しています。
量化や否定が重なると、どの表現が広い範囲で働くかによって真理条件が変わります。この問題は曖昧性とスコープで例文から確認できます。
形式化によって、二つの読みを混同せず、どちらの読みからどんな文が従うかを比べられます。その応用が、含意・前提・会話の含意の違いです。
真理条件だけで意味のすべてを説明しない

形式意味論は、量化、否定、含意、曖昧性のように、真理条件の違いを明示できる問題を精密に扱えます。一方、皮肉、丁寧さ、会話の含み、話者がなぜその表現を選んだかを理解するには、語用論や認知的な分析が必要です。
これは、形式意味論が比喩や文脈を扱えないという単純な意味ではありません。形式的な語用論や文脈意味論もあります。大切なのは、真理条件で明らかになる部分と、追加の前提が必要な部分を区別することです。
まとめ 形式化は意味の問いを明確にする

形式意味論は、文の意味を真偽だけに還元する主張ではなく、「何を対象にし、どんな条件で文が真になり、構造からどう意味が組み上がるか」を明示する方法です。
数式は出発点ではありません。まず自然な例文で対象、性質、構造、真理条件を確認し、必要な関係だけを記号で固定します。意味論全体の中で形式意味論の位置を確かめたい場合は、意味論の全体像へ戻ると、語用論や認知的な意味研究との役割分担まで見渡せます。
参考文献
- Partee, B. H. “Formal Semantics.” The Cambridge Handbook of Formal Semantics.
- Cann, R. Formal Semantics: An Introduction.
- Heim, I. and Kratzer, A. Semantics in Generative Grammar.
- Stanford Encyclopedia of Philosophy. “Compositionality” and “Montague Semantics.”


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