【意味論・語用論】含意・前提・会話の含意とは?違いを例文で整理

含意、前提、会話の含意を区別するイメージ

Ken stopped smoking. を否定して Ken didn’t stop smoking. にしても、「Kenは以前たばこを吸っていた」という情報は残りやすく感じられます。一方、Some students passed. から想像する「全員ではない」は、In fact, all of them did. と続けても矛盾しません。文に書かれていない意味でも、残り方は同じではありません。

認知言語学は、意味が文脈や話者の捉え方とどう結びつくかを考えます。意味論と語用論では、さらに、文の真偽から必ず従うのか、理解の背景として残るのか、会話から推測されるのかを分けます。それが含意・前提・会話の含意の違いです。

含意、前提、会話の含意の根拠を比較した図
三概念は、真偽関係、背景、文脈推論という異なる根拠を持ちます。
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三つの意味は生まれる根拠が違う

含意、前提、会話の含意を、すべて「言外の意味」とまとめると違いが見えません。まず、何を根拠にその意味が生まれたのかを分けます。

概念 意味が生まれる根拠 中心となる問い
含意 文どうしの真偽関係 最初の文が真なら必ず従うか
前提 発話を理解する背景 否定や疑問でも残りやすいか
会話の含意 文脈と会話上の推論 矛盾せず取り消せるか

三つとも、話者が心の中で本当に思っていることを直接読む仕組みではありません。文の意味、使われた表現、共有知識、会話の目的から、どの推論が正当化されるかを考えます。

含意は文が真なら避けられない

含意の方向Ava killed the spider.
Avaはそのクモを殺した。

The spider died.
そのクモは死んだ。

最初の文が真なら、二つ目も真です。kill は対象が死ぬ結果を含むためです。これを「最初の文は二つ目を含意する」と言います。

killedがdiedを含意する一方向の関係
killedからdiedは必ず従いますが、diedからkilledは従いません。

関係には方向があります。クモが死んだとしても、Avaが殺したとは限りません。また、Ava didn’t kill the spider. から「クモは死んだ」は従いません。否定すると、元の肯定文が持っていた含意は通常そのまま残りません。

含意は、話者がわざとほのめかした内容の名前ではありません。文どうしの真理条件を比べた関係です。真理条件の考え方は形式意味論で基礎から確認できます。

前提は否定や疑問でも背景に残りやすい

Ken stopped smoking. は「Kenが今はたばこを吸っていない」と述べながら、「以前は吸っていた」を背景に置きます。否定文や疑問文にしても、その背景は残りやすいという特徴があります。

stopの肯定と否定で以前吸っていたという前提が残る図
stopの肯定・否定は、以前の喫煙を共通の背景として残しやすい例です。
  • Ken stopped smoking.
  • Ken didn’t stop smoking.
  • Did Ken stop smoking?

いずれも、普通の文脈では以前の喫煙を前提にしているように読めます。この性質を前提の投影と呼びます。againtoo、定名詞句なども前提を誘発することがあります。

ただし、「否定しても残る」を万能の判定法にしてはいけません。文脈によって前提が拒否・修正されたり、条件文の中へ取り込まれたりします。前提は常に固定された隠れた文ではなく、発話の背景としてどう扱われるかを見る概念です。

会話の含意は文脈から生まれ、取り消せる

Some students passed. と聞くと、通常は「全員ではない」と推測します。話し手が全員の合格を知っているなら、より強い all を使うはずだと考えるからです。

someからnot allと推論され、取り消し可能な図
「全員ではない」は通常の推論ですが、in fact, all didで矛盾なく取り消せます。

それでも Some students passed. In fact, all of them did. は矛盾ではありません。some の文字どおりの意味は「少なくとも一人」であり、全員を排除しないからです。「全員ではない」は会話から生じた推論なので、後続文で取り消せます。

会話の含意は、いつも尺度語から生まれるわけではありません。夕食の誘いに I have an early meeting tomorrow. と答えれば、その場では断りとして理解されるかもしれません。しかし、同じ文が予定確認の場面で使われれば、断りの含意は生じません。

文字どおりの意味と発話の働きの違いは、「塩を取れますか?」から始める語用論入門で詳しく説明しています。

三つを見分けるには複数の観察を組み合わせる

三つの独立した観察軸を組み合わせて含意、前提、会話の含意を見分ける図
真偽関係、投影、文脈依存とキャンセルを別々に観察し、結果を組み合わせます。

次の順序で考えると整理しやすくなります。

  1. 最初の文が真なら、その意味も必ず真か。必ず従うなら含意の候補です。
  2. 文を否定・疑問・条件にしても、その意味は背景に残るか。残りやすければ前提の候補です。
  3. 後から明示的に取り消しても矛盾しないか。文脈で変わるなら会話の含意の候補です。

一つのテストだけで機械的に決めることはできません。前提が文脈で取り消されることも、語用的な推論が強く定着することもあります。真偽関係、投影、キャンセル、文脈依存を別々に観察し、結果を組み合わせます。

量化表現や否定の範囲自体が二通りある場合は、まず曖昧性とスコープを整理してから、それぞれの読みが何を含意するかを比べます。

まとめ 言外の意味を一語で済ませない

含意、前提、会話の含意の根拠をまとめとして比較した図
含意は真偽関係、前提は背景、会話の含意は文脈推論から生まれます。

含意は文どうしの真偽関係、前提は発話を理解する背景、会話の含意は文脈と会話上の推論から生まれます。似て見えても、根拠と消え方が違います。

英文を読んだら、「文が真なら必ず従うか」「否定しても背景に残るか」「文脈が変われば取り消せるか」を確かめてください。その意味を話者の本心と決めつけず、どの表現と文脈から導いたのかを示すことが、三つを正確に使い分ける第一歩です。

参考文献

診断に使う英文は本稿用の最小例です。理論上の一般化は下記の意味論・語用論文献で照合しています。
  • Abrusán, M. “Presuppositions.” Linguistics Meets Philosophy.
  • Dahlman, R. C. “Entailment, Presupposition, Implicature.” The Cambridge Handbook of the Philosophy of Language.
  • Grice, H. P. Studies in the Way of Words.
  • Stanford Encyclopedia of Philosophy. “Pragmatics” and “Presupposition.”

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