【意味論】可能世界意味論とは?mayとmustの可能・必然を読み解く

複数の可能な状況の中でmayとmustを考えるイメージ

It may rain tomorrow. は、明日の天気を断定する文ではありません。手元の情報と両立する複数の状況を考え、その中に「雨が降る」状況が残っていると伝えます。It must rain tomorrow. なら、比較している状況のすべてで雨が必要だ、という強い意味になります。

認知言語学は、こうした意味を話者の知識や場面の捉え方と結びつけて考えます。様相意味論と可能世界意味論は、そこから別の角度で、どの「あり得る状況」を比較すれば、可能・必然・許可・義務を区別できるかを明示する枠組みです。

現実と複数のあり得る状況を区別する可能世界意味論の図
可能世界は、現実と比較するために置いた「あり得る状況」の候補です。
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可能世界意味論と様相意味論とは

様相とは、ある内容が可能なのか、必然なのか、許されているのか、義務なのかといった、事実の成り立ち方に対する話者の位置づけです。可能世界意味論では、それを「現実以外も含む、あり得る状況の集合」を比べることで記述します。

ここでいう可能世界は、SFに登場する並行宇宙が実在するという主張ではありません。何が可能で何が必然かを比べるために置く、分析上の候補です。

二つの用語の関係

  • 様相意味論は、可能・必然・許可・義務などの意味を扱います。
  • 可能世界意味論は、それらをあり得る状況の範囲で表す方法です。

mayとmustは候補の範囲が違う

p を「明日、雨が降る」という内容だとします。may p は、関連する候補の少なくとも一つで p が成り立つこと、must p は関連する候補のすべてで p が成り立つことを表します。

mayとmustの真理条件を可能世界の集合で比較する図
mayは少なくとも一つ、mustはすべての関連候補で命題が成り立つと述べます。
表現 候補の中で必要な条件 基本的な読み
may p 少なくとも一つでp pである可能性がある
must p すべてでp pでなければならない

この説明は確率の数値ではありません。may が50%未満、must が100%という意味ではなく、比較対象として選んだ状況の中で p がどの範囲に成り立つかを述べています。

真理条件を使って文の意味を記述する考え方は、形式意味論の入門記事で基礎から説明しています。

どの可能性を見るかは文脈が決める

同じ must でも、比較する候補が変われば意味も変わります。

知識に基づく様相と規則に基づく様相を比較する図
同じmustでも、知識と両立する候補を見るか、規則を守る候補を見るかで読みが変わります。
同じmustの二つの基準Sam must be at home.
手元の証拠から考えると、サムは家にいるに違いない。

Sam must be at home by ten.
規則によれば、サムは10時までに家にいなければならない。

最初の文は、話者が持つ知識と両立する状況を見ています。これを認識的様相と呼びます。二つ目は、規則や命令を満たす状況を見ています。こちらは義務的様相です。

助動詞だけを見ても、候補集合は決まりません。天気予報、規則、推測、許可など、会話の目的と共有知識が「どの状況を比較するか」を補います。そのため、辞書の訳語を一つ当てるだけでは、様相の読みを確定できません。

否定と条件が加わると作用域も必要になる

may notmust not は、どちらも否定を含みますが、否定と様相の関係が違います。

may notとmust notを比較する様相と否定の作用域図
may notは否定された内容の可能性、must notは否定された内容の義務・禁止を表しえます。
  • It may not rain. は、雨が降らない状況も候補に残るという意味です。
  • You must not enter. は、入らないことがすべての許容候補で必要、つまり立入禁止という意味です。

「pでない可能性がある」と「pをしてはならない」は同じではありません。様相表現と否定のどちらが広く働くかを見る必要があります。この読み分けは曖昧性とスコープの考え方につながります。

if 節も、候補を絞る働きをします。If the alarm is on, someone may be inside. なら、「警報が作動している状況」に比較範囲を限定したうえで、人が中にいる可能性を述べます。

学校文法の許可・義務へどうつなぐか

可能世界の説明は、用法一覧の代わりではありません。むしろ、なぜ同じ助動詞に推量と許可、必然と義務があるのかを整理する土台です。

様相意味論の概念からmayとmustの具体的な用法へつながる図
概念記事では候補の範囲を、用法記事では具体的な文脈判断を扱います。

may の具体的な許可・可能性はmayの用法解説must の義務・確信はmustの用法解説で確認できます。might も単純な過去形ではなく、候補の置き方や話者の距離感が関わるため、mightの解説を合わせて読むと違いが見えます。

まとめ 可能な状況の範囲から様相を読む

可能世界意味論の現実とあり得る状況をまとめとして示す図
現実以外の候補を並べ、どの範囲で命題が成り立つかを比べます。

可能世界意味論では、現実以外も含む「あり得る状況」を比較します。may は少なくとも一つ、must はすべての関連候補で内容が成り立つという違いが基本です。

ただし、どの候補を見るかは文脈が決めます。文を読んだら、「可能か必然か」「知識と規則のどちらが基準か」「否定はどこまで働くか」の三点を確かめてください。可能世界は、その問いを精密にする道具であり、現実とは別の宇宙の存在を証明する考え方ではありません。

参考文献

本文の英語例文は、引用を明記したものを除き、説明のために本記事用に作成したものです。
  • Kratzer, A. Modals and Conditionals. Oxford University Press.
  • Portner, P. Modality. Oxford University Press.
  • von Fintel, K. “Modality and Language.” Encyclopedia of Philosophy.
  • Stanford Encyclopedia of Philosophy. “Possible Worlds.”
  • Stanford Encyclopedia of Philosophy. “Modal Logic.”

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