この記事では、助動詞 can と be able to について扱います。
can と be able to は、『能力』の用法を持っていますが、両者に意味の違いや用法の制限などはあるのでしょうか?
今回は、そんな『can と be able to の違い』をお話していきます。
can と be able to の違いのまとめ
これから can と be able to の違いを『意味的な違い』と『文法的な違い』の2つの観点からお話していきます。
両者の意味の違いや文法の違いを挙げると、以下のようになります。
この記事では、これら10個の違いをそれぞれ例文を交えながら解説していきます。
それでは実際に、can と be able to の『意味的な違い』と『文法的な違い』を見ていきましょう。
can と be able to の「意味的な違い」
1. can は口語的、be able to は文語的
日常的な会話表現では、can が使用され、論文などの書き言葉では be able to が使用される傾向があるようです。
2. can は主観的、be able to は客観的
can の『能力』は、話し手(書き手)が「○○できる」と主観的に思っている・判断している傾向が強いです。
[参考記事] 【助動詞】助動詞の種類・分類について
その一方で、be able to の場合は、事実を主観的に淡々と述べている意味合いが強くなります。
以下からは、can と be able to のどちらか一方しか使用できないパターンを紹介します。
構成としては、「can のみが使用可能な場合」→「be able to のみが使用可能な場合」の順番で進みます。
3. この瞬間できている場合は、can
「ねえ、みてみて、私○○できてるよ!」など、「この瞬間ある行為ができている」という表現の場合は、can が用いられます。
「ママ、みてみて、私ウインクができるよ!」
4. 知覚の意味を表す動詞とは、can
いわゆる〈知覚動詞〉を用いる場合は、can のみが使用可能です。
「星が見えます」
× I am able to see stars.
中野(2014: 26)では、「五感などの人間の持つ能力の基本的な意味を表すものは can との相性が良い」と述べています。また、大西・マクベイ(2017: 111)では、「can は潜在的な能力を表す」としています。以上から、五感の能力は、人間誰しもに備わっている潜在的な能力であるため、be going to ではなく can のみが用いられると考えることができそうです。
5.『能力』の意味を強調したい場合は be able to
「○○できる」という『能力』の意味を強調したい場合は、be able to が使用される傾向にありあます。
「私って2カ国語も話せるんだよ!」
be able to の方が『能力』を強調するのは、be able to という表現自体に “able” という「可能な/有能な」を意味する表現が入っているからです。また、can は『能力』以外にも『可能性』『容認・許可』『推量』の用法を持ち合わせていますが、be able to は『能力』の用法しか持っていないため、『能力』の意味が明確に伝わり、結果として『能力』の意味がハイライトされることになるのです。
異なる意見も…
上では「be able to の方が能力の意味が強調される」と書きましたが、文献によっては異なる説明もありました。中野(2014: 25)では、次のような記載があります。
・I can speak French.
[話者は自分の能力に自信を持っている]・I am able to speak French.
[フランス語の運用能力はあるが、本国人(ネイティブ)ほど完全ではないと思っている含み がある]
先ほどの説明と正反対であることがお分かりいただけると思います。このように can と be able to の違いは、残念ながら明確で絶対的なものではないようです。
can と be able to の『意味的な違い』のおさらい
以上で、can と be able to の『意味的な違い』の説明は終了です。
今まで見てきた5つの違いをまとめておきます。
2. can は主観的、be able to は客観的
3. この瞬間できている場合は、can
4. 知覚の意味を表す動詞とは、can
5.『能力』の意味を強調したい場合は be able to
そもそも本質的な『意味の違い』は?
ここまで can と be able to の『意味的な違い』と銘打って色々とお話してきましたが、「○○場合は can で、▢▢の場合は be able to である」のような説明になっていました。
しかし、おそらく読者の皆さんが最も知りたいのは、『本質的な意味の違い』ではないでしょうか?
can と be able to の『本質的な意味の違い』は、以下のようになります。
be able to は単純に「能力がある」
この違いを分かりやすく伝えてくれる個人的にお気に入りの例文をご紹介します。
「運転自体はできるけど、今免許を持っていないから運転はできないよ」
この例文は、「運転能力はある」(= be able to)が、運転免許を今持ち合わせていないため、「運転するという行為を実現可能にすることはできない」(= can’t)、といった意味合いになっています。
can のコアイメージは、以下のようなイラストになります。
イラストに示されている通り、can の『能力』には、①の「鍵」が必要です。つまり、この「鍵」があって初めて「宝箱を開ける」という行為が実現可能となるわけです。(今回の例文では、 “my license” (運転免許)が「鍵」、“drive” (運転する)が「宝箱を開ける」に相当しています)
[関連記事: can のコアイメージについて]
もう1つ例文
can と be able to の『本質的な意味の違い』が分かる例文をもう1つご紹介します。
「君ならできるよ」
× You are able to do it.
それでは、can と be able to の『本質的な意味の違い』を押さえたところで、続いて『文法的な違い』も確認していきましょう。
can と be able to の「文法的法的な違い」
ここからは、can と be able to の『文法的な違い』をお話していきます。
1. 受動態との共起は can のみ可能
can は受動態で用いることができますが、be able to は一般的に用いられることはありません。
「このペンキは簡単に消すことができる(落とせる)」
? This paint is easily able to be rubbed out.
2. 無生物主語の場合は、can が一般的
主語が人ではない、即ち〈無生物〉の場合は、can が用いられます。
「このホールは500人収容できる」
補足説明
しかし、このルールはそこまで絶対的ではないようで、大西・マクベイ(2017: 121)では、次のような例文が掲載されています。
The new robot is able to greet people in seven languages.
「新型ロボットは7カ国語で挨拶できます。
“The new robot” という〈無生物〉が主語になった文ですが、be able to を使用しています。本書は、「こんなすごいことができるんだよ」と能力にハイライトが当たっているため、be able to を使用していると記しています(122)。
これは、当記事の『意味的な違い』の5. の「能力の意味を強調したい場合は be able to を使う」という記述と一致しています。5. で記した内容を以下に再掲しておきます。
「○○できる」という『能力』の意味を強調したい場合は、be able to が使用される傾向にありあます。
「私って2カ国語も話せるんだよ!」
be able to の方が『能力』を強調するのは、be able to という表現自体に “able” という「可能な/有能な」を意味する表現が入っているからです。また、can は『能力』以外にも『可能性』『容認・許可』『推量』の用法を持ち合わせていますが、be able to は『能力』の用法しか持っていないため、『能力』の意味が明確に伝わり、結果として『能力』の意味がハイライトされることになるのです。
3. 他の助動詞との連続は be able to のみ可能
他の助動詞と連続で使用する場合は、be able to のみが可能です。
主に「他の助動詞」とは、will のことなので、「『未来における能力』を表す場合は、be able to のみが使用可能」と言い換えることもできるかもしれません。
「君は上手に泳げるようになるよ」
× You will can swim very well.
4. 過去の「〇〇できた」は be able to のみ可能
過去における「○○できた」という意味を表す場合は、be able to のみが使用可能です。
「バスに間に合った」
× I could catch the bus.
「過去における可能の意味は、could は不可で was(were) able to のみが可能」という言い方は厳密には正しくありません。正確には、「過去における1回限りの可能・達成の場合は、could は不可で was(were) able to のみが可」という言い方になります。したがって、以下のような例文では、過去時制ですが、can の過去形 could は使用可能です。
「若い頃は、ハンバーガー1つが80円で買えた」
この例文では、「若い頃」という過去時制において、「ハンバーガーを1つ80円で買う」という行為が、1回限りではなく、習慣的に何度も実現可能だったため、could が使用できるのです(was able to も使用可能です)。
以上の説明を踏まえて、改めて言うならば、
しかし、過去における1回限りの「○○できた」を表す場合でも can が使用可能な場合が2つ存在します。
① 知覚動詞の場合
「山の頂から星が見れた」
知覚動詞see を使っているため、could の使用が容認されています。
② 否定文の場合
否定文の場合 (could not) も、「過去における1回限りの○○できた」でも could を使用することが可能です。
「バスに間に合わなかった」
先ほどの could が使用不可能だった例文と比較してみてください。
「バスに間に合った」
× I could catch the bus.
5. 命令文では be able to のみ可能
命令文では、be able to のみが使用可能で、法助動詞can は命令文では使用できません。
「自分自身でできるようにしなさい」
× Can do it by yourself.
can と be able to の『文法的な違い』のおさらい
以上で、can と be able to の『文法的な違い』の説明は終了です。
今まで見てきた5つの違いをまとめておきます。
2. 無生物主語の場合は、can が一般的
3. 他の(相)助動詞との連続は be able to のみ可能
4. 過去の1回限りの「〇〇できた」は be able to のみ可能
5. 命令文では be able to のみ可能
can と be able to の違い
今回は、can と be able to の『意味的な違い』と『文法的な違い』をお話してきました。
それぞれの意味の違い・文法的な違いや、用法における制限などをまとめると、以下のようになります。
ひとこと
この記事は、英語学習で出てくる素朴な疑問にお答えするために作成したものです。
can と be able to には確かに違いはあるものの、実際に英語を使う場面(特に英会話)などでは、あまり厳密なことは気にせず、まずは「思い切って使ってみる」ことをお勧めします。
参考文献
この記事を作成するにあたって以下の文献を参考にしましたが、記事内で指摘したように意見が分かれているものが多いです。
- C.T.Onions (2015), An Advanced English Syntax: Based on the Principles and Requirements of the Grammatical Society, Routledge.
- Radden & Dirven (2007), Cognitive English Grammar, John Benjamins Pub.
- 安井稔 (1983)『改訂版 英文法総覧』開拓社
- 井上永幸 他 (2010)『ウィズダム英和辞典』三省堂
- 吉波和彦 他 (2011)『ブレイクスルー総合英語(改訂二版)』美誠社
- 大西泰斗、ポール・マクベイ (2017)『総合英語 FACTBOOK これからの英文法』桐原書店
- 中野清治 (2014)『英語の法助動詞』開拓社
- 佐藤芳明 他 (2009) 『レキシカル・グラマーへの招待 -新しい教育英文法の可能性』開拓社
- https://presentsimpleesl.wordpress.com/2012/10/09/can-vs-be-able-to/
- https://www.quora.com/Whats-the-difference-between-can-and-be-able-to
この1冊があれば、英語の助動詞の理解はかなり深まるはずです。全ての助動詞が網羅されており、助動詞を本格的に学習したいなら必須の1冊。
英語教育において言わずと知れた大西先生が手掛けた総合英語。イラストやネイティブ感覚が豊富に盛り込まれているので、とても理解し易くなっています。
関連コンテンツの再掲示
今回の記事の途中で紹介してきた「関連記事」のリンクを最後にまとめ直しておきます。
◆ 助動詞の全体像・法助動詞とは何か?
→ 【助動詞】助動詞の種類・分類について
◆ can の用法とコアイメージ
→ 【助動詞】法助動詞 can の用法とコアイメージ
今回もご覧いただきありがとうございました。
また次の記事でお会いしましょう。
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