くりこの『意味論③』では、〈メタ言語〉と〈対象言語〉について扱います。
このような内容を見ていきましょう。
意味論の全体像はこちら
「意味論とは何か?どのような分野でどのような種類があるのか?」という意味論の全体像については、別記事で詳しく解説しています。
メタ言語と対象言語の定義
まずは用語の定義から見ていきましょう。
メタ言語と対象言語の区別を設ける必要性
メタ言語と対象言語の具体例
〈メタ言語〉と〈対象言語〉の定義を確認したところで、具体例を見てみましょう。いくつか例を見ることで、理解が深まると思います。
例1
This is a pen という文における主語は、this である。
このような記述の場合、
- メタ言語は、日本語
- 対象言語は、英語
となります。
例2
現代日本語の「サ行変格活用」は、「する」とその複合語である
この記述の場合、
- メタ言語は、日本語
- 対象言語は、日本語
となります。
例3
今までは、意図的な文の記述を見てきましたが、実は身の回りにも『メタ言語と対象言語の集合体』が存在しています。
それが、『辞書』です。
例えば、「書籍」という語を辞書で引いてみましょう。
『goo 辞書』より
すると、上のような説明が出てきます。
より一般的に言うならば、辞書の見出し語が〈対象言語〉で、それに関する記載が〈対象言語〉です。このように『辞書』はメタ言語と対象言語で満ち溢れています。
メタ言語と対象言語に関わる事象「循環定義」
ここまでメタ言語と対象言語の定義・具体例を見てきました。
メタ言語と対象言語の関係性を一言で言うならば、『説明する側と説明される側』となるでしょう。
しかし、ここで時に〈循環定義〉という現象が存在します。
例えば、先ほどの『書籍』という語を考えてみましょう。
『書籍』を説明するために『書物』というメタ言語を使います。次に『書物』を説明するために『本』というメタ言語を使います。そして、『本』と調べると『書籍』と出てきます。
このように、『書籍』という言葉の意味を説明するために、最終的にその『書籍』という言葉自体を用いなければならなくなってしまうのです。
このことを指して〈循環定義〉と呼びます。
いわゆる「無限ループ」です。
このように、〈メタ言語〉と〈対象言語〉を議論する時は、〈循環定義〉という現象が絡んでくることがあります。
補足説明
メタ言語として有用性のあるイメージスキーマ
今まで見てきたように、私たちは「言葉を言葉で説明することの難しさ」を抱えています。
そのような中で登場した考え方が、本当に大雑把に言ってしまうと「言葉を言葉で説明しなければ良い」というものです。
そのような考え方に基づいたのが認知言語学の〈イメージスキーマ〉という概念・戦略です。
✔関連記事
➤➤【認知言語学概論⑤】イメージスキーマ
認知言語学については詳しい記事を作成しているので、興味があればぜひご覧ください。
全体のまとめ
以上で『意味論③』は終了です。
今回は〈メタ言語〉と〈対象言語〉を見てきました。
- メタ言語
ある言語について説明・記述するために用いられる言語 - 対象言語
メタ言語によって説明・記述される側の言語 - メタ言語と対象言語には、循環定義と呼ばれる現象が関係してくる
関連記事
今回の記事の中で登場した〈循環定義〉は、認知言語学の〈イメージスキーマ〉についての記事でも取り上げています。
参考文献
- Saeed, J. I. (2009) Semantics (3rd edition). Wiley-Blackwell.
- 斎藤純男・田口善久・西村義樹 (2015) 『明解言語学辞典』三省堂
意味論のみならず、言語学の全体像を広く浅く俯瞰するには最適な1冊です。難しい理論や用語ではなく、言語学について勉強してみたいと思う方は必見です。
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