今回は、〈受動態(受け身形)〉と〈文型〉について扱います。
「受動態の文型は、どのように考えれば良いのか?」と疑問に感じたことがある人は多いはずです。
そこでこの記事では、『受動態における文型』、そして『文型の意義』を考えてみたいと思います。
結論としては、能動態から受動態にすると文型は変わります。例文を通して、この結論を見ていきましょう。
よくある疑問「受動態の文型はどうなるか?」
このような疑問を感じたことはないでしょうか?
この疑問に向き合う前に、「受動態についての前提」をお話しておきます。
前提として:受動態にできる文型は3つだけ
まず大前提として、受動態(受け身)にできる能動態の文型は3つだけです。
そもそも、〈受動態〉の主語は、〈能動態〉の目的語に相当するわけなので、〈受動態〉にできる〈能動態〉は、目的語を含んでいないといけません。
一般的な五文型において、その内部に目的語(O)を持つのは、以下の3つのみです。
- SVO (第3文型)
- SVOO (第4文型)
- SVOC (第5文型)
すなわち、受動態にできる能動態は、上記の3種類ということになります。
この3つの文型をそれぞれ例文で確認していきます。それぞれの能動態と受動態の文型の関係性を考えながらご覧ください。
SVO(第3文型)の場合
第3文型の能動態→受動態は次のようになります。
SVOO(第4文型)の場合
第4文型の能動態→受動態は次のようになります。
第4文型では、目的語が2つ(間接目的語と直接目的語)があるため、受動態は2種類あります。
SVOC(第5文型)の場合
最後に、第5文型の能動態→受動態は次のようになります。
これらの受動態の文型はどうなるのでしょうか?
結論 受動態にすると文型はどうなるのか?
上で見たように、能動態から受動態に書き換えた時の文型は話が複雑になりそうです。
それでは、そんな受動態になった文の文型はどのように扱えば良いのでしょうか?
結論としては、以下のようになります。
受動態にすると、文型は変わる
受動態の文型を考える際には、beの捉え方が重要になってきます。
受動態におけるbeの正体は「助動詞」
先ほどの図を再掲します。
上の図を見ると、文中のbe動詞と後ろの過去分詞がまとめて「V(VP)」と扱われていることが分かります。
これは、受動態で使われているbeを〈助動詞〉と見なしているからです。
✔参考記事 【助動詞】助動詞の種類・分類について
そのため、後ろの過去分詞とまとめて動詞(句)として処理されるのです。
受動態の文型に対する回答
そもそも〈受動態〉とは、能動態の目的語を主語に移動させる文法操作のため、〈受動態〉にした時、『目的語が1つ減る→文型が変わる』となるのは当然の結果と言えるでしょう。
⇨目的語が減るため、文型は変わる
受動態の文型を考えることに意義はあるか
結論としては先ほどの通り、受動態の文型は変わります。しかし同時に、受動態の文型を考える必要はないようにも感じます。
たしかに先ほどのようにS・V・O・Cを振り、5つの文型のどれかとして処理することができるかもしれません。
しかし、今までの記事の内容と大きく矛盾していることを覚悟で言いますが、受動態の文型を考えるという作業に意味があるのでしょうか?そもそも文型とは何のためにあるのでしょうか?
最後に、〈文型〉の意義について少し考えてみたいと思います。
そもそも文型とは何か?
そもそも英語教育で導入されている〈五文型〉というものは、
複雑で長い構文において、主語のまとまりや、動詞の後にくる名詞の特性・役割(目的語なのか補語なのか)を判別し、構文の訳読を手助けすることに最大の意義があるのです。
つまり、英語教育で導入されている〈五文型〉という考え方は、全ての文型を完璧に分類することは目指していません。
ここで、受動態の例文を思い出してみてください。
おそらく「be動詞+過去分詞」の形を見れば、すぐに〈受動態〉だと分かります。そして意味も分かるでしょう。
そうだとしたら、そこから文型を考える必要性はあるでしょうか?受動態だと分かっていて、そしてもちろん意味も分かっています。
そしたらそこに〈文型〉が登場する必要性はありません。
五文型の守備範囲
そもそもの話ですが、五文型では〈受動態〉の分析は十分にできません。
もう一度、例文を見てください。
たしかにS・V・O・Cを振り分けていますが、普段見慣れた五文型とは少し異なっていることが感じられるかと思います。
事実その通り、五文型では受動態を十分に扱うことができません。
しかし、だからと言って『五文型が不十分』だということでは決してありません。
かつての英語学の先駆者たちは、五文型で扱うことができない構文の分析を補うために、7文型、8文型、25文型…など数多の文型を考案してきました。その中には、もちろん〈受動態〉を上手く扱える分類の仕方も入っており、当然のことながら分類の正確性も向上しました。
しかしながら、完璧な文型の分類を追求することは、英語学習において必要でしょうか?極端なことを言うと、受動態の文型を完璧に扱えるようになることは、英語学習の向上に直結するでしょうか?
答えは明確です。たしかにより高度に受動態の文型を考えることは「学問」においては必要ですが、「学習」においてはその還元率は期待できないでしょう。
というのも、先ほど述べたように、文型の意義の1つは、構文における主語や目的語(補語)の把握により訳読を手助けするためにあるからです。
完璧な文型の分類を追い求める行為は、まさに「木を見て森を見ず」です。
それでもなお、なぜ私たちは〈受動態〉の文型を気にしてしまうのでしょうか?
日本の学校文法における五文型の扱われ方
その理由は、学校文法における文型の扱いにあります。
学校文法では、
『第1文型がSVで、第2文型がSVCで、第3文型がSVOで…』
のように、ひたすらに文型の番号とそれに対応する表記を覚えることが文型の意義であるかのように教え込まれます(少なくとも私が経験してきた教育ではそうでした)。
だからこそ、おそらくこのサイトまで来ていただいた皆さんは、受動態の文型が、1から5のどの番号になるのか気になったのではないでしょうか?
『受動態の文型を考える必要性はない』と先ほど書きましたが、それは今こうしてこの記事を読んでくださっている皆さんの受動態の文型に対する疑問を否定しているわけでは決してありません(むしろ、そのような知的好奇心こそが英文法学習における重要なエネルギーだと私は思っています)。
そのことを踏まえ、頭の片隅に留めて置いていただきたいのは、〈五文型〉というのはあくまで手段ということです。手段と目的を考えると、『英語学習において、文型を判別することだけが全てではない』という考えもできるような気がします。
全体のまとめ
今回は、『受動態の文型』について考えてきました。
『受動態の文型について考える』と題しておきながら、『受動態の文型を考える必要はない』という逆説的な結論になりましたが、受動態の文型について考えたからこそ、その結論が導き出されるのです。
〈受動態〉を通して、〈文型〉の意義を実感していただけら幸いです。
- 受動態にすると、文型は変わる
↑受動態は目的語を主語に昇格させる文法操作であり、目的語が減るから - 受動態で用いられるbeは、〈相助動詞〉と呼ばれる助動詞の1種である
- 文型の意義を考えると、受動態の文型を考えることは実用的はない気もする
〈受動態〉に関する他の記事もご覧ください。
進行形では文型はどうなるのか?
今回、『受動態における文型』を考えてきましたが、それでは『進行形の文型』はどうなるのでしょうか?
気になる方はぜひこちらの記事をご覧ください。
コメント
「受動態にすると文型はどうなるのか」という疑問を抱えていましたが、このサイトを読ませていただき、もやもやしていたものが解決できたような気がします。また、「be動詞のコアとなる意味」の項も読ませていただき、こちらも大変勉強になりました。英文を読んでいて、be動詞が出てくるたびに、教えていただいたことが頭に浮かび、うれしくなります。お礼を言いたくて、コメントいたしました。
とても参考になりました。
ありがとうございました。