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【音韻論Ⅲ】音素と異音(条件異音/自由異音)について図解でわかりやすく

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言語学
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✔この記事の要点

音素おんそphoneme音韻論あるひとつの言語(日本語とか英語とか)において、言葉(単語)の意味の区別に関係する音の最小単位。音素は/ /で囲まれる。より感覚的に言うと、ある言語話者が心の中で思い込んでいる「同じ1つの音」の総称のこと。音素かどうかはその言語によって異なる。ある言語内の音素の決定方法を研究する分野を〈音素論〉といい、主に音声的特徴や〈分布〉に基づく。音素は対立分布に現れる。音素は抽象的かつ理想的な象徴であり、実際に発することはできない(実際に発音されるのは音素ではなくその異音である)。また、1つの音素は必ず1つ以上の異音を持つ。
異音いおんallophone音韻論ある音素が実際の異なる音声となり外在に表出したとき、そのいくつかの異なる音をまとめてその音素の異音と言う。1つの音素は少なくとも1つ以上の異音を持つ。音素かどうかが言語によって異なるように、異音かどうかも言語によって異なる。
条件異音じょうけんいおん/位置異音いちいおんconditional allophone/positional allophone音韻論特定の音韻条件(または音韻位置)に現れる異音のこと
自由異音じゆういおんfree allophone音韻論特定の音韻条件(または音韻位置)に縛られず、自由に現れる異音のこと
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この記事は、音韻論をトピックごとに扱う『音韻論シリーズ』の第3弾にあたる『音韻論Ⅲ』となります。そしてトピックは、音素と異音です。

そもそも音韻論とは、言語の音に注目する言語学の1分野です。そして、音韻論という分野の中で必要不可欠なのが〈音素〉です。アメリカ構造主義などの言語学がある言語を研究する時、真っ先に注目するのが音素であり、研究者にとって音素表を作ることが何よりの目標でした。

今回は、そんな音韻論の中で最重要とも言える概念〈音素〉と〈異音〉について見ていきます。

音素と異音は、非常に密接に関係している概念なので、この記事でまとめて紹介することにしました。

具体的なトピックは以下の通りです。

トピック

  • 音素の定義と具体例
  • 音素の抽象性と理想性
  • 異音の定義と具体例
  • 異音の種類
    》条件異音と自由異音

少しでも音素と異音という抽象的な概念についての理解を深めていただけたら幸いです。

 

音素と異音について
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音韻論はどんな分野か?定義と特徴

まずは音韻論の定義を確認しておきましょう。

音韻論おんいんろんphonology分野名言語の音の側面に注目する言語学の1分野。音の配置・交替・変化などに注目し、個別の言語体系における音の機能や体系を研究する。

音韻論の詳細や種類、具体的な研究内容については、【音韻論Ⅰ】音韻論の全体像 定義・特徴・種類・音声学との違いをわかりやすく解説で詳しく解説しています。

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言語学における音韻論の立ち位置

まず大前提ですが、音韻論は言語学の1分野です。

そこで音韻論の言語学における立ち位置を見ておきます。

言語学における音韻論の立ち位置

言語には、「音」「構造」「意味」の3つの側面がありますが、音韻論は、その名の通り「音」に注目します。

音声学と音韻論の違い

また、同じく音に注目する分野として〈音声学〉があります。

〈音声学〉と〈音韻論〉の違いについては、簡潔に結論だけ書いておきます。

音声学おんせいがくphonetics分野名どの言語内かは関係なく、また音の違いが語の意味の違いを引き起こすかは関係なく、音そのものの物理的な性質(口の中でどの部分でどのように作られ、どのように空気中を伝播し、どのように知覚されるか)を研究する。言語音(単音)は[ ]で囲まれる。
VS
音韻論おんいんろんphonology分野名ある特定の言語というフィールドを設け、音の違いが語の意味の違いに関係するかどうかによって音を線引き、音素を設定する。音素は/ /で囲まれる。

詳細は下記の記事を参考にしてください。

【音韻論Ⅰ】音韻論の全体像 定義・特徴・種類・音声学との違いをわかりやすく解説

基礎知識を確認したところで、本題である〈音素〉と〈異音〉について見ていきましょう。

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音素(phoneme)の定義

まずは、音素の定義と説明を載せます。今の時点で分からなくても全く問題ありません。

音素おんそphoneme音韻論あるひとつの言語(日本語とか英語とか)において、言葉(単語)の意味の区別に関係する音の最小単位。音素は/ /で囲まれる。より感覚的に言うと、ある言語話者が心の中で思い込んでいる「同じ1つの音」の総称のこと。音素かどうかはその言語によって異なる。ある言語内の音素の決定方法を研究する分野を〈音素論〉といい、主に音声的特徴や〈分布〉に基づく。音素は対立分布に現れる。音素は抽象的かつ理想的な象徴であり、実際に発することはできない(実際に発音されるのは音素ではなくその異音である)。また、1つの音素は必ず1つ以上の異音を持つ。

この時点では辞書的な意味や説明だけ頭の片隅に入れておいてください。ここから深掘りして、この説明に色をつけていきます。

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具体例と図解で音素を考えてみる

ここからは、スペイン語と日本語の2つの言語について考えていきます。

スペイン語の場合

『言語学入門』(斎藤純男)によると、スペイン語には次の2つの単語が存在します。

スペイン語pero [peɾo]「しかし(接)」
pelo [pelo]「毛(名)」

2つの単語の意味は異なります。そして、意味の他に発音も異なっていることが分かります。その発音の違いは、[  ]内のIPAを見てみると、[ɾ][l]だけであることがわかります。即ち、この[ɾ][l]の音の違いだけが2つの単語の意味の区別に役立っています。。

【音声学Ⅳ】IPA(国際音声記号)の概要と利点

日本語の場合

さて、私達の母語である日本語にある「ロバ」という語を見てみましょう。

日本語ロバ はやく発音[ɾoba]

ロバ ゆっくり発音 [loba]

発音の速さによって、「ロ」の音頭の子音は[ɾ][l]に変化すると言われています。即ち、「ロバ」という発音が発音が異なるということです。しかし、発音が異なっても、単語の意味は変わりません。

以上を踏まえて図解で考える

ここから4つのステップを踏んで繋げていきます。

ステップ1

まず、スペイン語にも日本語にも同様に、[ɾ][l]という2つの種類の物理的な音(IPA)が存在することがわかります(【図解1】参照)。

スペイン語にも日本語にも同様に、[ɾ]と[l]という2種類の物理的な音が存在する。

【図解1】

ステップ2

しかし、その2つの音の扱いは、スペイン語と日本語で同じわけではありません。なぜなら、スペイン語では、2つの音([ɾ][l])が意味の違いに関係しているのに対して、日本語では2つの音の違いは意味の区別に関係していません。

したがって、「単語の意味の違いに関係する音」という観点から、[ɾ][l]という2つの音を捉えると、次のようになります。

スペイン語[ɾ][l]はそれぞれ別の音

両者を区別して2つの異なる音として扱う
日本語[ɾ][l]という音は同じ

両者をまとめて1つの音として扱う
ここで問題にしている「別」とか「同じ」の基準は、「単語の意味の違いに関係するかどうか」です。当然ながら、物理的な特徴(≒調音法とかの音声学的特徴)は異なります。
「単語の意味の違いに関係している音」という観点から見ると、スペイン語には2つ異なる音があることになるが、日本語には1つの音しかないことになる。

【図解2】

【図解2】からは、「物理的な音」という基準ではスペイン語でも日本語でも2つ存在する一方で、単語の意味の区別に関わる音」という基準ではスペイン語では2種類([ɾ]と[l])、日本語では1種類(/r/)のみが存在することが分かります。

日本語の「単語の区別に関わる音」の欄には、[ɾ]と[l]とは異なる/r/という表記がありますが、これは日本語の音素表に/r/しかないからです。ここではあまり気にしなくて結構です。

ステップ4

以上のことから、物理的な音と機能的な音を区別する必要性が出てきます。そして、後者の「単語の意味の違いに関わるかどうか」という機能的な観点から設定された音を〈音素〉と呼びます(【図解3】参照)。

単語の意味の違いに関わるかどうかという機能的観点から設定された音を音素という

【図解3】

これが、しばし「音韻論が機能的な音に注目する」と言われる所以です。また、「音素かどうかは言語によって異なる」という理屈もここから来るわけです(詳しくは後述)。

また表記について解説しておくと、図解中にあるように、物理的な音を表すIPAは[ ]で囲みますが、機能的な音である音素は/ /で囲むのが慣習です。

ステップ4

ここからが最終ステップです。物理的な音(IPA)と機能的な音(音素)の関係性を示します。

スペイン語では、2つの物理的に異なる音は、機能的にも異なります。これを、「スペイン語では[ɾ][l]はそれぞれ、/ɾ//l/の異なる音素に属する」、と言います。

一方で日本語では、2つの物理的に異なる音は、機能的には同一です。これを、「日本語では[ɾ][l]は同一の/r/の音素に属する」、と言います。

以上のスペイン語と日本語の違いは【図解4】で示す通りです。

スペイン語では異なる音素に属するが、日本語では同一の音素に属する。

【図解4】

以上のステップで〈音素〉について何となく分かっていただけたと思います。

この視点から捉えた音声学と音韻論の違い

せっかく図解を用いて説明してきたので、この観点から音声学と音韻論の違いについて触れておきたいと思います。

両者の違いの1つは、物理的な音に注目するのか?それとも機能的な基準に基づく音に注目するのか?、という着眼点にあります。

【音声学と音韻論の違い】音声学は物理的な音に注目するが、音韻の違いでは機能的な音に注目する。

また、他の相違点の切り口として、音韻論は機能的・心理的な音に注目する、と言われることがあります。現時点で「心理的な音」とは何なのかイメージできないかもしれませんが、これは〈異音〉を説明すれば納得いただけると思いますので、しばしお待ちください。

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音素の定義を再確認してみる

今までの説明を踏まえて、ここで再度、音素の説明を見てみましょう。

音素おんそphoneme音韻論あるひとつの言語(日本語とか英語とか)において、言葉(単語)の意味の区別に関係する音の最小単位。音素は/ /で囲まれる。より感覚的に言うと、ある言語話者が心の中で思い込んでいる「同じ1つの音」の総称のこと。音素かどうかはその言語によって異なる。ある言語内の音素の決定方法を研究する分野を〈音素論〉といい、主に音声的特徴や〈分布〉に基づく。音素は対立分布に現れる。音素は抽象的かつ理想的な象徴であり、実際に発することはできない(実際に発音されるのは音素ではなくその異音である)。また、1つの音素は必ず1つ以上の異音を持つ。

現時点までに説明してきた箇所には黄色マーカーを引いてみました。最初は意味不明の説明に思えたかもしれませんが、今では少し色がついて見えるのではないでしょうか?

この記事の後半では、まだマーカーがついていない箇所について説明していきます。この音素の説明に全て色がついて見えるようになるので、あと少しお付き合いください。

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音素かどうかは言語によって異なる

音素の色付けの続きです。ここでは、「音素かどうかは言語によって異なる」という性質に焦点を当てていきます。

先程のスペイン語と日本語の対照から、音素かどうかは言語によって異なることが示されましたが、他の言語の例も出しておきます。

以下は、英語とタイ語とアラビア語の対照です。

上記の図解が示しているように、物理的に同じ言語音であったとしても、それらの音が同じ音素に属するのか、それともそれぞれ別の音素に属するのかは、言語によって異なります。

個人的には、アラビア語で[p]と[b]が同じ音素、つまりアラビア語話者にとっては「同じ音」と感じるということに驚きです。音素と話者の心理については後述します。

このような背景からも、「音韻論は各言語体系(英語とか日本語とかスペイン語とか)に注目する」と言われます。

また本題ではありませんが、[ph]で示されたpの右上に小さなhが付いたものは、〈帯気音(有気音)〉と呼ばれます。詳しくは、【音声学Ⅷ】音声学における音の変化(帯気音化・母音鼻音化・長母音化)をご覧ください。

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音素は抽象的・理想的な概念であり、発音されることはない

次に音素の抽象性・理想性という性質について見ていきます。

音素とは、「単語の意味の違いに関係するか」という機能的な観点から設定されて音です。そのため、実際に外在する音ではありません。

例えば、次の2ペア3セット、合計6つの単語を発音してみてください。

セット1 三番(さんばん) 全部(ぜんぶ)
セット2 三台(さんだい) 本当(ほんとう)
セット3 三階(さんがい) 進化(しんか)

上記の6つの単語全てに「ん」が入っていることに注目してください。

日本語話者なら問題なく発音でき、そして次のように思うことでしょう。

全部同じ「ん」だ

残念ながら間違いです。物理的(音声学的)には違う音です。

音声学的には、それぞれのセットの「ん」は次のようになっています。IPAに注目してください。

セット名 具体例1 具体例2 「ん」のIPA
セット1 三番(さんばん) 全部(ぜんぶ) [m]
セット2 三台(さんだい) 本当(ほんとう) [n]
セット3 三階(さんがい) 進化(しんか) [ŋ]

ここでは取り敢えず、「IPAが異なれば物理的には異なる音」と考えてください。つまり、ここには3つの異なる「ん」が存在しています。

ここで起こっていることは次の通りです。

日本語話者は全部同じ「ん」だと思い込んでているが、
実際には物理的に異なる「ん」が発音されている

 

この前者の「話者が同じ音だと思い込んでいる音」は〈音素〉のことです。しかし、実際に外在化して発音されている音は異なるわけです(一般的な話者はそのことに気付いていません)。

この「話者が同じ『ん』だと思いこんでいる音」、即ち「ん」の音素を/N/で表現するとします。この時の図解は次の通りです。

音素は話者の頭の中にある抽象的な概念で、実際に発音されることはない

従って、音素は話者の頭の中(もしくは心の中)にある抽象的かつ理想的な概念なのです。これがしばし「音韻論は話者の心理的な音に注目する」と言われる所以です。

このことを考慮すると、「音素が発音される」などといった表現は不適切であることが分かります。しつこい繰り返しになりますが、音素は話者の脳、もしくは心に内在する抽象的・理想的な概念だからです。

それでは、実際に発音されている音をどのように捉えれば良いのでしょうか?

音素を設定し、実際に発音されている音をどのように捉えれば良いのか?その鍵をにぎるのが異音という概念です。

そこで登場するのが〈異音〉という概念です。

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異音の定義と説明

異音いおんallophone音韻論ある音素が実際の異なる音声となり外在に表出したとき、そのいくつかの異なる音をまとめてその音素の異音と言う。1つの音素は少なくとも1つ以上の異音を持つ。音素かどうかが言語によって異なるように、異音かどうかも言語によって異なる。

ここで先程の図解に戻ります。

[m][n][ŋ]は音素/N/に属する異音である

ここでは、3種類の「ん」である[m][n][ŋ]は音素/N/の〈異音〉ということになります。

音素は頭の中にある抽象的・理想的な概念で実際に発音されることはないと記しましたが、実際に発音されるのはその音素の異音です。

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1つの音素は必ず少なくとも1つ以上の異音をもつ

日本語の「ん」の場合は、1つの音素に3つの異音が属するケースでしたが、1つの音素に1つだけの異音が属するケースもあります。

例えば、/b/という音素に注目してみましょう。

英語とタイ語では/b/という音素には[b]だけが異音として属しています。一方アラビア語では、/b/という音素には[p]と[b]の2つの異音が属しています。

このように、1つの音素には必ず少なくとも1つ以上の異音が属します。

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異音の種類「条件異音」と「自由異音」

〈異音〉には2つの種類が存在すると言われるのが一般的です。

それが〈条件異音(位置異音)〉と〈自由異音〉です。

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条件異音(conditional allophone)の定義と具体例

まずは〈条件異音〉、またの名を〈位置異音〉から見てみます。

条件異音じょうけんいおん/位置異音いちいおんconditional allophone/positional allophone音韻論特定の音韻条件(または音韻位置)に現れる異音のこと

具体例は既に登場しています。

セット名 具体例1 具体例2 /N/の異音
セット1 三番(さんばん) 全部(ぜんぶ) [m]
セット2 三台(さんだい) 本当(ほんとう) [n]
セット3 三階(さんがい) 進化(しんか) [ŋ]

右の欄に書かれた[m][n][ŋ]が/N/の〈条件異音〉です。

実はこれらの3つの異音は、実現する条件(位置)が決まっています。つまり、どのような音韻環境でどんな異音が実現するか、決まっているということです。

今回の例からだけで判断すると、それぞれの条件異音が実現する条件は次の通りです。

セット名 具体例1 具体例2 /N/の条件異音 実現する条件
セット1 三番(さんばん) 全部(ぜんぶ) [m] [b]の直前
セット2 三台(さんだい) 本当(ほんとう) [n] [d][t]の直前
セット3 三階(さんがい) 進化(しんか) [ŋ] [g][k]の直前

上記は今回の少ない単語から言えることですが、もっと語数を増やしてそれぞれの異音を調べると、次のような一般化が可能になります。

セット名 具体例1 具体例2 /N/の条件異音 実現する条件
セット1 三番(さんばん) 全部(ぜんぶ) [m] [b]の直前

[両唇音]の直前
セット2 三台(さんだい) 本当(ほんとう) [n] [d][t]の直前

[歯茎音]の直前
セット3 三階(さんがい) 進化(しんか) [ŋ] [g][k]の直前

[軟口蓋音]の直前
セット1に「音符(おんぷ)」のような両唇無声音([p])を含むような単語があれば良かったと反省しています。これらの単語で図解などを既に作ってしまったので、仕方なくこの単語集を使わせていただきます。

このように実現する条件が決まっている異音が〈条件異音〉です。

関連情報

〈音韻論〉では、このようにそれぞれの異音が実現する条件(位置)を研究します。また、このある「環境下においてある異音が実現する」という記述方式も慣習として定められています。詳細は下記の記事をご覧ください。

》投稿予定

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自由異音 (free allophone)の定義と具体例

次に異音の2種類目、〈自由異音〉についてです。

自由異音じゆういおんfree allophone音韻論特定の音韻条件(または音韻位置)に縛られず、自由に現れる異音のこと

〈自由異音〉の具体例も実は既に登場しています。

自由異音ロバ はやく発音[ɾoba]

ロバ ゆっくり発音 [loba]

日本語の[ɾ][l]は音素/r/の自由異音です。なぜなら、同じ音声条件(≒環境≒位置)に実現しているからです。

日本語では[ɾ]と[l]は同じ音素に属する自由異音

もしかしたら次のように思うかもしれません。「はやく発音するのか、ゆっくり発音するのか、発音するスピードという『条件』が違うじゃないか」と。しかし、ここでいう「音韻条件」というのは発音の方法などではなく、「ある音の直前」や「ある音とある音の間」などの、その音が置かれた環境のことを指します。

このように実現する条件が決まっていない異音が〈自由異音〉です。

音素の理解を再確認

ここで音素の理解を確認するために、スペイン語にも注目しておきます。

スペイン語では[ɾ]と[l]はそれぞれ異なる音素に属するそれぞれ異なる異音

日本語では[ɾ][l]は音素/r/の自由異音です。しかし、当然ながらスペイン語ではそうではありません。

そもそも、[ɾ][l]はスペイン語ではそれぞれ異なる音素です。したがって、それぞれ異なる異音だからです。

音素かどうかは言語によって異なると説明しましたが、同様に異音かどうかも言語によって異なります。

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音素の定義の最終確認

お疲れ様でした!これで音素の説明は終了です。

最後に最初にお店した音素の説明を見てみましょう。

音素おんそphoneme音韻論あるひとつの言語(日本語とか英語とか)において、言葉(単語)の意味の区別に関係する音の最小単位。音素は/ /で囲まれる。より感覚的に言うと、ある言語話者が心の中で思い込んでいる「同じ1つの音」の総称のこと。音素かどうかはその言語によって異なる。ある言語内の音素の決定方法を研究する分野を〈音素論〉といい、主に音声的特徴や〈分布〉に基づく。音素は対立分布に現れる。音素は抽象的かつ理想的な象徴であり、実際に発することはできない(実際に発音されるのは音素ではなくその異音である)。また、1つの音素は必ず1つ以上の異音を持つ。

マーカーを引きすぎて分かりにくくなってしまいましたが、音素の説明にかなり色がついて見えるようになったのではないでしょうか?

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

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【関連情報】音素の決定方法「音素論」

この記事で扱う音素の内容はこれにて終了ですが、関連記事のお知らせです。

音素はどうやって決定するのか?という問題を別記事で扱っています。このような音素を確定する手続き手法を研究する分野を〈音素論〉、または〈音素分析〉と言います。

音素論おんそろんphonemics分野・理論ある言語における音素を発見、区別、確定するための方法論

ある言語内にある音素を調べる方法は様々あり、手法によって音素の数が異なってきますが、下記の記事では〈分布〉に基づく音素設定法をご紹介しています。

【音韻論Ⅳ】音素の決定方法(音素論)と分布 (対立分布・相補分布)を【図解】でわかりやすく

かなり分かりやすく説明しています。

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全体のまとめ

これにて『音韻論Ⅲ』は終了です。

今回は〈音素〉と〈異音〉について、以下のポイントについて見てきました。

音素あるひとつの言語(日本語とか英語とか)において、言葉(単語)の意味の区別に関係する音の最小単位。

  • 音素は/ /で囲まれる。
  • 1つの音素は必ず1つ以上の異音をもつ。
  • 音素は抽象的・理想的な象徴であり、実際に発音されることはない。
  • 音素かどうかは言語によって異なる。

異音ある音素が実際の異なる音声となり外在に表出したとき、そのいくつかの異なる音をまとめてその音素の異音と言う。

  • 条件異音
    》特定の音韻条件(または音韻位置)に現れる異音のこと
  • 自由異音
    》特定の音韻条件(または音韻位置)に縛られず、自由に現れる異音のこと
  • 異音かどうかは言語によって異なる。

音韻論に関する記事はこれからも作成していきます。

音韻論の記事を読む

 

参考文献

  • 斎藤純男 (2010)『言語学入門』三省堂
  • 斎藤純男 他 (2015) 『明解言語学辞典』三省堂

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