English is spoken in many countries. を「英語が話される」と訳すと、どこかぎこちなく感じます。英語は受動態をよく使うのに、日本語の「される」とは、しっくりくる場面がずれているのです。なぜでしょうか。
答えから言えば、英語の受動態は、誰を主語に置くか・どの情報を前に出すかを調整する形としてよく使われるからです。日本語にも中立的な受身はありますが、間接受身では迷惑や被害が前に出ることがあります。
English is spoken in many countries. などの例文を通して、英語と日本語の受身がずれる理由を見ていきましょう。
なぜ「受動態=〜される」では訳がぎこちなくなるのか
受動態は「〜される」と習います。そのため日本語の受身と同じものだと思いがちですが、訳してみるとぎこちなくなる文があります。
- The window was broken. (窓が割られた)
- English is spoken in many countries. (英語は多くの国で話されている)
- I was caught in the rain. (雨に降られた)
2を「英語が話される」と直訳すると、少し不自然です。3も、英語は淡々とした言い方なのに、日本語の「降られた」には迷惑な感じがにじみます。同じ「受身」のはずなのに、ニュアンスがそろいません。

受動態は「〜される」と覚えたのに、英語の受動態を訳すとぎこちなくなります。
英語の受動態は、同じ出来事の焦点を入れ替える
英語の受動態が何のための形なのかを、能動態と比べて確かめます。

能動態と受動態は同じ出来事を別の側から語る
英語の能動態と受動態は、同じ出来事を、どちらを主語(主役)に立てて語るかの違いです。Someone broke the window. なら割った人が主役、The window was broken. なら窓が主役になります。
ここに、被害の感情は必ずしも含まれません。行為者ではなく、行為を受ける側に光を当てたいときに選ぶ中立的な形なのです。
受動態は情報の流れを整える
主役を選べると、文の組み立て方が自由になります。行為者が不要・不明・言うまでもないときは、by 〜 を省いて行為そのものに焦点を当てられます。

話題を主語に置いて、文をつなぐ
English is spoken in many countries. は、「英語」という話題を主語に据えて述べた文です。誰が話すかは重要でないので、行為者を出しません。言いたい話題を主語の位置に持ってくることで、文と文が自然につながります。英語の論文や説明文で受動態が多いのも、客観的に、話題中心に述べたいからです。被害とは無関係に、文章を整える道具として働いています。
日本語の受身には、中立的な形と迷惑を表す形がある
日本語の受身がいつも被害を表すわけではありません。「会議は来週開かれる」のような直接受身は、出来事を中立的に述べられます。一方、「雨に降られた」「子どもに泣かれた」のような間接受身は、自分がその出来事の影響を受けたという含みを持ちます。
- 中立的な直接受身:会議は来週開かれる。
- 影響を表す間接受身:私は雨に降られた。/子どもに泣かれた。
間接受身は、出来事の影響を受けた人を主語にする
とくに「降られる」のような自動詞の間接受身は、英語の通常の受動態にはそのまま対応しません。英語の受動態と日本語の受身は重なる部分もあるが、使える範囲と情報の置き方が同じではないため、いつも「される」で訳すとズレるのです。
by 〜 を出すかどうかは、行為者が必要かで決まる
受動態にしたからといって、必ず by 〜 を付けるわけではありません。行為者が文の大事な情報になるときだけ示します。
行為者が重要なら出し、重要でなければ省く
「主役を入れ替える装置」と見ると、by 〜(行為者)を出すかどうかも理解できます。行為者をあえて示したいときだけ by 〜 を付け、不要なら省きます。
作者は重要だから出す。建てた人は重要でないから省く。
The book was written by Soseki. は、作者という情報が大事なので by 〜 を出します。一方 The bridge was built in 1990. は、誰が建てたかより「いつ」が話題なので行為者を省きます。何を主役にし、何を出すかを選べるのが、英語の受動態の便利さです。なお、口語では The window got broken. のように get を使う受動態もあり、こちらは「割れてしまった」という変化や被害の感じが出やすく、日本語の受身に少し近づきます。場面に応じて、能動で訳した方が自然なことも多くあります。
まとめ:英語の受動態は主役を選ぶ、日本語の受身は被害が出やすい
最初の問いに結論を示してまとめましょう。
英語の受動態をよく使うのに日本語の受身とズレるのは、英語の受動態が「誰を主役にするか・どの情報を前に出すか」を調整する装置として広く使われるからです。日本語には中立的な直接受身と、影響を受けた人を主語にする間接受身があり、対応する範囲は一対一ではありません。

今回の要点
- 英語の受動態は、どちらを主語(主役)に立てるかを選ぶ中立的な装置。
- 行為者を省いたり、話題を主語に置いて情報の流れを整えるのに使う。
- 日本語の間接受身は「降られた」のように影響・迷惑を表しやすい。
- だから英語の受動態を機械的に「される」で訳すとズレる。
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