助動詞のcan を学習していて、こんな疑問を感じたことはありませんか?
今回は、この素朴な疑問を扱っていきたいと思います。
結論:can not が用いられない理由
さて、はじめに結論を先にお伝えします。
この結論はかなり簡略化しているので、以下で詳しい説明をおこなっていきます。
詳しい説明
結論を提示したところで、can notではなくcannot/can’tが使われる理由を、3つのステップに分けて解説していきます。
すべてきれいに繋がるので1つずつ確認しながらご覧ください。
ステップ①
まず重要なポイントがあります。
それは、「助動詞の否定には、2つの種類がある」ということです。
否定語not の係る位置(=修飾先)によって、以下の2つに分類されます。
1つ目のステップでは、この「助動詞の否定には、係る位置によって2つの種類に分類される」ということ押さえてください。
このことを意識しながら、次のステップ②に進みましょう。
ステップ②
ステップ②では、実際に助動詞can の否定文を見ていきます。
助動詞can の否定文と言えば、次の『可能(能力)』と『推量』の用法が一般的です。
あなたは、ここに居ることができない(居てはいけません)。
彼は、正直であるはずがない。
否定語not が係っている位置と和訳に注目すると、何か気付くことがあるはずです。
それではステップ③でこの例文から分かることを整理してみましょう。
ステップ③ 結論
ステップ①の「否定語notの修飾先」、ステップ②の「canの例文」を繋げてみましょう。
先ほどのステップ②の例文において、否定語not は、助動詞can に係っていたのに気付いたでしょうか?
視覚的に分かりやすくするために、[ ]で括って示してみます。
あなたは、ここに居ることは[できない]。
彼は、正直である[可能性がない]。
もし仮に、否定語not が〈本動詞〉に係ったらどのようになるのでしょうか?
あなたは、[ここに居なく]ても良い。
彼は、[正直でない]かもしれない。
このような「否定語not が〈本動詞〉に係った意味」は、一般的であまり用いられません。
つまり、
このような「否定語not と 助動詞can の親密な関係性」を踏まえると、cannot(can’t)と一語にまとめて表記した方が誤解を与えず、親切かつ合理的なのです。
これで今回のテーマに対する答えが出てきました。
否定語notは、本動詞と結びつくより、助動詞canと結びつきやすいため
(cannotと一語で表記した方が誤解を与えず、合理的)
【補足説明】「can not は絶対に誤り」という訳ではない
今までの説明ご覧になってお気付きかと思いますが、「can not が絶対に誤り」という訳ではありません(試験やアカデミックライティングでは使用しない方が確実に無難です)。
あくまで「can notと分けて表記するより、cannot/can’t と一語にまとめた方が好ましい」ということです。
あるコーパス調査(実際に使用された言語のデータを集める調査)では、cannot と can’t の使用頻度について以下のように述べています。
cannot : can not =15 : 1
結果としては「can not の使用は控えた方が良い」というのは変わりありませんが、その理由は「can not が非文法的だから」というよりは、「cannot / can’t の方が親切で合理的だから」といった方が正確かと思います。
〈応用編〉must や may において
少しハイレベルなお話なので、読み飛ばしていただいても構いません
先ほど、「否定語not は助動詞can と結びつきやすい」と説明しました。
しかし、他の助動詞である must や may を見てみると、対照的な現象が起きています。
notの修飾先や和訳に注目しながら例文をご覧ください。
君は、ここに居るな(禁止)
[ここにいない]ということをしなければならない
彼は、親切ではないかもしれない
[親切ではない]ということがあるかもしれない
must や may のような否定のことを〈命題否定〉と呼びます。一方で、can の否定文のように助動詞の意味を否定することを〈法否定〉と呼びます。ちなみに、〈法否定〉の「法」というのは、can などの助動詞が〈法助動詞〉と呼ばれるからです。
[参考記事]【助動詞】助動詞の種類・分類について
助動詞の否定形に付き纏う疑問
今回の、『can + not の綴り字が、cannot / can’t になる理由』に似た次のような疑問を抱いたことはないでしょうか?
すなわち、
という疑問です。
今回のテーマと同じく「助動詞と not の関係性」を扱った関連記事です。合わせてご覧ください。
まとめ「can+ not → cannot になる理由」
今回は、『can + not の綴り字が、cannot / can’t になる理由』をお話してきました。
その解決の鍵を握るのは、「否定語not が助動詞に係るのか、それとも本動詞に係るのか」という点にありました。
今回のポイントです。
- 安井稔 (1983)『改訂版 英文法総覧』開拓社
- 中野清治 (2014)『英語の法助動詞』開拓社
関連コンテンツの紹介
この記事は「助動詞シリーズ」と呼ばれるものです。助動詞canについては、当記事を合わせて計4つの記事を作成しています。
◆助動詞シリーズcan ①:
【助動詞】法助動詞 can の用法とコアイメージ
◆助動詞シリーズcan ②:
【助動詞】can と be able to の違い
◆助動詞シリーズcan ③:
【助動詞】can と may の『許可』の違い
◆助動詞シリーズcan ④(当記事):
【助動詞】なぜ can not ではなく cannot なのか?
◇助動詞そののもについて:
【助動詞】助動詞の種類・分類について
can 以外の助動詞についても、かなり詳しく扱っています。
また次の記事でお会いしましょう。
コメント
最初の「結論」の所で、「否定語not が助動詞canではなく、〈本動詞〉に係っていることを明確にするため」とありますが、これは、「否定語not が〈本動詞〉ではなく、助動詞canに係っていることを明確にするため」の間違いですよね?
最後の「ポイント」では、「can not の表記が避けられ、cannot / can’t の表記が用いられる理由は、否定語not が助動詞can に係っていることを明確に示すため」となっています。
コメント、並びにご指摘ありがとうございます。
ご指摘いただいた通り、最初の結論が間違っておりました。失礼いたしました。