この記事では、調音音声学における〈声道〉と〈調音部位〉のそれぞれの場所と名称について扱います。
大学の授業で場所と名称を暗記させられることもあるかもしれませんが、それ以上に〈子音〉を分類をする際に、〈調音点〉が重要になってくるため、それぞれの場所と名称を理解しておくことは重要です。
「言語学」というよりは「解剖学」よりのテーマですが、ぜひ最後までご覧いただければ幸いです。
【基礎知識】音声学(Phonetics)とはどんな学問か?
本題に入る前に、そもそも音声学とはどんな学問か?ということに触れておきます。
音声学は、言語学の1つの分野であり、人間の言語の(物理的な)音に注目します。また、以下のように3種類の音声学が代表的です。
つまり音声学の定義は、人間の言語に使われている音が「どのように作られ」、「どのように空気中を伝播し」、「どのようにして聞き取られ理解されるのか」、を研究する学問です。
言語学における音声学の位置付け
ここで言語学全体における音声学の立ち位置も見ておきます。
言語には、「音」「構造」「意味」の3つの側面がありますが、音声学は、名前の通り言語の「音」に注目します。
音声学のおさらいは以上です。次から本題の〈声道〉について見ていきます。
声道(vocal tract)とは何か
〈声道〉とは、その名の通り、「声(の元になる空気)の通り道」のことです。1本の長い管のようなものをイメージしていただければ問題ありません。
私たち人間(ヒト)は、簡単に言うと、肺から送り出された気流に対して色々な影響を与えることによって、言語音を作り出します。
この「後の声となる空気の通り道」が〈声道〉です。また、ヒトの〈声道〉は、成人男性で16.9cm程度、成人女性で14.1cm程度というデータもあります。
調音部位(place of articulation)とは何か
さて、後の音となる空気が〈声道〉を通ってくることはお話した通りですが、気流はただ単に〈声道〉を通って出てくるわけではありません。
その気流は、声道の中であらゆる「障害物」に妨げられ、その結果、言語音として出てきます。
その声道内の「気流を妨げる場所」のことを〈調音部位〉と呼び、その阻害機能を担う器官(唇や歯など)の総称を〈調音器官〉と呼びます。
この〈調音部位〉と〈調音器官〉の2つの名称は混同しやすいですが、調音音声学ではもっぱら〈調音部位〉(place of articulation)という用語の方を使います。特に〈子音〉を記述する際は、〈調音部位〉は重要な要素となります。
補足説明
【図解】声道・調音部位の名称
ここからは、ヒトの声道と調音部位の名称を見ていきます。
現代アメリカ英語を対象とした〈調音音声学〉の基本的な知識としては、以下のイラストに示された調音部位が挙げられます。
赤字で示されている部位は、現代アメリカ英語における言語音の名前に関係するものを示しています。詳しくは以下で記します。
調音部位の名称とそこで調音される音の名前
これらの調音部位の名称は、そこで調音される音の名前と関係があります。
以下に、簡単に「部位の名称」と「そこで調音される言語音の名前」を「名称→言語音の名前」という形式でリストアップしておきます。そこで調音される言語音がない場合は「∅」を表記しています。
①歯茎(alveolar ridge)→歯茎音(alveolars)
〈歯茎〉とは、歯の付け根の部分です。この上側の歯茎と舌先が関与する音を〈歯茎音〉と言います。
②唇(lips)→両唇音(bilabials)
説明するまでもないあの〈唇〉です。上下の唇が関与する音を〈両唇音〉と言います。また③にある通り〈唇歯音(labiodentals)〉という音にも関与します。
③歯(teeth)→歯音(dentals)/唇歯音(labiodentals)
説明するまでもないあの〈歯〉です。歯単体で調音される音は現代アメリカ英語にはありませんが、他の調音部位と協働して下記の2つの音を調音します。
- 〈歯音〉:上の歯と舌先が関与する音
- 〈唇歯音〉:下唇と上の歯が関与する音
④舌(tongue)→いろいろ
説明するまでもないあの〈舌〉です。
舌単体で調音される音は現代アメリカ英語にはありませんが、他の調音部位に接触することで「いろいろ」な言語音を調音します。
下記は〈舌〉が関与する言語音です。
- 〈歯茎音〉:上側の歯茎と舌先が関与する音…①
- 〈歯音〉:上の歯と舌先が関与する音…③
- 〈硬口蓋音〉:硬口蓋と舌先が関与する音…⑦
- 〈軟口蓋音〉:軟口蓋と舌の後半部(後舌)が関与する音…⑧
⑤声帯(vocal folds)→∅
読み方「せいたい」
〈声帯〉とは、声を生成する基盤であり、喉頭の全部に位置する粘膜上の器官です。この〈声帯〉で直接調音される音はありませんが、この声帯が振動することで言語音に〈有声性〉という特徴が付与されます。(現代アメリカ英語の母音は全て声帯を振動させる必要があります)。
⑥鼻腔(nasal cavity)→鼻音(nasals)
読み方「びこう」
〈鼻腔〉とは、鼻の穴の奥にある空洞のようなスペースを指します。
この〈鼻腔〉が関与する〈鼻音〉という音は、厳密に言うと〈調音部位(調音点)(place of articulation)〉による分類ではなく〈調音法(manner of articulation)〉なのですが、一応ここに載せておきます。
⑦硬口蓋(palate)→硬口蓋音(palatals)
読み方「こうこうがい」
舌の先で口の中の天井を触ってみると、硬い部分があるのが感じられると思います。そこが〈硬口蓋〉です。
この硬口蓋と舌先が関与する音が〈硬口蓋音〉です。
⑧軟口蓋(velum)→軟口蓋音(velars)
読み方「なんこうがい」
⑦の硬口蓋の奥を舌先で触ると、天井が柔らかくなっているのが感じられると思います。そこが〈軟口蓋〉です。
この軟口蓋と舌の後半部(後舌)が関与する音が〈軟口蓋音〉です。
⑨口蓋垂(uvula)→∅
読み方「こうがいすい」
口の奥部にある垂れた部位です。いわゆる「のどちんこ」です。
現代アメリカ英語には、この口蓋垂を使用して生成する音はありません。
⑩咽頭(pharynx)→∅
読み方「いんとう」
〈咽頭〉とは、簡単に言うと「鼻の奥から食堂につながる部分」です。すなわち「食事の通り道」です。
現代アメリカ英語には、この咽頭を使用して生成する音はありません。
⑪喉頭(larynx)→∅
読み方「こうとう」
〈喉頭〉とは、喉仏がある部分で、この中央部分に⑤の〈声帯〉があります。「空気の通り道」と換言できます。
現代アメリカ英語には、この喉頭を使用して生成する音はありません。
⑫声門(glottis)→声門音(glottals)
読み方「せいもん」
〈声門〉とは、⑤の〈声帯〉の間の通路のことを指します。この声帯で調音される音は〈声門音〉と言います。
全体のまとめ
今回は、〈声道〉と〈調音部位〉について見てきました。
- 〈声道〉とは、「声(の元になる空気)の通り道」のこと
- 〈調音部位〉とは、その声道内の「気流を妨げる場所」のこと
- 調音部位の名前はそこで調音される音の名前に関係している
これらの名称は、ただ単に闇雲に覚えるというよりは、「子音を分類して記述するために覚える」という目的があります。ぜひ〈子音〉と合わせて学習していただけたら幸いです。
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