【認知言語学】認知文法とは?文法を意味のある選択として読み直す

形式と意味が結び付く認知文法のネットワーク図

The glass is on the table. の意味は、glasstable の単語だけでは決まりません。どちらを主語にするか、二つの物の関係を on でどう捉えるかという文法形式も、聞き手が作る場面に関わります。

認知言語学は、ことばを人のカテゴリー化、注意、経験、使用と結びつけて考える分野です。認知文法はその中で、文法を意味のない規則表ではなく、形式と意味が結びついた慣習的な単位のネットワークとして捉えます。

使用経験から象徴単位のネットワークを通じて発話へ至る認知文法の概念図
使用経験から定着した象徴単位がネットワークを作り、発話の資源になります。
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認知文法は形式と意味を一つの単位として扱う

認知文法では、音や綴りなどの形式と、概念内容・捉え方を含む意味が結びついたものを象徴単位と呼びます。単語だけでなく、複数形の接辞、時制、前置詞、複数語の表現、構文も対象です。

これは「文法を日本語訳へ置き換える」という意味ではありません。たとえば複数形の -s は、「二つ以上」という訳語だけでなく、数えられる対象を複数の集合として構成する働きを持ちます。意味は、用語集の一語訳より広い概念です。

認知文法は、話者が知る言語を、こうした単位が関係し合う目録と考えます。目録はばらばらの暗記カードではなく、具体例、抽象的なスキーマ、意味の拡張がつながるネットワークです。

象徴単位には大きさと定着度の違いがある

単語、接辞、複合表現を形式と意味の組として示す象徴単位の図
cat、-s、be going toは抽象度が違っても、形式と意味が結びついた単位です。
形式 結びつく意味 単位の大きさ
cat 猫というカテゴリー 一語
-s 複数として捉えること 接辞
be going to 文脈に応じた未来・意図など 複数語

複数語の表現でも、繰り返し使われて形式と意味の対応が慣習化すれば、一つの単位として扱えます。逆に、一度だけ偶然並んだ語列を、すぐ象徴単位とみなすわけではありません。使用の中でどれほど定着しているかが関わります。

形式と意味は、必ず一対一ではありません。同じ形式に関連する複数の意味があることも、似た意味を異なる形式で表すこともあります。そのため、単位は孤立した札ではなく、関係の網として記述されます。

カテゴリー・スキーマ・ネットワークで文法をつなぐ

個別の表現だけを覚えていては、新しい文に対応できません。かといって、一つの抽象規則ですべての例を同じにすることもできません。認知文法は、具体例と一般化の間を三つの見方でつなぎます。

個別の前置詞用法から抽象的スキーマへつながる認知文法のネットワーク図
個別例から共通するスキーマが抽出され、関連する用法へ拡張します。
  • カテゴリー 似た例を同じ種類として扱い、典型的な例と周辺的な例を区別します。
  • スキーマ 複数の例に共通する構造を、より抽象的な型として取り出します。
  • ネットワーク 具体例、スキーマ、拡張された意味や形式を関係づけます。

たとえば前置詞 over には、物理的な上下関係を表す例から、移動経路や抽象的な優勢を表す例まであります。一つの定義に無理に押し込むのではなく、中心的な関係と拡張をネットワークとして追います。意味拡張の詳しい仕組みは多義語と放射状カテゴリーで説明しています。

文法形式は出来事の見せ方を選ぶ

認知文法で「文法に意味がある」と言うとき、同じ出来事をどの形式で構成するかも含みます。

進行形、受動態、前置詞が際立たせる意味を比較する表
文法形式は、出来事の内部、被影響者、空間関係などを異なる仕方で際立たせます。

進行形は出来事の内部を見せる

She is reading the report. は、読む出来事を完了した全体としてではなく、進行中の内部から捉えます。進行形は単なる時刻の札ではなく、出来事をどの段階から見るかに関わります。

受動態は影響を受けた対象から始める

The window was broken. は、窓を主語にして結果や被影響性を前に出します。行為者は by 句で示せますが、文脈で不要なら表さなくても構いません。能動態と同じ事実を指せても、情報の入口は同じではありません。

前置詞は関係の捉え方を示す

The picture is over the sofa. では、二つの物の客観的な距離だけでなく、ソファを基準に絵を上方へ位置づけます。in / on / at の具体的な違いは、前置詞を空間と時間の捉え方から読む記事で確認できます。

同じ内容を別の形式でどう見せるかは、construal(捉え方)の中心的な問いです。

構文文法・用法基盤モデル・生成文法との違い

認知文法と構文文法、用法基盤モデル、生成文法の関係図
形式と意味、使用経験、統語構造という異なる問いが、認知文法の周辺で交わります。

構文文法は、語や構文を形式と意味・機能のペアとして詳しく記述します。用法基盤モデルは、そうした単位が使用経験からどう定着し、一般化されるかに重点を置きます。認知文法は、象徴単位とそのネットワークを広く理論化します。

生成文法は、話者がどのように可能な文の統語構造を知り、無数の文を生成できるかを中心に問います。「生成文法は意味を扱わず、認知文法だけが意味を扱う」という単純な対比ではありません。説明したい問いと単位が違います。

それぞれの詳しい入口は、構文文法用法基盤モデル生成文法と認知言語学の比較に分けています。

まとめ 文法を意味のある選択として読み直す

認知文法の象徴単位ネットワークをまとめとして示す図
使用、定着、象徴単位、ネットワーク、発話を一続きの文法知識として捉えます。

認知文法では、形式と意味が結びついた象徴単位が、具体例から抽象スキーマまでネットワークを作ると考えます。文法形式は、出来事に後から貼るラベルではなく、何を前に出し、どの関係として表すかを選ぶ資源です。

英文を読むときは、「どの形式と意味が結びつくか」「どの具体例とスキーマにつながるか」「なぜ別の形式ではなく、この形が選ばれたか」を確かめてください。認知文法は、すべてを個人の心だけで説明する理論ではなく、使用と社会的な慣習の中で共有された言語知識を観察する枠組みです。

参考文献

象徴単位を示す英文は本稿用に作成し、認知文法の定義・術語はLangackerの著作で確認しています。
  • Langacker, R. W. Cognitive Grammar: A Basic Introduction. Oxford University Press.
  • Langacker, R. W. Foundations of Cognitive Grammar. Stanford University Press.
  • Diessel, H. The Grammar Network. Cambridge University Press.

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