【認知言語学】多義語と放射状カテゴリーとは?意味拡張の仕組みを読む

一つの単語から関連する意味が放射状に広がる図

The plane flew over the city.over は、都市の上を通る空間的な経路を表します。ところが The meeting is over. では「会議が終わった」という意味です。同じ語に見える二つの用法は、たまたま同じ形なのでしょうか。それとも、意味のつながりがあるのでしょうか。

認知言語学は、単語のカテゴリーに典型的な例と周辺的な例があり、経験や使用を通じて意味が拡張すると考えます。多義語は関連する複数の意味を持つ語、放射状カテゴリーは中心的な意味と拡張義のつながりをネットワークとして表す考え方です。

overの空間用法と完了用法を対比する図
同じoverが、空間的な経路と出来事の完了を表します。
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多義語は訳語の多い語というだけではない

辞書に複数の語義番号があることは、多義を見つける手がかりです。しかし、語義の分け方は辞書によって異なり、文脈ごとの細かな解釈をすべて独立した意味と数えるわけでもありません。

多義語で重要なのは、複数の意味に一定の関連があることです。空間的な関係が時間や状態へ拡張したり、ある場面の一部が慣習的な意味として定着したりします。

放射状カテゴリーは、そうした意味を中心と周辺へ並べ、どの意味がどの意味からどう拡張したかを線で示します。ただし、中心的な意味を「歴史上もっとも古い意味」と自動的に決めるものではありません。現在の話者にとっての典型性、説明力、使用頻度、歴史的な証拠を分けて考えます。

overの意味をネットワークでつなぐ

中心的な空間義から複数の関連義が広がる放射状カテゴリー図
空間的なoverを参照点に、越境、完了、優勢などの関連義をたどります。

over の空間的な用法には、対象より上にある、上を越える、ある範囲を覆うといった関係があります。そこから、境界を越えて出来事が終点に達する「完了」や、上下関係を抽象化した「優勢」などへつながる分析ができます。

同じoverを文脈で比べるThe plane flew over the city.
飛行機は都市の上を飛んだ。

The meeting is over.
会議は終わった。

She has control over the project.
彼女はその計画を管理している。

大切なのは、一つの日本語訳ですべてを説明することではありません。「上方」「境界越え」「完了」「優勢」の間に、どんな関係を仮定すると用法を予測できるかを確かめます。すべての用法が一段で中心義から派生するとは限らず、周辺義からさらに別の意味へ広がることもあります。

プロトタイプ・比喩・メトニミーの役割を分ける

プロトタイプ、比喩、メトニミー、放射状カテゴリーの役割の違い
中心性、拡張の動機、ネットワーク全体の形を別々に考えます。
概念 説明すること
プロトタイプ カテゴリーの中で何が典型的か
概念メタファー 空間と時間など異なる領域がどう対応するか
メトニミー 同じ場面の近接した要素をどう結びつけるか
放射状カテゴリー 複数の語義が全体としてどうつながるか

プロトタイプは中心性を、比喩とメトニミーは拡張を動機づける関係を、放射状カテゴリーは意味ネットワーク全体を説明します。一つの語義拡張に複数の仕組みが関わることもあります。

カテゴリーの典型性はプロトタイプ理論、空間的経験から抽象概念を組み立てる考え方はイメージスキーマで詳しく説明しています。

多義語と同音異義語は一つのテストで決まらない

同音異義語は、同じ音や綴りを持ちながら、別の語として扱われる意味です。bank の「銀行」と「川岸」は、その代表例として挙げられます。多義語なら意味をつなぐネットワークが想定され、同音異義語なら別々の語の島として扱われます。

多義と同音異義を区別する際に見る複数の判断材料
意味の関連性、歴史、文法的な振る舞い、話者判断を合わせて見ます。

しかし、境界を機械的に決める万能テストはありません。次の証拠を合わせて判断します。

  • 現在の話者が意味の関連を感じるか
  • 語源や歴史的な発達が共通するか
  • 品詞、構文、語形変化が同じふるまいをするか
  • 辞書やコーパスでどのように区別されているか

語源が同じでも、現代の話者には別語として感じられることがあります。逆に、語源が異なっても、使用の中で関連づけられる場合があります。多義か同音異義かという分類自体に、分析上の境界があることを認めます。

辞書の語義を中心・拡張・文脈で読み直す

辞書の複数語義を中心と周辺、文脈で整理する手順図
中心候補を置き、周辺義へのリンクを考え、最後に実際の文脈で確かめます。

辞書を使うときは、語義番号をばらばらに暗記する前に、次の順序で整理します。

  1. 具体的で説明力のある中心候補を探す。
  2. 周辺義へつながる関係を「空間から時間へ」など短い言葉で表す。
  3. 各語義が現れる構文と一緒に使われる語を確かめる。
  4. 実際の文脈へ戻し、その語義を選ぶ手がかりを確認する。

中心義は、すべての用法を自動的に当てる公式ではありません。意味ネットワークは暗記量をゼロにするのではなく、複数の用法を関係づけ、どこから先は慣用として学ぶ必要があるかを見せます。

具体例として、seeが「見る」から「分かる」へ広がる理由upが完了の意味を持つ仕組みを読むと、抽象的なネットワークを英文の中で確かめられます。

まとめ 意味の数ではなくつながりを追う

多義語の意味が中心から関連づけられる放射状カテゴリーのまとめ図
中心と周辺を固定的な階層ではなく、証拠に基づく意味関係のネットワークとして読みます。

多義語は、無関係な訳語を偶然たくさん持つ語ではありません。中心的な意味と複数の拡張義が、比喩、メトニミー、カテゴリー化、使用の慣習を通じてネットワークを作ります。

語義を調べたら、「どの意味が中心候補か」「意味どうしを何がつなぐか」「どの文脈と構文が語義を選ぶか」を確かめてください。語と語の間にある同義・反義・上位下位などを整理する場合は、語彙的意味関係が次の入口になります。

参考文献

overを中心とする英文は語義関係の説明用に作成しました。研究史上の代表例は出典を区別しています。
  • Brugman, C. “The Story of Over: Polysemy, Semantics, and the Structure of the Lexicon.”
  • Brugman, C. and Lakoff, G. “Cognitive Topology and Lexical Networks.”
  • Croft, W. and Cruse, D. A. Cognitive Linguistics. Cambridge University Press.
  • Lakoff, G. Women, Fire, and Dangerous Things. University of Chicago Press.
  • Tyler, A. and Evans, V. The Semantics of English Prepositions. Cambridge University Press.

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