“Who do you love?” と聞かれたとき、I love you. とだけ答えても意味は通じます。けれども、相手が別の人だと思い込んでいるなら、It is you that I love. と言う方が「愛しているのは、ほかでもないあなた」とはっきり伝わります。そこで文頭の it を「それ」と訳そうとすると、急に意味が取れなくなります。
この記事では、It is X that … という強調構文だけにしぼり、普通の文と何が違うのか、形式主語の it とどこで分かれるのかを見ます。
先に結論を言うと、強調構文の it は何かを指す代名詞ではなく、強調したい X を文の目立つ位置へ出すための枠です。that 以下には元の文の残りを置き、X だけを答えとして浮かび上がらせます。
I love you. を起点に、なぜ you が中央へ引き出されるのかをたどっていきましょう。
it を「それ」と読もうとすると、どこで行き止まるのか
I love you. は、愛している相手を普通に伝える文です。相手が誰かを取り立てたいとき、英語は you だけを文頭に移すのではなく、It is you that I love. と言います。
It is you that I love. の it は何を指すのか探しても、you でも love でもありません。それでも文頭に置かれています。天気の It is raining. や時間の It is five o’clock と同じように、具体的な物を指さない it だからです。では、何も指さない it をわざわざ置くと、文のどこが変わるのでしょうか。
普通の文では、情報が同じ重さで並ぶ
I love you. には、I、love、you という必要な情報が順に並びます。ふつうの会話なら、それで十分です。誰を愛しているかを聞かれていても、前後の文脈があれば you が答えだとわかります。
ところが、相手が Ken だと思っていた、候補が何人かいる、あるいは「誰なの?」と聞かれている場面では、you をただ目的語の位置に置くだけでは弱く感じることがあります。そんなときに、英語は you を特別な位置へ引き出します。
it は、指すためでなく枠を作るためにある
It is you that I love. の it は、you を見せるための枠の左側を作ります。that 以下には「私が愛している」という背景を置き、中央の you を見せます。it 自身を訳の主役にしようとするより、「ここから焦点を出します」という合図だと見る方が、文全体がつながります。
強調したい語を、舞台の中央に引き出す
強調構文で目立つのは、it でも that でもありません。It is と that のあいだに置かれた語です。そこが、相手にいちばん受け取ってほしい答えになります。

It is you that I love. で照らされるのは you です。It was yesterday that I met her. なら yesterday、It was in Kyoto that we met. なら in Kyoto が中央に出ます。
同じ内容でも、どこにスポットライトを当てるかで、相手に受け取ってほしい答えが変わります。誰なのか、いつなのか、どこなのか。強調構文は、文の情報を足すというより、すでにある情報の見せる順番を変える仕組みです。
| 質問 | 普通の答え | 焦点を強く出す答え |
|---|---|---|
| 誰を愛しているの? | I love you. | It is you that I love. |
| いつ会ったの? | I met her yesterday. | It was yesterday that I met her. |
| どこで会ったの? | We met in Kyoto. | It was in Kyoto that we met. |
後者がいつも上品だったり強かったりするわけではありません。前の会話でどこが問題になっているかによって、必要になる形です。
「他でなくこれ」という含みが生まれる
強調構文を使うと、表に出していない候補まで少し見えてきます。It is Ken that called me. と言うと、「ユミでもサトウさんでもなく、電話したのはケンだ」という選び出しが聞こえます。

It is Ken that called me. は、単にケンが電話したと伝えるより、「電話したのはケンだ」という対比を感じさせます。ほかの候補があり、その中からケンを選んでいるような響きです。
だから、何でも強調構文にすればよいわけではありません。答えを訂正したいとき、選択肢をはっきりさせたいとき、相手が見落としている一点を示したいときに、形の意味が生きます。
たとえば “Was it Ken who called you?” と聞かれて “No. It was Aya that called me.” と答える場面では、Aya が訂正の答えになります。普通の Aya called me. でも事実は伝わりますが、「そこを直したい」という意図は強調構文の方がはっきり出ます。
語順が固定だから、枠を作る
日本語は「私が愛しているのは、あなたなんだ」のように、助詞や語順で焦点を作れます。英語でも前へ出すことはありますが、普通の文で目的語を自由に前へ置くことはできません。*You I love. とすると、詩のような特殊な響きになってしまいます。

そこで It is X that … の枠が働きます。語順の骨組みを崩さず、強調したい部分だけを目立つ位置へ出せます。語順そのものを反転させる表現は、否定語倒置にも見られますが、強調構文は枠の中に焦点を置く方法です。
普通の文をいったん作り、強調したい要素だけを It is と that のあいだへ移す、と考えると組み立てやすくなります。I met her in Kyoto. なら、場所を強調したいときは It was in Kyoto that I met her. です。that 以下では元の文の残りが保たれます。
形式主語の it とは、that 以下の役割が違う
It is important that he arrive on time. の it は、that 以下の内容が重要だと述べる形式主語です。It is Ken that called me. の that 以下は、Ken についての背景を補う部分です。
見分けるときは、It is X that … の X に人・物・時間・場所が入り、その X を外しても残りが文らしく戻せるかを考えます。It is Ken that called me. は Ken called me. に戻せます。It is important that … は important を強調した形ではありません。
It is Ken that called me.:Ken called me. という文から Ken を焦点にする。
It is important that he arrive on time.:that 以下の内容が重要だと述べる。
どちらにも it と that が見えるので、形だけでは混ざりやすいところです。中央に「選び出した人・物・時・場所」がいるかを先に見ると、強調構文かどうかを判断しやすくなります。
日本語の「こそ」「なんだ」と近いが、同じではない
日本語に訳すと、「〜こそ」「〜なんだ」「〜なのは」といった形が近くなります。ただし、日本語の助詞や語尾を一つ選べば機械的に It is … that … になるわけではありません。二つの言語で、焦点を作る方法が違うからです。

It is you that I love. は「私が愛しているのは、あなたなんだ」「愛しているのはあなたこそだ」と訳せます。日本語は助詞や語順で焦点を作り、英語は it と that の枠を使います。
訳語を一つに固定するより、「ほかでなくここを選んでいる」と感じ取るほうが大切です。強調構文の it は意味を運ぶ単語ではなく、焦点のための舞台装置なのです。
まとめ:強調構文の it は、X を選び出す枠
だから it を見た瞬間に「それ」と訳す必要はありません。It is X that … を見たら、まず X に丸をつけてみてください。そこが、話し手がいちばん明るく照らしている部分です。

普通の文:出来事をそのまま伝える。
強調構文:候補のなかから X を選び出し、そこへ注意を集める。
it:何かを指すためでなく、X を前に出す枠を作る。
この見方を持っておけば、長い形に出会っても「it と that が増えた」とだけ覚える必要はありません。何を目立たせるために、普通の語順からこの枠へ移ったのかを追えば、文の意図まで読めます。
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FAQ
強調構文では何でも強調できますか
主語、目的語、時間、場所などは自然に強調できます。ただし動詞だけをそのまま焦点にする形は制約があり、別の言い方を選ぶことがあります。
that は who や when に替えられますか
人を焦点にするときには It was Aya who called me. のように who も使えます。ただし、まずは It is X that … を基本形として、X が何を選び出しているかを読めるようにする方が大切です。


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