この『意味論⑤』では、意味論における〈発話〉〈文〉〈命題〉の3つのトピックについて扱います。
このような内容を見ていきましょう。
はじめに「意味論はどのような分野か?」
意味論の言語学における位置づけや、意味論の種類など、『意味論の全体像』については別記事を作成しています。
3つの抽象性の次元:発話・文・命題
それでは本題に入りましょう。
〈発話〉〈文〉〈命題〉は、言語表現における概念ですが、〈抽象性〉のレベルが異なります。
上記3つの関係をまとめると、次のようになります。
このことを念頭に、下から〈発話〉➤➤〈文〉➤➤〈命題〉の順番で見ていきましょう。
発話 (Utterance):最も具体的
〈発話〉は、言語表現において、最も抽象性が低い(=最も具体的)な概念です。
例えば、次のような場面を想定してください。
上のイラストは、異なる人間が ‘John kicked Mary’ と発言しているシチュエーションです。
このような場合、
と考えます。
つまり、「発言している人物」や「話すスピード」などなど、すべてを含んだ最も具体的な言語表現が〈発話〉というレベルになります。
〈発話〉に関する補足説明
ここから先は、〈発話〉に関する補足説明を見ていきます。
(1)〈発話〉の表記法
(2) 文法的である必要はない
(3) 自然言語の一部でなければならない
それでは次に〈文〉というレベルを見てみましょう。
文 (Sentence):抽象性のレベルは真ん中
〈発話〉が最も具体的なレベルであり、それが抽象化・一般化されたものが〈文〉と呼ばれる概念です。
以下のような『異なる2人が“John kicked Mary”と発話している場面』を想定してみましょう。
先ほどと同じシチュエーションですが、このような場合、
と考えます。
つまり、〈発話〉から、「発話者」や「アクセント・イントネーションの特徴」などの音声的特徴を取り除いたものが〈文〉と呼ばれる概念です。
〈文〉に関する補足説明
ここからは〈文〉に関する補足説明を取り上げます。
(1) 〈文〉の表記法
(2) 〈文〉は文法的である必要がある
それでは次に〈命題〉という概念を見てみましょう。
命題 (Proposition):最も抽象的
言語の「抽象性のレベル」において、
最も具体的なのが〈発話〉、それが抽象化されたのが〈文〉ということを見てきましたが、最も抽象化された概念が〈命題〉と呼ばれるものです。
このようなシチュエーションでは、
と考えます。
というのも、上の4人全ての女性は、言語表現の仕方は違いますが、記述内容は同じだからです。
したがって、上記の4つは「同じ命題」として解釈されます。
〈命題〉の表記法 (複数あり)
1つの〈命題〉は、複数の〈文〉で表現され得る
異なる言語で表現しても「同じ命題」と扱われる
「命題=意味」なのか?
全体のまとめ
以上で『意味論⑤』は終了です。
今回は、〈発話〉〈文〉〈命題〉という3つの概念を見てきました。
それら3つは、抽象性のレベルが異なります。
- 〈発話〉は、言語において最も具体的なレベルの概念
- 〈文〉は、実際の言語使用から抽象化・一般化された概念
- 〈命題〉は、最も抽象的なレベルの概念
➤ 1つの命題は、複数の文で表現され得る
参考文献
- Saeed, J. I. (2009) Semantics (3rd edition). Wiley-Blackwell.
- 斎藤純男・田口善久・西村義樹 (2015) 『明解言語学辞典』三省堂
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