この記事では、〈文型〉について扱います。
学校文法で必ず学習する〈文型〉ですが、その中で次のような2つの文は同じ意味だと習ったのではないでしょうか?
(b) Tom sent Mary a letter.
どちらも「メアリーはトムに手紙を送った」となり、(a) と (b) は同じ意味だと説明されています。
しかしこの機械的な書き換えの裏には、わずかながらも意味の違いというものが存在するのです。
今回はこの意味の違いを扱っていきます。
文型についての確認
まずは今回 扱う文の〈文型〉を確認しておきます。
(b) Tom sent Mary a letter.
(a)は、SVO+前置詞句の第3文型で、(b)は、SVOOの第4文型です。
冒頭の話と重複しますが、学校文法では、(a)も(b)も同じ意味で、書き換えが可能とされています。
しかしながら、言語学で「形式が異なれば意味も異なる」という理念があるように、「意味の変化を伴わない形式の変化はあり得ない」とも言われています。
そもそも(a)と(b)が全く同じ意味であるならば、なぜ(a)と(b)を別の文型として扱う必要があるのでしょうか?
今回使うアイデア
今回、意味の違いを浮き彫りにするために使用するアイデアは、〈文末焦点の原理〉というものです。
その〈文末焦点の原理〉について説明します。
文末焦点の原理とは
は、以下のように定義されます。
(または文末に移動されたものは焦点化される)
要するに「大事なことは最後に出す」という原理のことです。
「大事」の基準について
それでは、その「大事」とはどのような基準なのでしょうか?
ここで登場するのが〈旧情報〉と〈新情報〉というものです。
言語を使用するとき、
- 話し言葉なら、「話し手」と「聞き手」の間で、
- 書き言葉なら、「書き手」と「読み手」の間で、
多種多様な情報が飛び回っています。
そんな情報を、
- 「話題として既に登場したか、してないか」
- 「話し手と聞き手で共有できているか、できてないか」
の観点から線引きすることができます。
そして、次のように定義されます。
新情報の方が「大事」
情報は〈旧情報〉と〈新情報〉に分類できることを見てきましたが、〈新情報〉の方が重要性の高い情報なのです。
もう既に知っている古い〈旧情報〉とまだ知らない新しい〈新情報〉があったら、話の焦点は〈新情報〉に置かれることは直感的に分かるかと思います。
つまり、〈新情報〉の方が大事だということは、〈文末焦点の原理〉で文の後ろの方に回されるのは、〈新情報〉だということです。
〈文末焦点の原理〉についての参考記事
〈文末焦点の原理〉について詳しく解説した記事を作成しました。
以上で下準備は終了です。
意味の違い
ここからは、先程の例文に〈文末焦点の原理〉を適応してみましょう。
(b) Tom sent Mary a letter.
第3文型(SVO+前置詞句)
まずは、こちらの第3文型の例文から考えてみましょう。
〈文末焦点の原理〉の観点から捉えると、焦点が当てられているのは、文末近くの Mary であると分かります。
つまり、「メアリーに何を送ったのか?」ではなく、「手紙を誰に送ったのか?」の方が関心事だと言えます。
したがって、(a)は以下の[質問]に対する[返答]だと考えることができます。
「トムは手紙を誰に送ったの?」
⬇
[返答] Tom sent a letter to Mary.
「トムは2つの手紙をメアリーに送った」
第4文型(SVOO)
〈文末焦点の原理〉から判断すると、文の最後に置かれている a letter に焦点が置かれていることが分かります。
つまり、「手紙を誰に送ったのか?」ではなく、「メアリーに何を送ったのか?」ということが関心事になっています。
したがって、(b)は以下の[質問]に対する[返答]だと考えることができます。
「トムはメアリーに何を送ったの?」
⬇
[返答] Tom sent Mary a letter.
「トムはメアリーに手紙を送った」
(a)と(b)の違い
上の分析をまとめます。
(b) Tom sent Mary a letter.
新情報 | 焦点が当たるもの | |
例文(a) | Tom | 「送る」という行為が向けられる「人物」(移動先) |
例文(b) | a letter | 送られる「物」 |
日本語に訳す時
以上の意味の違いを踏まえて、あえてわざとらしく日本語に訳すと次のようになるでしょう。
「トムが手紙を送ったのは、メアリーにです」
「トムがメアリーに送ったのは、手紙です」
全体のまとめ
今回の記事では、第4文型から第3文型への書き換えに潜む意味の違いを見てきました。
その意味の違いは、〈旧情報・新情報〉と〈文末焦点の原理〉の観点から見出すことができました。
今回のポイントです。
- 意味の変化を伴わない形体の変化は成立しない
⇒「形式が異なれば意味も異なる」 - 〈文末焦点の原理〉によって、〈新情報〉は文の最後の方に登場する
- 第3文型から第4文型の書き換えは、どこに焦点が当てられているか異なる
→第3文型では、〈人〉に焦点
→第4文型では、〈物〉に焦点
- Bolinger, Dwight (1977), Meaning and Form, Longman High Education.
- Radden & Dirven (2007), Cognitive English Grammar, John Benjamins Pub Co.
- 池上嘉彦 (2016)『〈英文法〉を考える』 ちくま学芸文庫
一緒に読んで頂きたい記事
今回は〈文末焦点の原理〉というアイデアを使って 第3文型→第4文型への書き換えに潜む意味の違いを見てきましたが、〈人間性〉という別のアイデアから説明をすることも可能です。
詳しくはこちらをご覧ください↓
〈新情報と旧情報〉のアイデアに関しては、こちらの記事も参考にしてください
また次の記事でお会いしましょう。
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