【意味論】意味役と出来事構造とは?主語の奥にある意味役を例文で読む

出来事の参加者にAgent、Theme、Goalの意味役ラベルが付くイメージ

The key opened the door. の主語は the key です。しかし、鍵が意図を持ってドアを開けたわけではありません。文法上の「主語」と、出来事の中で何をしたかという役割は、同じではないのです。

認知言語学は、文の形を、人が出来事をどう切り取り、どの参加者を前に出すかと結びつけて考えます。意味役と出来事構造は、その出来事の側を詳しく見る概念です。意味役は参加者が担う役割、出来事構造は変化・移動・結果などの内部構成を表します。

The key opened the doorで主語と意味役を区別する図
keyは文法上の主語ですが、出来事では意図的な行為者ではなく道具として働きます。
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主語・目的語と意味役は別の層にある

主語と目的語は、文の中での文法的な位置です。意味役は、その名詞句が出来事の中でどう関わるかを表します。同じ意味役が常に同じ文法位置へ現れるわけではありません。

The key opened the doorとThe door openedで意味役と文法役割を比べる図
文法上の主語が変わっても、doorが変化するThemeである点は保たれます。
文法位置と出来事を分けるThe key opened the door.
鍵がドアを開けた。

The door opened.
ドアが開いた。

最初の文で the key は主語ですが、意図的な行為者ではなく、出来事を実現する道具または原因として解釈されます。二つ目の文では the door が主語です。文法位置は変わっても、ドアが状態変化する参加者であることは共通します。

受動態でも同じです。The door was opened by Maya. ではドアが主語になり、Mayaは by 句に置かれますが、Mayaが行為者、ドアが変化する対象という出来事の関係は残ります。

代表的な意味役を一つの出来事で読む

意味役の名称と範囲は理論によって異なります。重要なのはラベルを暗記することではなく、参加者がどんな関係で出来事へ入っているかを説明できることです。

Agent、Theme、Experiencer、Goalなどの意味役を示す図
出来事の参加者を、引き起こす者、変化する物、経験する者、到達点などに分けます。
意味役 中心的な働き
Agent 意図や制御を持って働きかける Maya opened the door. のMaya
Patient / Theme 影響を受ける、移動する、存在する 同文のthe door
Experiencer 感情や知覚を経験する Leo feared the storm. のLeo
Goal / Source 移動の終点・起点になる to the station / from home
Instrument 出来事を実現する手段になる with a key

PatientTheme を一つにまとめる分析も、影響を受ける対象と移動・存在する対象として分ける分析もあります。記事では代表的な区別を使っていますが、用語だけで唯一の答えが決まるわけではありません。

出来事構造は過程と結果を分ける

出来事は、ひとまとまりの動作だけとは限りません。開始、過程、変化、結果、移動の終点など、内部の段階を持ちます。

状態変化、Goalを伴う移動、授受の出来事構造を比較する図
breakは結果状態、move to the stationは経路とGoal到達、giveは所有・支配の移転を含む出来事として読めます。

Maya broke the glass. は、Mayaの働きかけと、ガラスが壊れた結果を含みます。The ice melted. は、氷の状態変化を述べますが、原因を文中に示す必要はありません。Sam gave Lea a book. は、SamからLeaへ本の所有・支配が移る出来事として読めます。

この違いは、動詞が何個の名詞を必要とするかだけでは捉えきれません。誰が働きかけ、何が変化し、どこへ到達したかを見ると、動詞と構文の意味がどう組み合わさるかが分かります。

形式と意味を持つ構文の側から見たい場合は、構文文法が次の入口になります。

受動・使役・他動性では前景が変わる

能動、受動、使役で意味役の前景化が変わる図
態や使役は参加者を消すのではなく、誰を主語にし、どの因果段階を表すかを変えます。

能動態と受動態は、同じ参加者を使いながら、どこから出来事を見せるかを変えます。能動態は行為者を主語にしやすく、受動態は影響を受けた対象を主語にできます。意味役が消えたのではなく、文法上の見せ方が変わっています。

使役では、別の出来事を引き起こす参加者が加わります。Lea made Sam leave. には「Leaが働きかける出来事」と「Samが去る出来事」があります。否定と使役の詳しい関係は使役構文と否定の記事で扱っています。

他動性も、目的語の有無だけではなく、意図性、完了性、対象への影響などの度合いを含みます。詳しくは認知言語学から見た他動性を参照してください。

英語と日本語では役割の見せ方が違う

英語は多くの文で主語を明示し、語順によって文法関係を強く示します。日本語は、話題や文脈から分かる参加者を省けます。そのため、同じ出来事を訳すとき、同じ意味役を同じ文法位置へ置く必要はありません。

たとえば日本語の「財布を盗まれた」は、被害を受けた人を主題として感じさせながら、その人を名詞句として明示しないことがあります。英語では My wallet was stolen. のように、財布を主語にする表現が自然です。出来事の参加者を先に整理し、その後で各言語がどの役割を主語や話題にするかを考えます。

まとめ 文の形の奥にある出来事を描く

主語と意味役の違いをまとめとして示す図
文法上の主語と、出来事でのAgent・Instrument・Themeを分けて読みます。

英文を読むときは、主語を見てすぐ「する人」と決めず、「誰が働きかけたか」「何が変化・移動・経験したか」「結果や到達点はあるか」を確かめます。意味役は参加者の関係を、出来事構造はその内部の進み方を示します。

どの参加者を前に出すかという表現上の選択は、認知言語学の捉え方でさらに詳しく説明しています。意味論全体の位置づけへ戻る場合は、意味論の全体像から関連分野を見渡せます。

参考文献

意味役を比べる英文は本稿用の自作例です。文献から借りた分析・例は本文または参考文献で示します。
  • Dowty, D. “Thematic Proto-Roles and Argument Selection.” Language.
  • Levin, B. and Rappaport Hovav, M. Argument Realization. Cambridge University Press.
  • Williams, A. Arguments in Syntax and Semantics. Cambridge University Press.
  • Davidson, D. “The Logical Form of Action Sentences.”
  • VerbNet. Thematic Role Definitions.

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