「犬が男を噛んだ」は、日本語なら「男を犬が噛んだ」と入れ替えても意味は変わりません。ところが英語の The dog bit the man. を The man bit the dog. にすると、噛んだ側と噛まれた側が逆転します。なぜ英語は、SVO の順をほとんど崩せないのでしょうか。
理由はシンプルで、英語では語順そのものが、主語・目的語などの役割を示す手がかりになっているからです。だから順番を動かすと、役割まで一緒に動いてしまいます。
「英語は語順が大事」では、なぜ崩せないかが残る
「英語は語順が大事」と習います。ただ、本当に不思議なのは、日本語と比べたときの自由度の差です。
- The dog bit the man. (犬が男を噛んだ)
- The man bit the dog. (男が犬を噛んだ)
- (日本語)犬が男を噛んだ / 男を犬が噛んだ (どちらも意味は同じ)
英語の1と2は、語を入れ替えると意味が正反対になります。ところが日本語は、「犬が男を噛んだ」も「男を犬が噛んだ」も、噛んだのは犬のままです。語順を動かしても意味が保たれます。

日本語は順番を変えても通じるのに、英語はなぜ変えると意味が逆になるんですか?

英語は「誰が・誰を」を語順で示しているからです。順番を変えると、役割そのものが入れ替わります。
まずは、英語で語順が何を担っているのかからはっきりさせましょう。
英語では、語順が「役割」を示す
英語では、動詞の前に来る名詞が主語、後ろに来る名詞が目的語、というように、位置が役割を決めます。The dog bit the man. では、前の dog が「噛んだ側」、後ろの man が「噛まれた側」です。

だから語順を動かすと、役割の割り当ても一緒に動きます。位置が役割の唯一の手がかりなので、順番を変えると意味が変わってしまうのです。
日本語は助詞が役割を示すから、動かせる
一方、日本語では「が」「を」といった助詞が役割を示します。「犬が」は主語、「男を」は目的語、と助詞が教えてくれます。

役割の手がかりが、語順か助詞か
助詞が役割を示すなら、語順を入れ替えても「が」「を」がついて回るので、誰が誰を噛んだかは変わりません。だから日本語は語順を比較的自由に動かせます。役割を語順で示すか、助詞で示すか。この手段の違いが、語順の自由度の差を生んでいるのです。英語は語順が役割を背負っているぶん、動かす余地が小さい、というわけです。
英語は歴史的に「格変化」を失った
英語も、昔から語順が固定だったわけではありません。古い英語(古英語)には、名詞の形を変えて役割を示す格変化があり、語順はもっと自由でした。

時代とともに語尾の格変化がすり減って失われると、役割を示す手がかりが足りなくなります。そこで語順が、かつて格変化が担っていた「誰が・誰を」の役割を肩代わりするようになったと考えられています。今の SVO の固さは、この歴史の結果です。
代名詞にだけ、格の名残が残っている
その証拠に、英語でも代名詞にはまだ格の区別が残っています。I / me、he / him、they / them のように、主語の形と目的語の形が違います。
名詞は形が変わらないが、代名詞は主語・目的語で形が変わる。
普通の名詞(dog, man)は形が変わらず、語順だけが役割を示します。一方、代名詞には古い格変化の名残があり、形でも役割を示しています。英語は、名詞は語順で、代名詞は形で役割を示す、という二本立てになっているわけです。日本語学習者から見ると不思議に思える「語順の固さ」も、こうして歴史と仕組みから見ると、決まりごとではなく必然だったと分かります。なお、This I like.(これは好きだ)のように強調で語順が動く例もありますが、これは例外的で、基本の SVO は強く守られます。
まとめ:語順が役割を背負っているから崩せない
最初の問いに結論を示してまとめましょう。
英語が SVO をほぼ崩せないのは、語順そのものが主語・目的語の役割を示す手がかりだからです。日本語が動かせるのは、助詞が役割を示すからです。英語は格変化を失った歴史の中で、その役割を語順に託したのです。

今回の要点
- 英語は動詞の前が主語、後ろが目的語。語順が役割を示す。
- 語順を動かすと役割も入れ替わるので、意味が変わる。
- 日本語は助詞が役割を示すため、語順を動かせる。
- 英語は格変化を失い、その役割を語順が肩代わりした。
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