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【意味論③】意味場理論について

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言語学
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この記事では、意味論で提唱された〈意味場理論〉について取り上げます。

  • 意味場理論(Theory of semantic filed)とはなにか?
  • 意味場理論の具体例
  • 意味場理論の有用性

このような内容を通して、〈意味場理論〉を見ていきましょう。

意味場理論について
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意味論の全体像はこちら

「意味論とは何か?どのような分野でどのような種類があるのか?」という意味論の全体像については、別記事で詳しく解説しています。

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意味場理論 (Theory of semantic field)

意味論は言語の意味を扱う部門ですが、そこで当然問題になるのが『言語の意味とはなにか?言語がもつ意味はどのように決まるのか?』というお話です。

そのような中で提唱されたのが、ヨースト・トリア (Jost Trier) という言語学者によって考案された〈意味場理論〉(Theory of semantic field) という理論です。

意味場理論ある語の意味は、その語が属する意味分野(=意味の「場」)の中で規定される

簡単に言うと、『ある語の意味は、それ自体だけでは意味を持ちえない』という意味の捉え方になります。

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シンプルな例で考えてみる

実際の〈意味場理論〉の具体例を見る前に、シンプルな具体例で置き換えてみましょう。

例えば、学校の『通知表(成績表)』を思い出してください。

意味場理論では、その後の意味・価値は全体の中で規定される

さて、今ここに男の子と女の子がいます。2人の生徒は、両方とも「5」という成績です。

しかし、当然これだけの情報では『両者の5が同じ意味・価値を持っている』とは言えません。なぜなら、その成績が何段階評価なのかによって、「5」という記号が持つ意味・価値が変わってくるからです。

「成績」という意味の場に、他にどんな記号が属しているかによって、その語が持つ意味は異なる

つまり、「5」という記号が持つ意味は、その「5」という記号が属する「成績」という「場」の中に他にどんな要素(成績評価)が存在するかに応じて有する意味が規定されます。

他者がいてはじめて自分に個性が生まれる的なノリと同じように考えてもそこまでズレていないと思います。

今回の例で言うならば、左側の男の子の「5」という記号よりも、右側の「5」という記号の方が優れていると言えるでしょう。

もちろん通知表の数字だけで優劣なんて付けられませんが、ここでは分かりやすい例えとして「優れている」という表現を使っています。通知表なんてどれだけ先生に媚びたかがほとんどです。
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実際の言語で意味場理論を考えてみる

「通知表」という簡単な例を見たので、次に実際の語彙を〈意味場理論〉で捉えてみましょう。

ここでは、《フランス語》と《英語》を取り上げます。

《フランス語》と《英語》の両方に、”mutton” という語があります。しかし、同じ “mutton” という記号でも、《フランス語》と《英語》では持っている意味が異なります。

《フランス語》では「羊肉」+「羊」

まずは《フランス語》から。

《フランス語》では、”mutton” という語は、「羊肉」と「羊」という2つの意味(指示対象)を持っています。

フランス語のシステムでは、muttonという語が持つ指示対象は「羊」と「羊肉」フランス語における “mutton”

《英語》では「羊肉」のみ

その一方で、《英語》では、 “mutton” という語は「羊肉」のみを指示します。

なぜ、《フランス語》と同じ “mutton” という記号にもかかわらず、《英語》の “mutton” という語は「羊」という指示対象を持たないのでしょうか?

それを説明するのが〈意味場理論〉です。

すなわち、

英語という言語では、「羊」を意味する “sheep” という別の語が存在するから

という理由です。

英語というシステムの中では、muttonという語が持つ指示対象は「羊肉」のみ英語における “mutton”

このように、その語が持つ指示対象(≒意味)は、その語だけでは定まらず、その言語システム(英語とかフランス語とか)における、意味上に関連し合った概念分野の中にどのような語が存在するかによって定まります。

他の例

例えば、英語で “knife” という語で表される概念分野を、日本語では「包丁」「ナイフ」「メス」という3つの語が分割しています。

概念分野の分割の仕方は、文化・精神を反映するのか?

この〈意味場理論〉で興味深いのは、

『ある概念分野の分割の仕方は、その言語が属する文化を反映している』

という考え方です。いわゆる〈言語相対主義〉や〈サピア・ウォーフの仮説〉と呼ばれるものです。

例えば、こんな事例が存在します。

英語で “rice” と表される概念分野を、日本語では「稲」「米」「飯」という3つの語で分割しているという事実は、【日本の稲作文化】と【日本人の米への親しみ】を表している。

いかかでしょうか?

ここで問題にしているのは〈形態素〉です。英語でも「稲」を表す表現として “rice plant” がありますが、これは〈形態素〉ではありません。

この考え方が正しいかは別として、日本語では、英語でいう “rice” と呼ばれる物体を、『段階』に応じて異なる語彙で呼んでいるのです。

『段階』というのは、「育てている時」は「稲」、「収穫された後」は「米」、「食べる時」は「飯」ということです。

これ以上は詳しく書きませんが、やはり〈サピア・ウォーフの仮説〉は魅力に溢れていますね。

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意味場理論は「意味の変化」を記すこともできる

〈意味場理論〉の説明と具体例を確認したところで、最後に意味場理論の有用性を1つ取り上げます。

実は、〈意味場理論〉は、語の通時的な変化も構造的に記述することが可能です。

第1段階 第2段階 第3段階
滋養物 food food food
食べ物 meat meat
食肉 flesh meat
筋肉 flesh flesh

参考:斎藤(2010)

“food”・”meat”・”flesh” という語が持つ意味は時代によって変化していきますが、その意味の変化も〈意味場理論〉で捉えて構造的に記述することが可能です。

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【関連記事】
語の意味を捉えるもう1つの分析手法

「意味を捉え、記述する方法」として〈意味場理論〉を取り上げてきましたが、〈成分分析〉という手法も存在します。

✔関連記事
➤➤【意味論②】成分分析について

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全体のまとめ

これにて『意味論③』は終了です。

今回は、語の意味を分析・記述するための1つの手法として〈意味場理論〉(意味場の理論)というものを見てきました。

  • 意味場理論
    ➤ ある語の意味は、意味上の関連性に基づく「場」の中で規定される という理論
  • 意味の「場」の分割の仕方は、文化・精神を反映している⁉(サピアウォーフの仮説)
  • 意味場理論は、語の意味の通時的な変化も扱うことができる

参考文献

  • Saeed, J. I. (2009) Semantics (3rd edition). Wiley-Blackwell.
  • 斎藤純男 (2010) 『言語学入門』三省堂
  • 斎藤純男・田口善久・西村義樹 (2015) 『明解言語学辞典』三省堂
  • 今井むつみ (2010)『ことばと思考』岩波書店
  • 鈴木孝夫 (1973)『ことばと文化』岩波書店

意味論のみならず、言語学の全体像を広く浅く俯瞰するには最適な1冊です。難しい理論や用語ではなく、言語学について勉強してみたいと思う方は必見です。

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