この記事は、〈関係代名詞〉を扱います。
具体的には、
という教え方を徹底的に分析し、そこからより良い理解の仕方を検討します。
ちなみに、この記事は『関係代名詞の教え方を考えるシリーズ』の第2弾になります。関係代名詞に関する他の記事はこちらからご覧いただけます。
関係代名詞を教える時の代表的な3つの説明
「関係代名詞の教え方を考えるシリーズ」では、学校英語でよく為される次の3つの説明を検討しています。
先ほど書いた通り、今回の内容は②に相当します。
「thatは万能で他と代用可能」という説明について
そもそも、
という説明が一体何を指しているのか明らかにしておきましょう。
この説明を以下のようなことを指しています。
例文で示した通り、thatは幅広い場面で who/whom/which の代わりとして使用できる万能な存在だと分かります。
そんな『関係代名詞の〈主格〉や〈目的格〉は万能な ‘that’ で代用可能』という説明における「得意な点」と「解決しきれない点」を考えていきましょう。
得意な点
「thatは他と代用可能」という説明が得意とするのは、以下の1点だと考えます。
いきなり意味不明な内容が出てきました。
あたかも「関係代名詞ではないものを関係代名詞として扱っている」と言っているような響きです。
これを理解するために、1つお伝えしなければならない事実が存在します。
衝撃的な事実
まず、衝撃的なことをお伝えします。
今までの英文法の知識が一気に覆される内容です。
これは、〈生成文法〉という分野の言語学が主張しているものです。
〈生成文法〉の詳しい説明は割愛しますが、ノーム・チョムスキーという言語学者の巨匠が立ち上げ、現代言語学の主流とされている言語学の一派です。
つまり、ただの「でたらめ」ではなく、かなり説得力のある主張だと認識して問題ありません。
そんな研究では、「関係代名詞とされているthat」というのは存在しないと分析しています。
「thatは他の関係代名詞と代用可能」のメリット
とりあえず衝撃的でしたが、
という事実を確認しました。
しかし、実際の私たちの感覚として次のようなことが言えます。
この間隔は極めて正常です。
なにしろ、同じだと感じていたからこそ、「thatは関係代名詞だ」と思っていたわけです。
そして、「thatは他の関係代名詞と代用可能」とする説明のメリットは、まさにここにあるのです。
すなわち、
言語学の主張よりも、私たちの一般的な感覚を優先しているのです。
「thatは他の関係代名詞と代用可能」の本質
今までのことを要約します。
当然の疑問について
多くの方が次のような疑問を抱きます。
これは当然の疑問です。
極端に言えば、学校英語では「関係代名詞ではないものを関係代名詞である」と説明しているのです。
以下ではこの理由をについて「学校英語と言語学の方向性」という観点から詳しく考えています⇓
✔コラム「言語学と英語教育が目指すもの」
なぜ学校英語と言語学で言っていることが違うのか?
【まとめ】得意な点
以上が、『thatは万能で、他の関係代名詞の代用可能』という説明が得意とする点でした。
解決しきれない点
次に「thatは他の関係代名詞と代用可能」という説明では解決しきれない点を見てみましょう。
次の2点が挙げられます。
解決できない点①
他の関係代名詞の存在意義をどう説明するか
学習者たちは、次のような疑問を抱きます。
つまり、
- 同じ役割なものがなぜ2つもあるのか?
- それらの違いは何なのか?
このような疑問に対して「どっちも同じ」と答えれば良いのかもしれません。
しかし、実際は何かしらが異なるため、thatはwho/whichと全く同じような使い方はできません(このことは「説明しきれない点②」で再度登場します)。
そして、言語の事実として、「意味も役割も全く同じ2つのものがあれば、必ずどちらかは廃れていく」ということも証明されています。
裏を返せば、
したがって、「thatは他の関係代名詞と代用可能」とする説明は、
説明しきれない点②
thatが使用できない場合があるのはなぜか?
「thatは他の関係代名詞と代用可能」という説明では、次の指摘も対処できません。
事実として、thatでは代用できない領域が存在するのです。
その領域とは以下の3つです。
that代用が不可能なケース
- 非制限用法としての使用不可能
- whoseの代用不可能
- 前置詞+that は不可能
上の(1)~(3)では、thatを使用することは不可能です。
この現象にどう答えるか?
thatで代用が不可能な場合があるのは見たとおりです。
そして、ここで先ほどの「解決しきれない点①」が再度登場します。
揚げ足を取るようですが、こんな純粋な疑問が浮かびます。
もちろんそれらの場合を「例外」として処理することは簡単ですが、何とかして整合性を持たせたいものです。
しかし、「thatは他の関係代名詞と代用可能」という説明では対処しきれません。
補足説明
✔応用編
実は、この「thatが使用できない3パターン」こそが、先ほどの「thatとされているものは関係代名詞ではない」という生成文法の主張に関係してくるのです。つまり、「thatは関係代名詞ではない」という主張のためには、その3パターンは「例外」などではなく、「thatとされているものは関係代名詞ではない」という主張の他ならない根拠になっています。
➤➤【関係詞】関係代名詞のthatは存在しない -thatの真実-
【まとめ】解決しきれない点
以上が、「thatは他の関係代名詞の代用可能」という説明では解決しきれない点でした。
全体のまとめ
今回は、『関係代名詞の万能なthatは他の関係代名詞と代用可能』という説明を検討してきました。
この説明のメリットは、
ことが分かりました。
しかし、裏を返せば当然 thatは関係代名詞では無いので、
と言えるでしょう。
今回のトピックは一見簡単そうに見えて、実はかなり複雑で「表裏一体関係の現象」を扱っていたことを実感して頂けたでしょうか?
そして、「それではあのthatは何者なのか?」という疑問が尽きないと思いますが、別記事で分かりやすく検証しているのでぜひご覧ください。
最後に用語をまとめておきます。
関連コンテンツのご紹介
今回の記事に関連するコンテンツをご紹介します。
そして今回の記事は『関係代名詞の教え方を考えるシリーズ』の第2弾でした。
今回は『関係代名詞の教え方を考える』というシリーズの第2段の記事になります。
他の記事でもより良い関係代名詞の教え方を検討しているので、ぜひご覧いただければ幸いです。
第1弾
➤➤【関係詞】「2文を1文にまとめる」という説明の利点と欠点
第3段
➤➤【関係詞】「前置詞+関係代名詞」が省略不可能な理由
応用編
➤➤【関係詞】関係代名詞のthatは存在しない -thatの真実-
↑けっこう自信作です
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