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【関係詞】「thatは万能」という説明から関係詞を見つめ直す

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英文法
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この記事は、〈関係代名詞〉を扱います。

具体的には、

『関係代名詞のthatは万能で、whoやwhichの代用可能』

という教え方を徹底的に分析し、そこからより良い理解の仕方を検討します。

『thatは万能で、whoやwhichの代用可能』という説明について

ちなみに、この記事は『関係代名詞の教え方を考えるシリーズ』第2弾になります。関係代名詞に関する他の記事はこちらからご覧いただけます。

関係代名詞シリーズを読む

 

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関係代名詞を教える時の代表的な3つの説明

「関係代名詞の教え方を考えるシリーズ」では、学校英語でよく為される次の3つの説明を検討しています。

先ほど書いた通り、今回の内容は②に相当します。

① 関係代名詞は2つの文を1つにまとめる←記事を読む

② thatは万能でwhichやwhoの代用可能←今回の記事

③ 目的格の関係代名詞は省略可能←記事を読む

②の説明における、「得意な点」「解決しきれない点」をまとめていきます。
そして、その中で関係代名詞の理解とより良い教え方を深めていきましょう。
「不得意な点」ではなく「解決しきれない点」と表記しているのには当サイトなりの理由があります。というのも、「不得意な点」と表記すると、「粗探し」というイメージが連想されてしまうからです。冒頭で述べた通り、当サイトでは、他の一般的な説明を蹴落として自分の説明の価値をアピールしようと意図はなく、重要なのは「1つの現象に対して多角的な視点で見ること」だという信念のもと、あくまで1つのアイデアとして提案することを心がけています。
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「thatは万能で他と代用可能」という説明について

そもそも、

『thatは万能で、whoやwhichの代用可能』

という説明が一体何を指しているのか明らかにしておきましょう。
この説明を以下のようなことを指しています。

先行詞が[人]の場合
先行詞が[人以外]の場合先行詞「人以外」

例文で示した通り、thatは幅広い場面で who/whom/which の代わりとして使用できる万能な存在だと分かります。

そんな『関係代名詞の〈主格〉や〈目的格〉は万能な ‘that’ で代用可能』という説明における「得意な点」「解決しきれない点」を考えていきましょう。

今回の記事は、ご想像以上に表裏一体で複雑な説明を扱っています。予めご了承のうえ、ご覧いただければ幸いです。
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得意な点

「thatは他と代用可能」という説明が得意とするのは、以下の1点だと考えます。

 thatを関係代名詞と説明するのは都合が良い

いきなり意味不明な内容が出てきました。

あたかも「関係代名詞ではないものを関係代名詞として扱っている」と言っているような響きです。

これを理解するために、1つお伝えしなければならない事実が存在します。

衝撃的な事実

まず、衝撃的なことをお伝えします。

関係代名詞と呼ばれるthatは関係代名詞ではない

今までの英文法の知識が一気に覆される内容です。

これは、〈生成文法〉という分野の言語学が主張しているものです。

〈生成文法〉の詳しい説明は割愛しますが、ノーム・チョムスキーという言語学者の巨匠が立ち上げ、現代言語学の主流とされている言語学の一派です。

つまり、ただの「でたらめ」ではなく、かなり説得力のある主張だと認識して問題ありません。

そんな研究では、「関係代名詞とされているthat」というのは存在しないと分析しています。

言語学(生成文法)の事実として、「関係代名詞のthat」は存在しない
「thatが関係代名詞ではない理由」ついてはこちらの記事で解説しています。
➤➤【関係詞】関係代名詞のthatは存在しない -thatの真実-

「thatは他の関係代名詞と代用可能」のメリット

とりあえず衝撃的でしたが、

「関係代名詞とされているthat」は実は関係代名詞ではない

という事実を確認しました。

しかし、実際の私たちの感覚として次のようなことが言えます。

関係代名詞のwho/whichと、「関係代名詞とされているthat」はほとんど同じ

この間隔は極めて正常です。

なにしろ、同じだと感じていたからこそ、「thatは関係代名詞だ」と思っていたわけです。

そして、「thatは他の関係代名詞と代用可能」とする説明のメリットは、まさにここにあるのです。

すなわち、

『thatと、関係代名詞のwho/whom/whichは「同じ」』という私たちの感覚を崩して混乱させないために、言語学の事実と反してまでも、「thatは他の関係代名詞と代用可能」という説明が為されている
と言えるでしょう。

言語学の主張よりも、私たちの一般的な感覚を優先しているのです。

「thatは他の関係代名詞と代用可能」の本質

今までのことを要約します。

「thatは他の関係代名詞と代用可能」という説明の本質的な意義は、私たちの感覚が崩れないように、「thatは関係代名詞である」という ‘嘘’ を隠し通してくれている点にある
「thatは他の関係代名詞と代用可能」という説明は、暗に「thatは関係代名詞である」と私たちに洗脳させてくれていたんですね。

当然の疑問について

多くの方が次のような疑問を抱きます。

なぜ、学校英語では that を関係代名詞としているのか?

これは当然の疑問です。

極端に言えば、学校英語では「関係代名詞ではないものを関係代名詞である」と説明しているのです。

以下ではこの理由をについて「学校英語と言語学の方向性」という観点から詳しく考えています⇓

✔コラム「言語学と英語教育が目指すもの」

なぜ学校英語と言語学で言っていることが違うのか?

学校英語と言語学で言っていることが違う、という現象はよくあることなのです。すなわち、言語学が主張する考えが必ずしも学校英語における説明に反映されるわけではないのです。なぜなら、言語学と学校英語では、それぞれ目指す先が違うからです。言うまでもなく、言語学(とりわけ生成文法論)では、「自然科学としての学問」を目指しているのです。それに対して、学校英語では、誤解を恐れずに言えば「学問の正しさ」などはどうでも良い話なのです。学校英語の目指すものは、内容の「分かりやすさ」と「教えやすさ」なのです。学校英語としては、言語学で証明された事実よりも、「分かりやすさ」と「教えやすさ」を優先しているので、極論「嘘をついてでも分かりやすく教えやすい説明」を選択するのです。したがって、学校英語と言語学で言っていることが異なるといった現象が生じるのです。言語学と英語教育の目指すものが一致しない限り、このようなズレというのは必ず生じてしまうものなのです。個人としては、このズレは解消しきれないと思っています。というのも、言語学という学問が言語を扱うからには、外国語学習としての英語教育に何かしらを還元してほしいと思う一方で、言語学には言語学なりの「学問としてのあるべき姿」という事情が絡んでくるからです。そのような現状を考えると、一概にも「言語学と英語教育のズレをなくし、お互いにリンクするべきだ」とは言えません。もちろん、全ての言語学が学校英語に還元されていないというわけではありません。言語習得論などは十二分に英語教育に恩恵をもたらしていると言えるでしょう。ここで重要なのは「学校英語の説明が全て言語学の主張と一致しているわけではない」という認識をもっておくことだと思います。

【まとめ】得意な点

以上が、『thatは万能で、他の関係代名詞の代用可能』という説明が得意とする点でした。

 thatを関係代名詞と説明するのは都合が良い
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解決しきれない点

次に「thatは他の関係代名詞と代用可能」という説明では解決しきれない点を見てみましょう。

次の2点が挙げられます。

① 他の関係代名詞の存在意義をどう説明するか
② thatでは代用できない場合をどう説明するか
①と②の間には関係性があるので、繋がりを意識して説明していきます。

解決できない点①
他の関係代名詞の存在意義をどう説明するか

学習者たちは、次のような疑問を抱きます。

thatで代用できるなら、whoやwhichなどは何のためにあるのか?

つまり、

  • 同じ役割なものがなぜ2つもあるのか?
  • それらの違いは何なのか?

このような疑問に対して「どっちも同じ」と答えれば良いのかもしれません。

しかし、実際は何かしらが異なるため、thatはwho/whichと全く同じような使い方はできません(このことは「説明しきれない点②」で再度登場します)。

そして、言語の事実として、「意味も役割も全く同じ2つのものがあれば、必ずどちらかは廃れていく」ということも証明されています。

裏を返せば、

thatと他の関係代名詞は、何かしら違うから、現に今も残っている
と言えるでしょう。

したがって、「thatは他の関係代名詞と代用可能」とする説明は、

他の関係代名詞の存在意義をどう説明するか?
という問題を解決できないのです。

説明しきれない点②
thatが使用できない場合があるのはなぜか?

「thatは他の関係代名詞と代用可能」という説明では、次の指摘も対処できません。

なぜ、thatが使えず、who/which しか使えない場合が存在するのか?

事実として、thatでは代用できない領域が存在するのです。

その領域とは以下の3つです。

that代用が不可能なケース

  1. 非制限用法としての使用不可能
  2. whoseの代用不可能
  3.  前置詞+that は不可能
具体的な例文を示します。
例文the case where "that" can't be used

上の(1)~(3)では、thatを使用することは不可能です。

この現象にどう答えるか?

thatで代用が不可能な場合があるのは見たとおりです。

そして、ここで先ほどの「解決しきれない点①」が再度登場します。

① 他の関係代名詞の存在意義をどう説明するか
この疑問に対して「どっちも同じ」と説明してしまうと、上の3つの扱いに困ってしまいます。
なぜなら、
「どっちも同じ」なら、なぜ「that代用不可」が生じるのか?

揚げ足を取るようですが、こんな純粋な疑問が浮かびます。

もちろんそれらの場合を「例外」として処理することは簡単ですが、何とかして整合性を持たせたいものです。

しかし、「thatは他の関係代名詞と代用可能」という説明では対処しきれません

補足説明

「thatは他の関係代名詞と代用可能」という説明を否定している訳ではありません。冒頭に述べた通り、この記事の目的は、「関係代名詞の教授法を検討することで、関係代名詞の理解を深めること」です。説明の良し悪しではなく、関係代名詞自体の捉え方や理解を深めるという観点で言語事実を取り上げています。

✔応用編
実は、この「thatが使用できない3パターン」こそが、先ほどの「thatとされているものは関係代名詞ではない」という生成文法の主張に関係してくるのです。つまり、「thatは関係代名詞ではない」という主張のためには、その3パターンは「例外」などではなく、「thatとされているものは関係代名詞ではない」という主張の他ならない根拠になっています。

➤➤【関係詞】関係代名詞のthatは存在しない -thatの真実-

【まとめ】解決しきれない点

以上が、「thatは他の関係代名詞の代用可能」という説明では解決しきれない点でした。

① 他の関係代名詞の存在意義をどう説明するか
② thatでは代用できない場合をどう説明するか
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全体のまとめ

今回は、『関係代名詞の万能なthatは他の関係代名詞と代用可能』という説明を検討してきました。

この説明のメリットは、

「実は関係代名詞ではないものを関係代名詞として扱う」という逆説的な発想にある

ことが分かりました。

しかし、裏を返せば当然 thatは関係代名詞では無いので、

「関係代名詞のthatは他の関係代名詞と代用可能」という説明では、整合性に欠ける事例が3パターン生じる

と言えるでしょう。

今回のトピックは一見簡単そうに見えて、実はかなり複雑で「一体関係の現象」を扱っていたことを実感して頂けたでしょうか?

そして、「それではあのthatは何者なのか?」という疑問が尽きないと思いますが、別記事で分かりやすく検証しているのでぜひご覧ください。

最後に用語をまとめておきます。

〈関係代名詞〉〈生成文法〉〈非制限用法〉

関連コンテンツのご紹介

今回の記事に関連するコンテンツをご紹介します。

最も気になる「thatの正体」はこちらで解説しています⇩

そして今回の記事は『関係代名詞の教え方を考えるシリーズ』の第2弾でした。

今回は『関係代名詞の教え方を考える』というシリーズの第2段の記事になります。

他の記事でもより良い関係代名詞の教え方を検討しているので、ぜひご覧いただければ幸いです。

第1弾
➤➤【関係詞】「2文を1文にまとめる」という説明の利点と欠点

第3段
➤➤【関係詞】「前置詞+関係代名詞」が省略不可能な理由

応用編
➤➤【関係詞】関係代名詞のthatは存在しない -thatの真実-

↑けっこう自信作です

また次の記事でお会いしましょう。

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