【there&前置詞】thereの前に前置詞が必要な場合とその理由

there サムネイル画像 英文法
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「thereは副詞だから、前置詞はいらない」

there の前に to や in などの前置詞をつけると、こんな説明をされるはずです。

この説明はシンプルで分かりやすいのは事実ですが

there の前に〈前置詞〉が必要な場合も存在するのも事実です、

一体どんな場合に there の前に前置詞が置かれるのでしょうか?

今回は、その謎を解明していきたいと思います。

thereの前に前置詞が必要な場合とその理由について
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◎結論

まずは結論を示します。

thereと前置詞 結論
ここからはこの結論を深掘りする形で解説していきます。
また、『前置詞が必要な場合』の理由も解説していくのでぜひご覧ください。
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there の前に前置詞が置かれない場合

副詞の前には〈前置詞〉が置かれない場合は、以下の2パターンあります。

前置詞がいらない場合存在点を表す場合
到達点を表す場合

there の前には前置詞はいらない」と一般的に呼ばれるのがこのパターンです。

〈存在点〉の場合

まずは ‘there’ が〈存在点〉を表す場合です。

〈存在点〉は、「そこ」という意味を表します。

例文でいくつか確認してみましょう。

存在点の例文

(1) They were in there.
「彼らはそこいた」

(2) He lived in there.
「彼はそこ住んでいた」

(3) My house is in there.
「私の家はそこある」

there の前に〈前置詞〉が入ると不適切になってしまうことが分かります。

〈到達点〉の場合

‘there’ の前に〈前置詞〉が置かれないもう1つのパターンは、

‘there’ が〈到達点〉を示す場合です。

〈到達点〉は、「そこ」という意味を表します。

到達点を表す例文

(1) They went to there.
「彼らはそこ行った」

(2) He got to there.
「彼はそこ到着した」

(3) My house moved to there.
「私の家はそこ引っ越した」

今回も there の前に〈前置詞〉が入ると不適切になってしまうことが分かるはずです。

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there の前に前置詞が置かれる場合

今まで見てきた例文は、thereの前に前置詞が置かれない場合』という普通のパターンです。

しかしながら、thereの前に前置詞が置かれる場合』が、1パターン存在します。

〈起点〉を表す場合

there〈起点〉を示す場合、from などの前置詞を明示しなければなりません

〈起点〉というのは、「そこから」というような意味をもちます。

起点を表す場合

(1) They came from there.
「彼らはそこからやって来た」

(2) He left from there.
「彼はそこから立ち去った」

(3) My house moved from there.
「私の家はそこから引っ越した」

〈起点〉を示す場合だけは〈前置詞〉が必要なのです。

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例文から分かること

今までの例文から分かったことを一度まとめます。

前置詞の有無 例文
存在点 無し
They were in there.
「彼らはそこいた」
He lived in there.
「彼はそこ住んでいた」
到達点 無し
・They went to there.
「彼らはそこ行った」

・He got to there.
「彼はそこ到着した」
起点 有り
They came from there.
「彼らはそこからやって来た」
・ He left from there.
「彼はそこから立ち去った」
〈存在点〉〈到達点〉の場合は〈前置詞〉は置かれないが、
〈起点〉の場合は〈前置詞〉は置かれる
ということです。

そして、2つの疑問が浮かび上がってきます。

疑問①存在点 + 到達点 VS 起点 の対立構造はなぜ生まれるのか?
疑問②起点の場合だけ前置詞が必要なのはなぜか?

この2つの謎の理由を考えていきましょう。

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謎を解くためのアイデア

〈起点〉の場合だけ〈前置詞〉が必要な理由を考えるために、〈認知言語学〉というアイデアを導入したいと思います。

〈認知言語学〉について

まず〈認知言語学〉の簡単な定義ですが、

  〈認知言語学〉とは、言語を人間の思考・知覚などの認知能力の反映として研究する言語学
のことを言います。
つまり、言語の謎を解決するためには、人間が外界をどのように認知しているのか考える必要があるのです。
〈認知言語学〉について詳しい説明はこちら↓
【認知言語学概論①】認知言語学とは

①存在点+到達点VS起点 の対立構造の理由

疑問①存在点 + 到達点 VS 起点 の対立構造はなぜ生まれるのか?

最初にこの謎から考えていきましょう。

まずみなさんに考えてほしいのが、時間です。時間は言うまでもなく、後ろから前へと流れます。

そしてそれに伴って人間の行動も変化します。

ここまでは何の問題もなく理解できると思います。

そしたら次に、〈到達点〉〈存在点〉〈起点〉の3つを時系列に沿って順番に並べてみようと思います。

そうすると、

① まず何事も自分が存在する〈存在点〉から始まる =〈存在点〉が1番目

② 今いるその〈存在点〉が何か動作をしようとするための〈起点〉となる =〈起点〉が2番目

③ 最終的な移動先が〈到達点〉となり、人間の動作の1セットが終了する =〈到達点〉が3番目

つまり、人間の動作というのは、

人間の動作1セット = 〈存在点〉→〈起点〉→〈到達点〉
と定義できます。

当然ながら、人間はこのセットを何回も何回も行います。

つまり、最終的な移動先であった〈到達点〉が新しく自分がいる〈存在点〉となり、その〈存在点〉が次の動作への新しい〈起点〉になって…というサイクルが半永久的に続きます。

このことを視覚的に分かりやすく示してみると、

存在点→起点→到達点の図式

この図を見てピンときた方も多いはずです。

〈存在点〉〈到達点〉は1セットが終わり、次のセットが始まろうとする瞬間に変換されます。

つまり、〈存在点〉と〈到達点〉は互換性があり、互い結び付きが強いのです。

一方、〈起点〉は他と互換性がないため、独立しています。

その結果、〈存在点〉+〈到達点〉VS〈起点〉という対立構造が成立します。

〈存在点〉と〈到達点〉は互換性があるが、〈起点〉は独立している

これで〈存在点〉+〈到達点〉VS〈起点〉の対立構造が生じる理由が説明できました。

あと残るは、〈起点〉の場合のみ、〈前置詞〉が現れる理由です。

②前置詞が表層に現れる場合と現れない場合の理由

それでは次にこの疑問を考えていきましょう。

疑問②起点の場合だけ前置詞が必要なのはなぜか?

〈存在点〉〈到達点〉の場合は前置詞が不要なのに、〈起点〉の場合だけ前置詞が必要なのでしょうか?

人間の認知構造から考えてみましょう。

〈起点〉というのは、人間の動作を振り返って見たときに、初めて見えるものです。

もう少し詳しく言うと、〈到達点〉という場所が登場して、それからその前に存在していた場所〈起点〉と見なされるということです。

目指すべき次の地点に到着しなければ、いつまでたってもそこは〈存在点〉であり〈起点〉にはなりません。

つまり、〈起点〉という概念を認識するためには、その次の地点から過去を振り返らなければなりません。

2020年2月18日という日が「昨日」という概念として成立するには、2020年2月19日というその次の概念が登場しなければならないのと同じ理屈です。

このように考えてみると、

人間の動作は時間に伴って前へと進んでいるのに、その時間の流れに逆らって、後ろにある〈起点〉を振り返って見る行為は人間の認知と相性が悪いと言えそうです。

それとは反対に、〈存在点〉は現在の概念で、〈到達点〉は未来の概念なので、時間に従って前へ進む認知能力を持つ人間に都合が良い概念だと言えます。

今までの要約

「起点」の場合⇒人間の認知に都合の悪い概念だから、〈前置詞〉という手間を加える必要がある
「存在点」と「到達点」の場合⇒人間の認知に都合の良い概念だから、手間を加える必要がない

以上が〈認知言語学〉の観点からみた〈起点〉の場合のみ、〈前置詞〉を要する理由の分析です。

〈存在点〉+〈到達点〉VS〈起点〉という対立構造にも、人間の認知の営みの特性が色濃く影を落としていることを実感していただけたでしょうか?

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【日英比較】英語と日本語の比較

ここで、テーマを大きく変えてみましょう。

〈存在点〉+〈到達点〉VS〈起点〉の対立構造について、日本語でも少し考えてみたいと思います。

実はこれに似た対立構造が母語である日本語にも見られるのです。

それは〈助詞〉の使い方です。

存在点&到達点「太郎は学校いる」(存在点)
「太郎は学校行く」(到達点)
同じ格助詞「に」を使う
起点「太郎は学校から帰る」
⇒格助詞「に」は使えず、「から」を使う

このように、日本語でも〈到達点〉〈存在点〉は強い結びつきをもっていて、〈起点〉だけはその輪から外れています。

〈存在点〉+〈到達点〉VS〈起点〉の対立構造は、英語と日本語で共通

英文法のスパイス

普段の日常で、〈到達点〉と〈存在点〉は同じ格助詞「に」を使って、〈起点〉の時だけ別のものを使うなんて考えている方はいないかと思いますが、こうやって意識的に母語である日本語を観察してみると、「あっ!」っていう発見に出会います。無意識の対象を意識化するってとても楽しいことです。英文法を学習する楽しさはたくさんありますが、こうやって外国語と母語を比較して、無意識の対象に光を当てて、「考えずにやってたけど実はそうだったんだ!」と実感する経験って外国語学習ならではの贈り物だと思っています。英文法を学習するスパイスを1つをまとめておきますね。

英語と比較することで、母語の日本語について新たな発見を与えてくれる

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全体のまとめ

今回の記事では、

there の前に〈前置詞〉が置かれる場合があるという導入から、その性質を〈認知言語学〉の立場から考察してきました。

そして、我々の認知能力がその対立構造を生み出しているということについても触れました。

さて、本日のポイントをおさらいしておきます。

  • 〈起点〉を表す場合は、〈副詞〉の前に〈前置詞〉が置かれる
  • 〈到達点〉+〈存在点〉VS〈起点〉の非対称性は日本語と英語で共通であり、〈認知言語学〉の観点から説明できる。

今回の記事の中に登場した用語やテーマもまとめておきます。

〈前置詞〉〈前置詞句〉〈副詞句〉
〈存在点〉〈到達点〉〈起点〉〈認知言語学〉

関連記事のご紹介

今回の記事で取り入れた〈認知言語学〉について詳しい記事を作成しています。

【認知言語学概論①】認知言語学とは

参考文献

  • C.T.Onions (2015), An Advanced English Syntax: Based on the Principles and Requirements of the Grammatical Society, Routledge.
  • Radden & Dirven (2007), Cognitive English Grammar, John Benjamins Pub Co.
  • 池上嘉彦 (2016)『〈英文法〉を考える』 筑摩書房

今回もご覧頂きありがとうございました。また次の記事でお会いしましょう。

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