今回の記事では、なかなかキャッチ-なテーマを扱います。
ずばり、
thatに関係代名詞の用法はない
この衝撃的な命題を紐解いていきましょう。
【前置き】注意事項として
この記事をご覧いただく前に、1つ名言しておくことがあります。
当記事の目的は、
よって、一般的な説明を批判する意図もありません。
『こんな考え方もできるんだなぁ』というお気持ちでご覧いただければ幸いです。
それでは本編に入っていきましょう。
重要ポイント:関係代名詞の品詞について
今回のテーマにおいて、全ての土台になるポイントがあります。
〈関係代名詞〉は〈代名詞〉のカテゴリーに分類されます。
時折、
- 『関係代名詞は形容詞だ』
- 『関係代名詞は接続詞だ』
などと言われることがありますが、実際の品詞は〈代名詞〉です。
参考として、辞書の抜粋を載せています。
赤丸で囲んだ「代名詞」というカテゴリーの中に、それぞれ「疑問代名詞」や「関係代名詞」が含まれていることが分かるかと思います。したがって、関係代名詞も代名詞の1種です。
*参考辞書:ウィズダム英和辞典(三省堂)
この
『〈関係代名詞〉は〈代名詞〉の1種である』
ということは、非常に重要な意義を持つのです。
なぜなら、このことは〈関係代名詞〉は、〈代名詞〉の性質を持っていなければならないことを意味するからです。
したがって、次のように考えられます。
それでは、その「thatが関係代名詞ではない根拠」を5つ提示します。
① 先行詞が複数形でもthoseに変化しない
まず根拠1つ目です。
「代名詞のthat」には、言うまでもなく、単数形と複数形があります。
単数形の名詞にはthat、複数形の名詞にはthoseが使われます。
もし仮にthatが〈関係代名詞〉であった場合、代名詞の一種なので当然このような「単複の区別」は生じるはずです。
関係代名詞では・・・
しかしながら、
【補足】whoやwhichでは
それではwhoやwhichではどうでしょうか?
と思うかもしれませんが、そんなことはありません。
②「距離関係による this↔that の交替」が存在しない
根拠2つ目です。
「代名詞のthat」は、距離に応じてthisと交替します。その距離とは、〈物理的距離〉と〈心理的距離〉です。
関係代名詞では…
しかしながら、「関係代名詞のthat」では、this↔thatの交替は生じません。
よって、このことからも「thatは関係代名詞ではない」と言えるでしょう。
③「非制限用法(, that) 」が存在しない
3つ目の根拠です。
thatは次のような〈非制限用法〉を持ち合わせていません。
興味深い点は、that以外のwhoやwhichには〈非制限用法〉が存在するということです。
thatだけ〈非制限用法〉が無いのは、なぜか?
④「 所有格用法」が存在しない
4つ目の根拠です。
〈名詞〉には必ず〈所有格〉というものが存在します。
それは〈代名詞〉でも例外ではありません(例:itの所有格→its)。
ということは、もしthatが関係代名詞なら、所有格が存在すると考えられます。
しかし、that は whose の代わりとして所有格の機能は果たせません。
所有格を持たないということは、代名詞ではない、即ち関係代名詞ではないと言えるでしょう。
⑤「前置詞+that」が存在しない
5つ目の根拠として、前置詞と関係代名詞の組み合わせを考えてみましょう。
前置詞というのは、後ろに名詞を要求します。
そして、‘I talked with him‘ のように代名詞も前置詞の後ろに置くことが可能です。
したがって、代名詞の一種である関係代名詞も前置詞の後ろに置くことが可能なはずです。
実際に、whoやwhichは、前置詞に後続することが可能です。
しかしながら、以下のように「前置詞+that」は非文とされています。
5つの根拠のまとめ
以上で「thatに関係代名詞の用法はない」という5つの証拠が出揃いました。
5つの根拠
- 先行詞が複数形でもthoseに変化しない
- 「this ↔ that の交替」が存在しない
- 「非制限用法(, that)」が存在しない
- 「所有格用法」が存在しない
- 「前置詞+that」が存在しない
もし、that が関係代名詞であるならば、上の5つのような現象は生じません。
裏を返せば、①~⑤の現象が生じてしまうのは、that が関係代名詞ではないからなのです。
that の正体は?
さて、上の5つの根拠で、「thatは関係代名詞と言える性質を持ち合わせていない」ことが分かりました。
それでは、そんな’that’が関係代名詞でないとしたら、あの’that’は一体何者なのでしょうか?
実は、、、
①「複数形の先行詞に対応するthose」が存在しない
1つ目の根拠で、「先行詞が複数でもthoseにならない」と述べました。
②「距離関係による this↔that の交替」が存在しない
〈代名詞〉であるならば存在するはずの「距離関係によるthisとthatの区別」が「関係代名詞とされているthat」には存在しないことを説明しました。
2つ目の例部は、「両親が自分を愛する」という心理的に近い内容に言及しています。
このように、距離的に近い内容でも、「接続詞のthat」はthisになりません
このことから、「関係代名詞とされているthat」は「接続詞のthat」と考えられます。
③「非制限用法(, that) 」が存在しない
先ほどの根拠で次の例文を出しました。
④「 所有格用法」が存在しない
who・whom・which の代用として機能できる「関係代名詞とされているthat」ですが、
なぜかwhoseの代用だけはできなかったのです。
しかし、これもthatを接続詞として見なせば、一瞬で解決できてしまいます。
⑤「前置詞+that」が存在しない
「関係代名詞とされているthat」は、「前置詞+that」という形での使い方が無いことを説明しました。
これは、「関係代名詞とされているthat」を「接続詞のthat」と解釈すれば解決できます。
というのも、「接続詞のthat」は前置詞に後続できないからです。
thatを接続詞として解釈した方が…
ここまで話を進めてきましたが、分かったことをまとめます。
特に③、④、⑤に注目してみましょう。
学校英語では、「thatは他の関係代名詞の代用可能」という説明が為されますが、以下の(1)~(3)は例外とされています。
(2) whoseの代用不可能←④
(3) 前置詞+that は不可能←⑤
しかしながら、thatを接続詞と捉えると、上の3つは例外などではなく、接続詞のthatとして当然の現象だと言えるでしょう。
最大の疑問
ここで、多くの方が抱いているであろう指摘を取り上げます。
確かにその通りなのです。
thatの後ろも、正当な関係代名詞の who/whom/whichなどと同様に、要素が抜けているのです。
たしかに、この現象は関係代名詞特有です。
つまり、次のように言えるでしょう。
赤色の範囲は「thatは接続詞である」と解釈した方が一貫性が保たれますが、青色の範囲は「thatはやはり関係代名詞である」と解釈した方が一貫性が保たれるように見えます。
実際にはどうなのか
このような that が関係代名詞と接続詞の両方の性質を重ねて合わせていますが、実際にはそれでもなお「that は関係代名詞ではなく、接続詞である」と主張することは可能です。
ただ、冒頭でもお話したように、「thatは関係代名詞ではなく、接続詞である」と主張するのは〈生成文法〉という言語学であり、ここからはどうしても〈生成文法〉の概念や用語なしでは不可能なので、かなり難易度が上がってしまいます。
機会があれば、分かりやすく解説した記事を作成する予定です。
全体のまとめ
今回は、『関係代名詞のthatは存在しない』というテーマを扱いました。
最初は耳を疑うようなタイトルだったと思いますが、実際に言語事実を並べてみると、「たしかに、thatは接続詞っぽいかも…」と少しは思えたのではないでしょうか?
そして意外にもthatを接続詞とした方が例外を少なくできるのです。
(何度も言いますが、学習する時や教える時は「thatは関係代名詞」と捉えたが確実に好ましいです。ただ、個人的には、指導する側は知っていて損はない知識だと思っています)
①先行詞が複数形でもthoseに変化しない
②「this↔thatの交替」が存在しない
③「非制限用法(, that)」が存在しない
④「所有格用法」が存在しない
⑤「前置詞+that」が存在しない
この記事に出てきた用語も整理しておきます。
【参考文献】
- Quirk, Randolph etc (1985), Comprehensive Grammar of the English Language.
- Chomsky & Lasnik (1977), Linguistic Inquiry 8.
- Chomsky & Lasnik (1977), The Cambridge Grammar of the English Language.
- 井上永幸 他 (2010)『ウィズダム英和辞典』三省堂
- 吉波和彦 他 (2011)『ブレイクスルー総合英語(改訂二版)』美誠社
- 時崎久夫『文化と言語』札幌大学外国語学部記要(35-51)
今回はあくまで「1つの考え方」としてご紹介させていただきました。
「こんな考え方もあるんだなぁ」という驚きと、英文法の奥深い世界をご堪能いただけるスパイスをご提供できていたら、この上ない幸せです。
今回もご覧頂きありがとうございました。
また次の記事でお会いしましょう。
コメント
はじめまして。
thatについての質問があります。
例
I can’t imagine our life without that means of communication with each other which we call language, that is words.
この例文の解説にはこうありました。
whichとthatというふたつの関係代名詞によって、情報が追加されていく文です。
最初にまず、that means of communication (meansは単数扱いなのでthatがつきます)
のことをlanguageと呼ぶと言っておいて、さらにlanguageすなわちwordsであると捕捉しています。
質問ですが
that means~のthatは、どういう意味なんでしょうか。
解説には単数扱いだからthatがつく、とありますが、もし複数だったらthoseがつくのでしょうか。
そもそもこのthatが何なのか、theではだめなのか、わかりません。
よろしくお願いいたします。
こんにちは。質問ありがとうございます。
>>that means~のthatは、どういう意味なんでしょうか。
meansの前にあるthatはいわゆる「関係代名詞の出現を予告するthat」です。品詞としては形容詞(指示形容詞)です。手元のウィズダムには【that A which(that)】という項目で「〜するようなA」という説明がありますが、訳出にはほとんど影響しない気がします。ぜひ手元の辞書かiPhoneをご使用なら内蔵辞書に当たってみるといいかもしれません。
>>もし複数だったらthoseがつくのでしょうか。そもそもこのthatが何なのか、theではだめなのか。
このthatは指示形容詞(一般的な「あの」と訳されるthat)なので、後続する名詞が複数形ならthoseになります。今回の文ならaとかtheとかに置き換えても全く問題ないと思います。
>>whichとthatというふたつの関係代名詞によって、情報が追加されていく文です。
こちらはご質問ではないですが、関係代名詞は2つなのか個人的に悩ましいところです。最後の,thatはthat is (to say)〜「つまり」のthatのような気がします(that is to sayのthatが関係詞なら確かに関係代名詞は2つですが…)。それに関係代名詞のthatは非制限用法(ンマ関係代名詞カ)がないと(教育文法では)言われているので、今回はthat is「つまり」でひとまとまりと処理した方がスッキリするかと思います。
以上、お力になれていたら幸いです。質問者様のような「なんでだろう?」とじっくり英文法を考える姿勢は私も大好きです。また何かあればぜひお気軽にお声掛けください!