この記事では、世界の言語の基本語順の割合とそこからわかる考察について書いていきたいと思います。
みなさんご存知の通り、日本語の基本語順はSOV型ですが、この基本語順は世界的に見て世界的に見てマジョリティーなのか、それともマイノリティーなのでしょうか?
また、基本語順を分析してみると、そこから人間の情報処理・知覚処理との関連性が垣間見えたりします。
このような語順について一歩踏み込んだ内容をお伝えしていきます。
言語の基本語順
語順の分類方法には様々ありますが、一般的かつ伝統的な分類法としてS(Subject/主語)・O(Object/目的語)・動詞(Verb/動詞)の3個の並び方によって分類されます。
考えられる語順のパターン
- SOV
- SVO
- VSO
- VOS
- OVS
- OSV
「3つのものを重複なしに並べる」のですから、数学の順列の問題を考えれば、理屈的には下記の6通り(3×2×1)が考えられるわけです。
それぞれの基本語順に属する言語例
それぞれの基本語順の割合を見ていく前に、どんな言語がどんな基本語順を持っているのかという言語例をご紹介します。
基本語順 | 言語例 |
SOV | 日本語、韓国語(朝鮮語)、ドイツ語、オランダ語、バスク語、ヒッタイト語、アムハラ語、エスキモー語 |
SVO | 英語、フランス語、中国語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、スワヒリ語、フィンランド語、現代ギリシア語、タイ語、ベトナム語、インドネシア語 |
VSO | サモア語、ヘブライ語、アラム語、古代エジプト語、フェニキア語、古典マヤ語、タガログ語、マオリ語 |
OVS | ヒシカリヤナ語 |
OSV | シャバンテ語 |
日本語は上記のSOV型に属しています。つまり、主語・目的語・動詞の順番で配置されます。
基本語順の割合
さて、ここまで基本語順のパターンとその言語例を見てきました。
実際にどの語順にどのくらいの数の言語が分類されているのでしょうか?
Dryer(2013)という学者は、世界の言語1377つの言語に対して研究を行い、次のような結果を提示しています。
基本語順パターンの割合
- SOV:約41%(565言語)
- SVO:約35%(488言語)
- VSO:約7%(95言語)
- VOS:約2%(25言語)
- OVS:約1%(11言語)
- OSV:約0.07%(4言語)
- 基本語順なし:約14%(189言語)
基本語順の分類・割合からわかること
ここからは上記の結果からわかることをまとめていきます。
具体的には下記の2つが考察として挙げられます。
考察
- 日本語の語順はマジョリティー
- SがOに先行する割合が高い
1つずつ見ていきましょう。
1. 日本語の語順はマジョリティー
もう一度結果を振り返ってみましょう。
基本語順パターンの割合
- SOV:約41%(565言語)
- SVO:約35%(488言語)
- VSO:約7%(95言語)
- VOS:約2%(25言語)
- OVS:約1%(11言語)
- OSV:約0.07%(4言語)
- 基本語順なし:約14%(189言語)
日本語が属するSOV言語は、世界の言語の中で約41%とマジョリティーであるということがわかります。
SVO型の英語を第二言語として学習すると、あたかも日本語の語順が稀であると感じる場合もありますが、実は日本語の語順こそが多数派だったのです。
2. SがOに先行する割合が高い
S(主語)がO(目的語)よりも前に置かれている基本語順に注目してみましょう。
基本語順パターンの割合
- SOV:約41%(565言語)
- SVO:約35%(488言語)
- VSO:約7%(95言語)
- VOS:約2%(25言語)
- OVS:約1%(11言語)
- OSV:約0.07%(4言語)
- 基本語順なし:約14%(189言語)
SがOに先行する語順パターンは3つあり、それらの割合を合計すると80%を超えます。
世界の言語のうち80%以上でSがOに先行するというのは偶然ではなく、何かしらの意味がありそうに思えます。
色々な分析ができそうですが、ここでは機能的な観点を採用してみたいと思います。
上山(2016)は、SがOに先行するという特徴について次のように述べています。
一般に、動作を行う側である主語が動作を受ける側の目的語よりも先に表現されるのは、ことばの伝達機能からしても、きわめて自然である
またこの分析は、動作を受ける目的語が主語の位置に現れる〈受動態〉の使用頻度が少ないことにも通ずる部分がありそうです。
そもそも日本語に基本語順なんてあるのか?
ここまで世界の言語の基本語順についてあれこれと見てきましたが、日本語の語順についても触れておきたいと思います。
日本語の特徴といえば、語順の自由さが真っ先に出てくるでしょう。
語順が自由
- 太郎が花子を殴った
- 花子を太郎が殴った
日本語では、主語や目的語の位置を自由に入れ替えても、文の意味自体は変わりません。
このような日本語のきわめて自由な語順を踏まえて、実は「日本語には基本語順はない」という立場が存在します。
この話の続きを知りたい方は下記の記事をどうぞ。
■もっと知りたい!
【日本語学】日本語の語順を生成文法から分析(かき混ぜに対する階層分析と非階層分析)
語順の違いはなぜ生まれるのか?
最後に大きな問題を取り上げておきます。ずばり「なぜ語順の違いは生まれるのか?」という問題です。
最初に断っておきますが、この記事でその結論を提示することはできません。
「なぜ語順の違いは生まれるのか?」という問題は誰しもが疑問に思い、言語学でも様々な研究がされてきました。
今回は、その問いに対する2つのアプローチをご紹介します。〈歴史比較言語学〉と〈生成文法〉です。
歴史比較言語学
語順の差異に注目する言語学として最も伝統的なのが〈歴史比較言語学〉です。
〈歴史比較言語学〉とは、〈歴史言語学〉と〈比較言語学〉が合わさったものであり、言語の変化の歴史を研究することが言語の家系図をつくる言語学の分野です。
その分野では、世界中の数多の諸言語はいくつかの少数の言語から生まれ、変化していったと考えます。つまり、現在ではたくさんの言語が世界中にありますが、それらは同じ親元から生まれた兄弟だと考えていま(実際に証明されています)。
このように考える〈歴史比較言語学〉では、どのタイミングで語順の変化が生じたのか、という歴史現象として語順の違いを研究しています。
生成文法
2つ目のアプローチが〈生成文法〉です。〈生成文法〉は1950年代にノーム・チョムスキーというアメリカの言語学者によって提唱された言語学の分野であり、近代言語学の主流の1つと言われています。
そんな〈生成文法〉は、言語に関する様々な問いに向き合っているのですが、その研究対象の1つに言語の普遍性があります。
世界の諸言語はぱっと見では異なる姿をしていますが、実は全ての言語に共通する普遍的な特徴が存在すると考えられています。
しかし、今まで基本語順を見てきてお気付きの通り、言語によって基本語順は異なります。この事実を生成文法では〈原理・パラメーター〉という考え方で説明しようとしています。
詳しくは説明しませんが、〈原理〉とはすべての言語に共通した固定的な性質のことで、〈パラメーター〉とは言語によって異なる可変的な性質になります。そして、それぞれの言語(日本語とか英語)の性質は、〈原理〉と〈パラメーター〉の相互作用によって決定すると考えます。
生成文法に言わせてみれば、語順という性質は〈パラメーター〉によって説明される対象であるということです。
全体のまとめ
今回は世界の諸言語の基本語順について見てきました。
基本語順とその具体例
基本語順 | 言語例 |
SOV | 日本語、韓国語(朝鮮語)、ドイツ語、オランダ語、バスク語、ヒッタイト語、アムハラ語、エスキモー語 |
SVO | 英語、フランス語、中国語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、スワヒリ語、フィンランド語、現代ギリシア語、タイ語、ベトナム語、インドネシア語 |
VSO | サモア語、ヘブライ語、アラム語、古代エジプト語、フェニキア語、古典マヤ語、タガログ語、マオリ語 |
OVS | ヒシカリヤナ語 |
OSV | シャバンテ語 |
基本語順の割合
基本語順パターンの割合
- SOV:約41%(565言語)
- SVO:約35%(488言語)
- VSO:約7%(95言語)
- VOS:約2%(25言語)
- OVS:約1%(11言語)
- OSV:約0.07%(4言語)
- 基本語順なし:約14%(189言語)
■参考文献
- Dryer, Matthew S. & Haspelmath, Martin (eds.) 2013. The World Atlas of Language Structures Online. Leipzig: Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology. (Available online at http://wals.info, Accessed on 2022-12-20.)
- 上山恭男(2016)『機能・視点から考える英語のからくり』開拓社
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