この『音声学Ⅸ』では、〈超分節音(的特徴/的要素)〉(suprasegmental features)について見ていきます。
超文節音とは、その用語の通り「分節音(segment)のレベルを超えた言語音的特徴(要素)の総称」を指します。
超分節音的特徴の主要な具体例としては、
- 〈ピッチ(picth)〉
- 〈強勢(stress)〉
- 〈長さ(length)〉
の3つが挙げられます。
この記事では、超分節音的特長を理解するために、まずは言語音の分類を通して〈超分節音〉と〈分節音〉の関係性について取り上げます。その後、超分節音的特徴の主要な3つの特徴について具体例と共に見ていきたいと思います。
わかりやすくステップを設け、具体例を参照しながら、基礎的な超分節音的特徴についての知識をお届けします。ぜひ最後までご覧ください。
【基礎知識】音声学(Phonetics)とはどんな学問か?
本題に入る前に、そもそも音声学とはどんな学問か?ということに触れておきます。 音声学は、言語学の1つの分野であり、人間の言語の(物理的な)音に注目します。
また、以下のように3種類の音声学が代表的です。 つまり音声学の定義は、人間の言語に使われている音が「どのように作られ」、「どのように空気中を伝播し」、「どのようにして聞き取られ理解されるのか」、を研究する学問です。
【音声学Ⅰ】音声学とは何か?定義/種類/音韻論との違いをわかりやすく解説
言語学における音声学の位置付け
ここで言語学全体における音声学の立ち位置を確認しておきましょう。
言語には、大雑把に言うと「音」「構造」「意味」の3つの側面がありますが、音声学は、名前の通り言語の「音」に注目します。
音声学のおさらいは以上です。次から本題の〈超文節音〉のために下準備として言語音の分類について見ていきます。
言語音の分類「分節音vs超分節音」
言語音の分類は複数の方法がありますが、最も一般的には次のような分類を提示することができます。 まずここで、〈超分節音〉が〈分節音〉と対をなしていることがポイントです。つまり、大雑把に言ってしまえば、音声学において〈超分節音(的特徴)〉とは「分節音以外の言語音」と捉えることが可能です。
したがって、〈超分節音(的特徴)〉を理解するには、その対をなす〈分節音〉について知ることが大切です。 〈分節音〉について以下で簡単におさらいしておきます。
分節音(segments)について
言語音は、最初の分岐点で「分節音vs超分節音(的特徴)」という2種類に分かれます。
そのうち、前者の〈分節音〉とは、「節々に分けられる最小単位の音」のことを指します IPA(国際音声記号)と関連付けて言えば、「IPAの文字1つで表される言語音」です。
要は、(現代アメリカ英語においては)〈母音〉と〈子音〉のことです(半母音含む)。 〈調音音声学〉においては最も基本的な音として扱われます。
補足説明:綴り字と混合しないように注意
〈分節音〉は、「IPAの文字(記号)1つで表される言語音」と表現することができますが、綴り字(スペル)とは別問題です。
というのも、歴史の紆余曲折あり、現代英語では、綴り字と発音は完全に一致しないからです。 以下のチャートをご覧ください。
単語 | アルファベットの数 | IPA (IPAシンボルの数) | 分節音の数 |
cat | 3 (c/a/t) | [kæt] (3) | 3 |
knot | 4 | [nɑt] (3) | 3 |
book | 4 | [bʊk] (3) | 3 |
knock | 5 | [nɑk] (3) | 3 |
through | 7 | [θɹu] (3) | 3 |
アルファベットとIPAシンボルの数が必ずしも一致していないことがわかります。このように、現代アメリカ英語では、「1つの音は1つのアルファベットで必ずしも表されるわけではない」というのが現状です。
この問題点を解決するために考案されたのが〈IPA〉であり、このIPAシンボル1つは1つの〈分節音〉を表します。
IPAについてはこちら
音声学で必ず登場するIPAについて詳しく解説しています。
超分節音(suprasegmentals)の定義と特徴
前置きが長くなりましたが、ここからが当記事の本題である〈超分節音(的特徴)〉についての話です。
今までの話は全て〈分節音〉に関するものでしたが、言語音には〈分節音〉ではないものが存在します。それが〈超分節音〉です。 〈超分節音〉は、その名の通り「分節音を超えた音(の特徴)」です。
1つ1つに分けられた音ではなく、「とある特徴」を持った音のことを指します。 その「とある特徴」とは、以下のようなものがあります。
超分節音が持つ特徴
- 〈ピッチ(picth)〉
- 〈強勢(stress)〉
- 〈長さ(length)〉
このような特徴を持った言語音が〈超分節音(的特徴)/suprasegmental features〉です。 以下では、上記のⅢつの〈超分節音的特徴〉を1つずつ見ていきます。
ピッチ(pitch)の定義と具体例
〈ピッチ〉とは、その音がどれくらい高いか、もしくはどれくらい低いか、という高低の度合いのことです。
音の高低の度合いには、〈声帯(vocal folds)〉が関係しています。声帯は、高いピッチの音を作るときはより速く振動し、低いピッチの音を作るときはより遅く振動します。
ピッチを意味の区別のために使う言語がある
いくつかの言語では、このピッチ情報を単語の意味の区別のために使用することが知られています。
言語が単語の意味の区別のためにピッチ情報を使用するとき、そのピッチ情報は〈トーン(tone)〉と呼ばれ、その言語は〈トーン言語(tone language)〉と呼ばれます。
この〈トーン言語〉はアフリカやアジアの言語に数多く見られることが知られています。
〈トーン言語〉の代表例が標準中国語です。
中国語表記 | ピンイン | 意味 | 音声データ |
媽 / 妈 | mā | 母 | 音声1 |
麻 | má | 麻 | 音声2 |
馬 / 马 | mǎ | 馬 | 音声3 |
罵 / 骂 | mà | 叱る | 音声4 |
音声リスト
発話の意味を変えるピッチはイントネーションと呼ばれる
上記の標準中国語で観察した〈ピッチ〉は、単語の意味の区別のために用いられるため〈トーン〉と呼ばれています。
一方で、〈ピッチ〉が単語の意味ではなく発話の意味の区別のために用いられる場合、そのピッチは〈抑揚/イントネーション〉と呼ばれます。
〈イントネーション〉を有する言語としては、日本語や英語があります。具体的な使用例としては、発話の最後を上げて話すことで、疑問文の意味を持つことになります。
強勢(stress)の定義と具体例
〈強勢〉は、〈強さ(intensity)〉と〈大きさ(loudness)〉によって決まります。
物理的なエネルギー。物理的な刺激の程度で決まる。
\
◆大きさ
聞こえのうるささ。心理的な感覚の程度で決まる。
また、〈強勢〉が置かれる〈強勢音節(stressed syllable)〉は、強勢が置かれない音節よりも微かにピッチが高く、長さが長いとされています。
IPA記述では、第一強勢(primary stress)は[’]で示されます。
強勢を単語の意味の区別のために使う言語ある
いくつかの言語では、〈強勢〉は単語の意味の区別のために用いられます。
有名どころとしては、英語の「名前動後」というものがあります。スペルが全く同じで、第一強勢の位置によって、その単語が名詞か動詞に変わります。
単語 | IPA | 意味 | 品詞 | 音声データ |
insult | [ɪ́nsʌlt] | 侮辱 | 名詞 | 音声1 |
insult | [ɪnsʌ́lt] | 侮辱する | 動詞 | 音声2 |
音声リスト
長さ(length)の定義と具体例
〈長さ〉とは、言うまでもなく音の長さのことです。IPA記述では、長音は[ː] で示されます。
長さを単語の意味の区別のために使う言語がある。
いくつかの言語では、音の長さは単語の意味の区別のために用いられます。
具体例としてイタリア語を紹介します。
スペル | IPA | 意味 | 音声データ |
fato | [fatɔ] | 運命 | 音声1 |
fatto | [fatːɔ] | 事実 | 音声2 |
音声リスト
この記事のまとめ
今回は、〈超分節音(的特徴)〉について見てきました。
超文節音とは、「分節音(segment)のレベルを超えた言語音的特徴(要素)の総称」のことで、言語音の分類の観点から捉えると分節音と対をなしています。
その超分節音的特徴の具体的な特徴として、
- 〈ピッチ(picth)〉
- 〈強勢(stress)〉
- 〈長さ(length)〉
の3つを取り上げました。
また、これらの特徴を単語(または発話)の意味を区別するために用いる言語の事例もご紹介しました。
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