時制や接続詞のif/whenを学習していると、こんなルールに出会ったことはないでしょうか?
今回は、この約束事の理由を深掘りしていきます。
はじめに
さて、もう1度ルールを見てみましょう。
これは、数ある英文法のルールの中でも、最重要とも言える約束事です。
そのため、一生懸命暗記しようとするばかりに、このルールが存在する理由を考える余裕が無くなってしまうこともよくあることです。
そこで、この記事では、
という疑問に答える3つのアプローチをご提案させていただきます。
◎結論
早速ですが、結論を示します。
この3つのアイデアをそれぞれ詳しく見ていきましょう。
アイデア①
手始めに、最もシンプルなものからいきましょう。
アイデア①は、
狭い視野で見ると…
『なんでwillじゃなくて現在形なんだろう?』
と疑問に感じる方の多くは、If節だけしか見てない傾向があります。
そこだけを見つめて、なんとか理由を見出そうとしているわけです。
広い視野で見ると…
そこには will が既に使用されているため、If節の方にも will を使ってしまうと重複してしまうことに気付けます。
説得力をもたせるために
この考え方では説明できない点
1つ目のアイデアはシンプルで分かりやすいですが、以下のような指摘には答えられません。
指摘 ①「なぜ、If節ではなく主節にwillを使うのか?」
指摘 ②「なぜ、If節中は現在形なのか?」
「willの重複を避ける」という理由なら、「現在形ではなく、(極端に言えば)過去形でも、be going to でも良い」という指摘ができてしまいます。
つまり、「willの反復を避ける」という目的ならば、
『will以外だったら何でも良いのに、なぜその中からわざわざ現在形が選ばれたのか?』
この指摘には説明を与えることができません。
アイデア②
アイデア②では、If節と主節の関係性を考えてみたいと思います。
If節は主節の土台
このような表現があった場合、
「I’ll watch movies at home」という事態(イベント)は、「it rains tomorrow」というイベントよって支えられています。
「家で映画を観る」というイベントは、「明日雨が降る」というイベントがあって初めて成立するのです。
つまり、次のことが分かります。
土台は安定的に
そんな土台となる条件節に、推量を表すwillを使うとどうなるでしょうか?
土台に推量の意味を持つwillを使うと不安定になってしまいます。
そこで土台には、最も安定している現在形が使った方が良いと考えることが出来そうです。
イメージとしてはこんな感じです。
・土台が現在形の場合
・土台がwillの場合
現在形が最も安定している理由
アイデア②の説明を聞いて、
以上が2番目のアイデアでした。
アイデア ③
最後の考え方は、〈英語史〉の知識を借りてみたいと思います。
このアプローチが言語学的に最も有名であり、そして歴史的に正しい説明です。
英語史とは
〈英語史〉とは、英語の変化の過程を辿ったものです。
そんな〈英語史〉では、英語は次の4つの区分に分けられています。
1100年頃ー1500年頃 中英語
1500年頃ー1900年頃 近代英語
1900年頃ー 現在 現代英語
鍵を握るのは古英語
今回の「条件節における現在形」という謎を解く鍵は、〈古英語〉にあります。
〈古英語〉では、条件節の動詞は〈仮定法現在〉が使用されていたのです。
正しくは、古英語で使用されていたのは〈仮定法〉ではなく〈接続法〉と呼ばれるものですが、話を複雑にさせないために、ここでは〈仮定法〉と表記させていただきます。
そもそも仮定法現在とは?
例文:The doctor suggested that my father stop smoking.
(その医者は、私の父親が喫煙をやめるように主張した)
発想の転換
ここで、あることに気付きます。
さきほど、〈古英語〉では、
なぜ仮定法現在が現在形になったのか?
この答えは単純です。
〈屈折〉などの専門的な話になるので、興味のある方はご覧ください。
〈屈折〉というのは、簡単に言うと「動詞が活用されること」を指しています。昔の英語では、主語や時制、法に応じて、動詞の形が変化していたのです。
ここで現代の英語を考えてみてください。現代の英語では、ある例外を除いては直説法過去形と仮定法過去は一致していますが、古英語では、直説法過去と仮定法過去は異なる形を取っていました。つまり古英語においては、過去形にしても仮定法にならなかったということです。しかし、英語は数ある理由のせいで「単純化」の道を辿り、直説法過去と仮定法過去はある例外を除いては一致したのです。その一致しなかったある例外こそが、be動詞です。仮定法を勉強していると、主語がheやsheなどの3人称単数の時でも ‘was’ ではなく ‘were’ を使うことに違和感を感じたことが多いかと思います。ほとんどの場合で『過去形=仮定法』という方程式が成立しているのに、なぜ主語が3人称単数(she/he…)の時だけは、『過去形=仮定法』という方程式が成立しないのでしょうか?その答えは、〈古英語〉の仮定法の形をbe動詞だけが継承したからです(そのままそっくりではありませんが)。先ほど『昔の英語において、過去形=仮定法ではない』と説明しましたが、その性質をbe動詞だけが継承したのです。be動詞は、仮定法に限らず直説法現在でも、「am, are , is 」のように複雑に変化させる必要がありますね。これが最初に説明した〈屈折〉のことですが、be動詞は〈古英語〉の〈屈折〉を(そのままそっくりではありませんが)継承したのです。つまり、裏を返せば、〈古英語〉では、be動詞に限らず全ての一般動詞が現代のbe動詞のような〈屈折〉を持っていたのです。この〈屈折〉が現代になるにつれて「単純化」のせいで(学習者にとっては「おかがで」)消滅していき、それに伴い〈屈折〉によって表現される〈仮定法〉も使用頻度が減少していったと考えられます。
ここからは個人的な考えになるのですが、『屈折の単純化』によって『屈折に頼っている仮定法』の使用頻度が減少しつつあるのなら、『屈折に頼っている他の文法事項』の使用頻度も減少すると考えられそうです。『屈折に頼っている他の文法事項』とは、ずばり『3単現のs』です。主語が3人称単数で時制が現在の時に動詞の末尾につくあの ‘s’ も実は〈屈折〉の名残だったのです(正確には、あの ‘s’ は〈屈折語尾〉と呼びます)。そんな『屈折に頼っている3単現のs』も、いつの日か英語の世界からいなくなる日もあるのかもしれません。
3単現のsと〈屈折〉についてはこちらの記事もご参考にしてください。
【関連情報】仮定法の衰退
先ほどのアイデア③で、
『仮定法の使用頻度が減少した』
と説明したので、もう少し〈仮定法〉に言及しておきます。
〈古英語〉の時代では、今では〈直説法〉を使うような場面でも〈仮定法〉が使われていたのです。
一例が、有名な「I think that ~」の構文です。
[注釈]古英語の表現は、便宜上、現代英語に変換して記載しています。綴り字も文法も現代英語とは大きく異なるのでご注意ください。
英語史をもっと詳しく知りたい方へ
〈英語史〉の入門書として、次の2冊がおすすめです。
特に2冊目の『英語の「なぜ?」の答えるはじめての英語史』は優れた英語史入門書です。
まとめ
今まで見てきたアイデア3つをまとめます。
冒頭でご紹介した時よりも、理解が深まっていたら幸いです。
ここから先は「日本語における条件文」を分析していくので、以後、英文法に関する説明はありません。英文法の話を楽しみにされている方々に、最後まで読んで時間を浪費させてしまうと申し訳ないので、予めここでその旨を報告いたします。ここまでご覧いただきありがとうございました。
【日英比較】日本語の条件文
さて、ここからは日本語における条件文を考えてみましょう。
日本語における条件文をつくる言葉は、
①「~と」
②「~たら」
③「~ば」
[例文]
① 春が来ると、桜が咲く
② 春が来たら、桜が咲く
③ 春が来れば、桜が咲く
①「~と」
「~と」という表現には、いくつかの使用条件が存在します。
〇 良い例
✕ 悪い例
なぜこの2つは不適切な表現なのでしょうか?
それは、
- 「野球をする」
- 「手を洗って下さい」
は、意志を含む行為・動作を示しています(後述の補足説明を参照)。
ここでもう1度、良い例を見直してみましょう。
- 「野球場を見える」
- 「手を洗う必要がある」
「~と」の役割
それでは、例文の分析から分かることをまとめます。
*補足説明
②「~たら」
2つ目の条件文を形成する「~たら」を見ていきましょう。
〇 良い例
〇 良い例 Part 2
×公園につくと、野球をする
×ゴミを触ると、手を洗って下さい
「~たら」の役割
したがって、「~たら」の使用には、厳しい制限は存在しません。
「~たら」の役割を定義するならば、
③「~ば」
最後に「~ば」という表現を見てみましょう。
「~ば」の場合は少し複雑です。
用法が大きく分けて2つ存在します。
(2) 反実仮想的な主観的感情を示す
(1) 条件節を示す
まずは悪い例から見てみましょう。
✕ 悪い例
〇 良くなる例
このように少し手を加えると、適切さが上がるということです。
つまり、
・条件節と主節の主語が異なる場合
・条件節が状態を表す場合
は、「~ば」の使用が可能になるということです。
また2つ目の例文は、条件節中に「汚い」という状態を表す語句があるため適切さが上がっています。
(2) 反実仮想的な主観的感情を示す
「~ば」の2つ目の用法です。
「~ば」という表現は、『反実仮想的な主観的感情』を表します。
公園があれば、野球ができる
ゴミがなければ、快適に過ごせる
例題への立ち返り
さて、3つの表現の分析が終わったので、もう1度この例文を考えてみましょう。
① 春が来ると、桜が咲く
② 春が来たら、桜が咲く
③ 春が来れば、桜が咲く
このことをイラストにしてみました。
言葉の奥深さ
今まで見てきたように、私たちの母語の日本語における条件文には、なかなか複雑なルールが存在することが分かりました。
こんな複雑な表現を日々の生活で無意識に使っていると思うと、日本語を含め言語って不思議で面白いと思えるはずです。
そして、この日本語に対する「へー!」という驚きと興奮は、英文法を学習するからこそ出会えるご褒美でもあるのです。
これも英文法のスパイスの1つだと信じています。
英語と比較することで、日本語について新たな発見を与えてくれる
全体のまとめ
今回は、
『条件節をつくるIf節中の中が現在形になる理由』
を3つご提案させていただきました。
- 主節でwillを使っているため、willの重複防止を目的にIf節中は現在形にする
- If節の内容は主節の内容が実現するための土台であるから、不安定なwillではなく安定的な現在形を用いる
- 英語史の観点から見ると、If節中の現在形は、古英語の仮定法現在の名残である
〈英語史〉〈古英語〉〈仮定法現在〉〈屈折〉
1つの現象に対して多角的な視点で考える能力を培える
[参考文献]
- 小野米一 他 (1983) 『条件表現「と」「ば」「たら」「なら」の異同について:中国人学習者のために』国立大学法人北海道教育大学
- 小林賢次(1996)『日本語条件表現史の研究』ひつじ書房
- 渡部昇一 (1983)『英語の歴史』 大修館書店
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また次の記事でお会いしましょう。
コメント
とてもわかりやすくまとめて頂いて大変参考になり、有難うございます
コメントありがとうございます。参考になる情報をご提供できたようで何よりです。
このサイトに感謝しています。きっかけは「notは後ろを否定する」という原則に、cannotがそぐわないので調べていたところ、このサイトにたどり着き、納得しました。
申し遅れましたが高校の教員です。覚えろ文法に嫌気がさし、できるだけ本質を知ったうえで、一番簡単な解説だけして、覚えるよりもたくさん読める授業を心掛けています。
いま、Ifの中にwillがない、というページを見ています。
で、教え方としては、ifやwhenのように条件があって(副詞節)→何かが起こる、というのを表す表現は、「その場にワープする」と教えています。
If it rains tomorrow, I will stay home. あした家にいる自分を想像して、窓の外見たら、雨が降ってるでしょ、って具合に。すると、
Tell me when he comes back.とTell me when he will come back.の違いも判ります。
この教え方で、問題があれば、ご意見ください。
難しい用語を要しない簡潔かつ魅力的な説明の仕方だと思います。
共有していただきありがとうございます(^o^)