✔この記事の要点
この記事では、〈文末焦点の原理〉(end focus)という英語の情報構造に関する原則を扱います。
〈文末焦点の原理〉というのは、英語の〈情報構造〉という概念と密接に関係している考え方の1つで、複数の文法事項を包括的・体系的に扱うことを可能にします。
この記事では、以下のような内容を書いています。
まずは、〈旧情報〉や〈新情報〉などの〈情報構造〉について触れたあとに、〈文末重点の原理〉で説明を与えられる具体的な文法事項を見ていきましょう。
情報構造とは
はじめに今回の記事の土台にある〈情報構造〉について触れておきます。
そもそも「情報」というのは何か?
2つの種類の「情報」についてお話します。
2つの種類の「情報」【旧情報と新情報】
言語において、情報は2種類に分類されます。
その2種類とは、〈旧情報〉と〈新情報〉です。
言語を使用するとき、話し言葉なら、〈話し手〉と〈聞き手〉の間で、書き言葉なら、〈書き手〉と〈読み手〉の間で、多種多様な情報が飛び回っています。
そんな情報を、
- 「話題として既に登場したか、してないか」、
- 「話し手と聞き手で共有できているか、できてないか」
の観点から線引きすることができます。
そして、次のように定義されます。
情報構造について
それでは、次に〈情報構造〉について扱います。
そして、英語の〈情報構造〉の性質について、以下のように言われています。
つまり、文の最初に〈旧情報〉があり、最後の方に〈新情報〉が登場するということです。
情報の種類と情報構造を関連付けると…
ここまで、〈旧情報・新情報〉と〈情報構造〉について見てきました。
今までの内容をまとめると、次のようになります。
ここからは、メインの〈文末焦点の原理〉と関連付けていきます。
文末焦点の原理とは
文末焦点の原理は、以下のように定義されます。
(または文末に移動されたものは焦点化される)
ここで先程の〈情報構造〉の話が絡んできます。
「既に知っている情報」である旧情報と、「まだ知らない情報」である新情報の2つのうち、どちらが重要でしょうか?
それは、〈新情報〉の方です。
つまり、〈新情報〉の方が大事だということは、〈文末焦点の原理〉で文の後ろの方に回されるのは、〈新情報〉だということです。
かくして、先程お話した
という〈情報構造〉の特徴が出来上がっているのです。
「旧情報→新情報」の〈情報構造〉と、〈文末焦点の原理〉は、互いに密接に関係している、という点がポイントです。
【応用編】「旧情報→新情報」になる2つの理由
以下の内容は今回の記事の必須知識ではありませんが、興味のある方はぜひご覧ください。
いきなり最初から知らない情報を言われても人間の脳は対処するのに苦労します。
「知っている情報から知らない情報へ」と展開していく方が人間の認知には好都合なのです。
聞き手が関心を持っていて知りたいと思う情報は、言うまでもなく〈新情報〉の方です。仮にそんな〈新情報〉が文の最初に登場してしまうと、そのあとに続く〈旧情報〉は聞き手にとって余計な部分であり、注意して耳を傾ける必要がなくなってしまいます。これだと話し手と聞き手の間で合理的なコミュニケーションが行われているとは言えません。合理的な情報伝達を目的として、「旧情報→新情報」の〈情報構造〉になっていると言われています。
以上で〈情報構造〉と〈文末焦点の原理〉についての説明は終了です。
文末重点の原理で扱える文法事項
ここからは、〈文末焦点の原理〉で扱うことができる具体的な文法事項を見ていきます。
今回紹介するのは、以下の5つです。
- 第4文型と第3文型の書き換え(与格交替)
- 能動態と受動態の変換
- There is 構文 (存在文)
- 倒置文
- 接続詞becauseの性質
1つずつ見ていきましょう。
第4文型と第3文型の書き換え(与格交替)
一般的に、以下の2つの文は「書き換え可能で、同じ意味」とされています。
「トムは2つの手紙をメアリーに送った」
「トムはメアリーに2つの手紙を送った」
しかし、〈文末焦点の原理〉の観点から捉えるならば、両者には意味の違いが存在します。
焦点化される情報を記すと、以下のようになります。
「トムは2つの手紙をメアリーに送った」
⇒ 「送った物」よりも「送り先」
「トムはメアリーに2つの手紙を送った」
⇒ 「送り先」よりも「送った物」
このように、〈文末焦点の原理〉によって焦点化される情報が異なります。
第4文型では「行為の対象(物)」が焦点化される
補足説明
上記の第3文型と第4文型における「焦点化される情報の違い」を明確化するために、以下のような「ある疑問文に対する返答として想定する」という手法が取られることがあります。
「トムは2つの手紙を誰に送ったの?」
⬇
Tom sent two letters to Mary.
「トムは2つの手紙をメアリーに送った」
「トムはメアリーに何を送ったの?」
⬇
Tom sent Mary two letters.
「トムはメアリーに2つの手紙を送った」
このような疑問文とその返答を想定すると、焦点化される情報を理解しやすくなるかと思います。
詳細はこちらの記事
第3文型と第4文型の書き換え(=与格交替)に生じる意味の違いについては、別記事を作成しています。
【与格交替と文末焦点の原理】
➤➤【文型】第3文型↔第4文型 意味の違い①
能動態(active voice)と受動態(passive voice)の変換
次に、〈能動態〉と〈受動態〉を〈文末焦点の原理〉から観察してみましょう。
能動態と受動態の2つを比較すると、両者の違いの1つとして、「情報構造の流れ」が挙げられます。
つまり、
- 能動態における旧情報(主語)であった Tom が、受動態では新情報(by phrase)として提示される
- 能動態における新情報(目的語)であった this book が、受動態では旧情報(主語)として提示される
このような現象が起きているのです。
そして、この情報構造の流れに〈文末焦点の原理〉を当てはめると、
⇒ 「書いた人物」よりも「書いた物」が焦点
⇒「書いた物」よりも「書いた人物」が焦点化
このように解釈する事が可能です。
もっと一般的に言うならば、
と捉えることができます。
詳細はこちらの記事
〈情報構造〉や〈文末焦点の原理〉から捉えた〈受動態〉については、以下の記事をご参照ください。
【受動態と文末焦点の原理】
➤➤【受動態】〈情報構造〉から捉える受動態の目的
There is 構文 (存在文)
〈文末焦点の原理〉で扱える文法事項の3つ目として、〈存在文〉を見てみましょう。
一般的に英語の存在文は、There is(are) ~ で示されます。
「机の上に本がある」
しかし、この 〈There is 構文〉が許容されないケースがあるのをご存知でしょうか?
この文が不適格として判定される理由は、the book という名詞句にあります。
結論から言うと、
という制限が存在します。
先程の例文では、book という名詞に〈限定詞〉である the が付いているため、〈there is 構文〉とは共起できないのです。
それでは、なぜ『〈there is 構文〉は、限定詞(the, my, this…)を伴った名詞には使えない』という制限が存在するのでしょうか?
〈情報構造〉と〈文末焦点の原理〉の観点から考えてみましょう。
the が付く名詞の性質
注目すべきは、定冠詞 the です。
定冠詞のtheとは、「特定されている名詞」に対して用いられます。
「特定されている」というのは、「会話や文章で既出・共有されたの情報のこと」と言い換えることが可能です。
そして、この「会話や文章で既出・共有されたの情報のこと」というのは、他でもない〈旧情報〉のことです。
情報構造の流れ
次に考えたいのが、〈情報構造〉の流れです。
最初にお伝えした通り、〈情報構造〉は「旧情報→新情報」の流れで構成され、結果的に〈文末焦点の原理〉の作用で、文末にある〈新情報〉の方が焦点化されます。
このことを踏まえて、もう一度 例文を見てみましょう。
この例文では、〈旧情報〉であるはずの the book が 比較的に文末近くに配置されています。
つまり、〈情報構造〉の流れや〈文末焦点の原理〉に違反しているのです。
したがって、
there is 構文を使用しないで、単純に the book を文頭の主語に配置した表現は、もちろん許容されます。
以上が〈文末焦点の原理〉から捉えた〈there is 構文〉でした。
逆の言い方をすれば…
詳細はこちらの記事
〈文末焦点の原理〉の観点から捉えた〈存在文〉については、別の記事を作成しています。
かなり詳しく書いているので、ぜひ合わせてご覧ください。
➤➤【存在文】旧情報と新情報の観点から考えるthere is 構文
倒置
次に〈文末焦点の原理〉と倒置を考えてみたいと思います。
「メアリーはトムの正面に座った」
「トムの正面に座ったのはメアリーだった」
倒置が生じる条件は幾つかありますが、例文のように副詞句が文頭に出ると、倒置が起こることがあります。
一般的に、英語において、主語は文頭に置かれるため、〈文末焦点の原理〉によって焦点化されることは不可能です。
しかし、例文のように倒置を起こすことで、本来 主語にあった情報が焦点化されることが可能になります。
主語を焦点化する他の手段〈分裂文〉
倒置を起こすことで主語を焦点化させると説明しましたが、英語では他の手法も存在します。それが〈分裂文〉(cleft) と呼ばれるものです。
「トムの前に座ったのはメアリーだった」
接続詞becauseの性質
最後の例として、接続詞の because を取り上げます。
理由を表す接続詞として有名な because ですが、基本的に「文頭で使われることは少ない」とされています。
○ I don’t like feel like going out because it is raining.
「雨が降っているから、外出したい気分ではない」
例文にあるように、becauseの節(従属節)は、文の後半に置くのが良いとされているのです。
これに対して、同じく『理由・原因』を表す接続詞の as や since は、文頭で使用されることがあります。
「雨が降っているから、外出したい気分ではない」
このような現象が生じるのはなぜでしょうか?
そこには、それぞれの接続詞の性質が関係しています。
becauseの場合
because で示される従属節が文の後半に置かれる傾向が高い理由は、because は〈新情報〉を引き連れる接続詞だからです。
言い換えると、because によって示される『理由・原因』は、聞き手・読み手がまだ知らない情報ということです。
そして、because によって示される情報は〈新情報〉なので、〈文末焦点の原理〉によって文の後半に回されます。
「雨が降っているから、外出したい気分ではない」
この例文では、「外出したい気分ではない」という情報よりも、「雨が降っているから」という理由・原因の方に焦点が当たっています。
この特徴を抑えたまま、次の as や since を見てみましょう。
as や since の場合
as や since の場合は、文頭で使用されることがあります。
なぜなら、as や since は、〈旧情報〉を引き連れる性質があるので、文頭に配置することができるのです。
「雨が降っているから、外出したい気分ではない」
したがって、「雨が降っているから」という情報よりも、「外出したい気分ではない」という結論の方に焦点が当たっています。
安井(1983: 506-7)は、「since節は、通例、主節に先行し、(中略) 前提を表している」と述べています。ここでいう「前提」は〈旧情報〉と解釈することができます。
以上が、because が文頭で使用されにくい理由でした。
文法事項のおさらい
今まで見てきた〈文末焦点の原理〉で扱える文法事項をまとめ直しておきます。
- 第4文型と第3文型の書き換え(与格交替)
- 能動態と受動態の変換
- There is 構文 (存在文)
- 倒置文
- 接続詞becauseの性質
一見すると無関係に思える複数の文法事項の間にも、〈情報構造〉や〈文末焦点の原理〉といった1つの考え方で包括的・体系的に扱うことができるのです。
これが〈文末焦点の原理〉の魅力の1つであり、英文法の奥深い繋がりを味わせてくれる「スパイス」だと思っています。
無関係に思える現象が相互に結び付いていることに気付くことができる
補足説明
今まで〈文末焦点の原理〉で説明できる文法事項をいくつか見てきましたが、あくまで「傾向」として捉えるべきだと考えています。というのも、必ずしも 文末尾に置かれたものがすべて新情報で、焦点が当てられる重要度の高いものという訳ではないからです。例外はいくらでも出てきます。
「文末焦点の原理」という名前こそは付けられているものの、数学や物理学の「〇〇の原理(原則)」とは少し性質が違うようです。
「知っておくと少し便利になる!」という感じで〈文末焦点の原理〉を理解しておくと良いのかもしれません。
全体のまとめ
今回の記事では、〈情報構造〉と〈文末焦点の原理〉という考え方を見てきました。
そして、例外はあるものの、〈文末焦点の原理〉という法則で多くの文法事項を包括的・体系的に扱えるという点が最大の魅力です。
今回のポイントです。
- 情報には、〈旧情報〉と〈新情報〉の2種類がある
- 情報構造は、一般的に「旧情報→新情報」の流れで形成される
- 〈文末焦点の原理〉によって、文末の情報は焦点化される
- 〈文末焦点の原理〉は、複数の文法事項を包括的に扱う包括的な文法理論である
今回の内容が面白い!と感じた方は、この書籍がおすすめです。英文法事項を「からくり」という観点から捉える非常にユニークな1冊です。
関連記事の再掲示
この記事中で掲載した関連記事のリンクをまとめ直しておきます。
今回の記事と関連している内容なので、ぜひ合わせてご覧ください。
【与格交替と文末焦点の原理】
➤➤【文型】第4文型↔第3文型 意味の違い①
【受動態と文末焦点の原理】
➤➤【受動態】〈情報構造〉から捉える受動態の目的
【存在文と文末焦点の原理】
➤➤【存在文】旧情報と新情報の観点から考えるthere is 構文
参考文献
- 上山恭男 (2016)『機能・視点から考える英語のからくり』開拓社
- 池上嘉彦 (1995)『〈英文法〉を考える』筑摩書房
- 安井稔 (1983)『改訂版 英文法総覧』開拓社
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