今回は、意味論における〈成分分析〉という考え方を見ていきたいと思います。
このような内容をわかりやすく説明していきます。
意味論の全体像はこちら
「意味論とは何か?どのような分野でどのような種類があるのか?」という意味論の全体像については、別記事で詳しく解説しています。
成分分析について
言語の意味を扱う〈意味論〉ですが、まず真っ先に、『意味をどのように捉え、記述するか?』という課題に直面します。
そこで考え出された1つの分析方法が〈成分分析〉と呼ばれるものです。
成分分析の具体例
〈成分分析〉の定義だけ見ても分かりにくいと思うので、具体例を通して考えてみましょう。
以下が実際の〈成分分析〉の具体例です。
少年 | 少女 | 成人男性 | 成人女性 | |
人間 | + | + | + | + |
大人(成熟) | - | - | + | + |
オス(♂) | + | - | + | - |
この表では、「少年」「少女」「成人男性」「成人女性」という4つの語を〈成分分析〉しています。
それぞれの語が「人間」「大人」「オス(♂)」という性質を有しているかどうかで判断し、有しているならば「+」、有していないならば「-」が付きます。
別の表記法
上の〈成分分析〉では表を用いて記述しましたが、角括弧を用いて以下のように表記することもあります。
- 少年 [+人間] [-大人] [+オス]
- 少女 [+人間] [-大人] [-オス(+メス)]
- 成人男性 [+人間] [+大人] [+オス]
- 成人女性 [+人間] [+大人] [-オス(+メス)]
補足説明
意味論の成分分析の歴史
今まで〈成分分析〉の説明と具体例をしてきましたが、この意味論における〈成分分析〉という手法は他の言語学の分野の考え方を模倣したものなのです。
「他の言語学の分野」というのは、言語の音の側面を扱う〈音韻論〉という部門です。
〈音韻論〉の詳しい説明は割愛しますが、〈音韻論〉では「音素」を「弁別的素性の束」として記述する分析方法を採用していました。そして、それによって洗練された分野として確立していったのです。
その一方で、〈意味論〉は、色々な諸事情のせいで、言語学という学問の中でも成立するのが比較的に遅い分野でした。そこで、後発組の〈意味論〉は、言語学の大先輩である〈音韻論〉の分析方法を応用して、語の意味を弁別的な意味成分の束として記述する方法論である〈成分分析〉を用いるようになったのです。
「音」を扱う〈音韻論〉と「意味」を扱う〈意味論〉では、たしかにその間には便宜的に境界線がひかれていますが、両者は同じ言語学の分野のメンバーとして、様々な知見や分析方法を共有しあって発展してきたことが分かります。
成分分析の課題点
最後に意味論の〈成分分析〉の課題点を挙げておきたいと思います。
意味論の発展に貢献してきた成分分析ですが、以下のような課題点が挙げられます。
このような課題を解決するために、新しい意味論の考え方(認知意味論など)が登場していきますが、語と語の関係性を明確に記述するという点では〈成分分析〉は有効性を持っています。
全体のまとめ
これにて『意味論②』は終了です。
今回は、意味論における分析手法の1つである〈成分分析〉を見てきました。成分分析は、音韻論の考え方を意味論に応用したものであり、言語学の繋がりを感じることができます。
成分分析が万能で完全というわけではありませんが、現在でも有用性を発揮する分析手法とされています。
- 成分分析とは、語の意味を原始的な要素(意味成分)の束として記述する分析方法
- 成分分析には、意味成分(意味特徴)を設定して語の意味を分析する
- 成分分析は、音韻論の考え方を意味論に応用したものである
参考資料
当記事を作成する際に参考にした資料をご紹介します。
- Saeed, J. I. (2009) Semantics (3rd edition). Wiley-Blackwell.
- Yule, George (2020) The Study of Language (7th Ed.), Cambridge University Press.
- 籾山洋介 (2010)『認知言語学入門』研究社
- 斎藤純男・田口善久・西村義樹 (2015) 『明解言語学辞典』三省堂
- 斎藤純男 (2010)『言語学入門』 三省堂
- 田中拓郎 (2019)『形式意味論入門』開拓社
- 大室剛志 (2019)『概念意味論の基礎』開拓社
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