この記事では、〈能動態〉と〈受動態〉について少し深く考えてみたいと思います。
英語の文法には、表面的には同じように見えるものの、実際には微妙な意味の違いを持つ構造が数多く存在します。その1つが〈能動態〉と〈受動態〉です。記事では、能動態と受動態の書き換えによって生じる意味の違いにスポットを当ててみましょう。
さらに、be動詞やthere存在文などの文法事項も絡めて、分析を発展させてみます。
今まで当たり前だと思っていたものに虫眼鏡を当ててみる。そして、今まで関係ないと思っていた視点から観察してみる。そんな楽しい経験ができる記事となっているはずです。最後までぜひご覧ください。
学校で習う能動態と受動態の関係性を振り返る
まずは前提からのおさらいです。
学校英語では能動態と受動態の関係がどのように説明されているかおさえておきたいと思います。
上記の図に示されている通り、学校では能動態と受動態の関係は次のように説明されるのが一般的だと思います。
「たしかに!こんな説明を受けた」と思い出される方も多いのではないでしょうか。
つまり、能動態と受動態の関係性は、ただ順序を入れ替えるだけの形式的な文法操作、ということです。あえて批判的な言い方をすると〈形式偏重主義〉と揶揄する学者も存在します。
本当に能動態と受動態は形式が違うだけで意味は同じ?
学校英語で能動態と受動態の関係はただの形式の違いである、ことを確認した上で本題に入ります。
直球ですが、本当に両者の違いは形式的な順序だけでしょうか?実は違います。
それでは、具体例を通して能動態と受動態の違いを詳しく見ていきましょう。ここでは、実際の例文を使って、どのように意味が変わるのかを解説します。
下記の意味の違いはどこにあるでしょうか?
「この教室の生徒は2カ国語を話す」
「2カ国語がこの教室の生徒によって話される」
ヒントは「2カ国語」です。能動態と受動態では、それぞれでその「2カ国語」が何を指すのかが異なります。
次で答え合わせしてみましょう。
能動態の場合
まずは能動態から見ていきます。
「この教室の生徒は2カ国語を話す」
結論から言うと、能動態の場合では、「2カ国語」が不特定の言語の組み合わせを指すことが可能です。例えば、例えば、生徒Aは「英語と日本語」の2カ国語を話し、生徒Bは「ドイツ語とフランス語」の2カ国語を話すかもしれません。
受動態の場合
次に受動態の場合を見ていきます。
「2カ国語がこの教室の生徒によって話される」
能動態の場合では、「2カ国語」が特定の言語の組み合わせを指すことが一般的です。例えば、2カ国語の組み合わせが「イタリア語とスペイン語」であれば、そのクラスの生徒全員が話す2カ国語は同様に「イタリア語とスペイン語」ということです。
両者の違いを確認したところで、次にこのような意味の違いが生まれる原因を考えていきます。
なぜ能動態と受動態で意味の違いが生まれるのか?
この意味の違いを説明するアプローチはいくつかあるかと思いますが、ここでは〈情報構造〉を使ってみたいと思います。
まずは概念の確認です。
この定義の中に出てきた〈旧情報〉と〈新情報〉についても定義を確認します。
そして、英語の〈情報構造〉の性質について、以下のように言われています。
つまり、文の最初に〈旧情報〉があり、最後の方に〈新情報〉が登場するということです。
情報構造を能動態と受動態に応用する
それでは、能動態と受動態における旧情報と新情報を考えてみます。
能動態の場合
「この教室の生徒は2カ国語を話す」
能動態では、旧情報がThe studentsで、新情がtwo languagesです。つまりこの例文では、「この教室の生徒」が既知の情報として前に置かれ、「2カ国語」という新たな情報が後に来ています。
そして、新情報である「2カ国語」はまだ共有されていない情報、すなわち不特定の2カ国語の組み合わせを指し得ます。したがって、先ほど紹介したように「2カ国語」が不特定の言語の組み合わせを指すことが可能になります。
受動態の場合
「2カ国語がこの教室の生徒によって話される」
一方で受動態の場合を考えてみましょう。
「2カ国語」が旧情報として前に置かれ、「この教室の生徒」という新情報が後に来ています。つまり、旧情報である「2カ国語」は既に共有されているため、何らかの「特定の2カ国語」を指すことが自然です。したがって、「2カ国語」が特定の言語の組み合わせを指すことになるのです。
応用編:受動態でも不特定を指すのではないか?
ここからは応用編です。今まで説明してきた内容を覆す話です。
まずはここまでの結論をおさらいしておきます。
この結論をひっくり返します。
ある学者によると、受動態でも不特定の言語の組み合わせを含意する、と主張されています。例えば、えば、生徒Aは「英語と日本語」の2カ国語を話し、生徒Bは「ドイツ語とフランス語」の2カ国語を話すといった具合です。
今までの話だと、この解釈は能動態だけで可能でした。
たしかにある文法操作を加えると、能動態と同じ解釈が可能になることがわかります。それが〈存在分〉、つまりthere構文です。
there構文の関係性について
下記の受動態を再度見てみます。
「2カ国語がこの教室の生徒によって話される」
繰り返しになりますが、この文では「2カ国語」というのは特定の2つの言語の組み合わせを指します。
しかし、次のように変形させてみましょう。この操作をthere挿入といいます。
「2カ国語がこの教室の生徒によって話される」
ここでthere構文の性質がポイントになるのですが、原則there構文は限定された名詞(定冠詞や所有格や指示代名詞がつく名詞)とは共起できない、という決まりがあります。
つまり、上記の例文が容認されるということは、two languagesは、限定された名詞ではない、すなわち不特定の2カ国語である、という結論が導かれます。
当たり前を見つめ直してみることの楽しさ
今回の内容はこれにて終了です。
今回の記事では、一見すると同じ意味を表しているように思われる能動態と受動態の間に潜む意味の違いについて注目して解説してきました。
このように、日常的に使っている言葉や表現に潜む微妙な違いを見つめ直すことで、新たな発見や理解が得られることの楽しさを感じていただけたでしょうか。言語の奥深さに触れることで、普段のコミュニケーションがより豊かで効果的になることを願っています。これからも、当たり前に思えることを見つめ直して、新たな視点を発見する楽しさを追求してみてください。
コメント
更新楽しみにしていました。
内容もコンパクトにまとまっていて読みやすかったです。
ありがとうございます!
久しぶりに英文法の小ネタを投稿していくので今後もご覧いただけるとうれしいです(^^)