knife の k、night の gh、debt の b。英語には、書いてあるのに読まない文字がいくつもあります。ローマ字のように「綴りどおり読めば発音になる」とはいかないわけです。なぜ英語の綴りは、こんなに発音と合わないのでしょうか。
答えを先に言うと、発音は変わり続けたのに、綴りはある時代の形をそのまま残したからです。読まない文字は、書き間違いではなく昔の名残なのです。
「綴りどおり読めば良い」では、読まない文字が説明できない
ローマ字のように「綴りどおり読めば発音になる」と思うと、英語はすぐにつまずきます。読まない文字が、あちこちに残っているからです。
- knife (ナイフ。k は読まない)
- night (ナイト。gh は読まない)
- debt (デット。b は読まない)
どれも文字が余っているように見えます。とはいえ、これらは決して書き間違いではなく、つづりとして正しい形です。読まない文字が、なぜか正式に残っているわけです。

読まないなら、なぜ k や gh を書くんですか? 無駄に見えます。

昔は読んでいたんです。発音だけが変わって、綴りが昔のまま残った、と考えると見えてきます。
まずは、綴りが何を記録しているのかからはっきりさせましょう。
綴りは「昔の発音の化石」
knife の k や night の gh は、かつては実際に発音されていました。中英語のころは、knife の k も聞こえ、gh も喉や口で出す摩擦音として響いていました。
その後、発音だけが時代とともに変わり、これらの音は消えました。ところが綴りは古い形を保ったため、今では「読まない文字」として化石のように残っているのです。

母音字と発音がずれるのも同じです。大きな発音変化(大母音推移)で母音の読み方がまとめて動いた一方、綴りは動かなかったため、a・i・e などの字と実際の音の対応がずれました。
印刷の普及が、綴りを固定した
ズレを広げたもう一つの要因が、印刷技術です。15〜16世紀に印刷が広まると、それまで地域や書き手でばらついていた綴りが、しだいに一定の形に固定されていきました。

問題は、綴りが固まったあとも発音は変化を続けたことです。片方(発音)は動き、片方(綴り)は止まったため、両者の距離は広がっていきました。今のズレは、この時間差の産物だと言えます。
語源を見せるために足された文字もある
すべてが「昔の発音の名残」ではありません。中には、語源を見せるために後から足された文字もあります。
debt の b は、もともと英語に入ってきたときには発音されていませんでした。それでも、ラテン語の debitum とのつながりを綴りに示そうとして、b が挿入されたと言われます。綴りは発音の記録であると同時に、語源や歴史の記録でもあるわけです。
こう見ると、英語の綴りは出鱈目ではなく、いくつもの時代の層が重なった結果だと分かります。読みにくさの裏に、発音史と語源が折り重なっているのです。
黙字は、ほかにもたくさんある
一度この見方を持つと、ほかの黙字も同じ目で読めます。would や should の l、write や wrong の w、Wednesday の d なども、かつては発音されていたか、語源を示すために残った文字です。
l・w・d は、昔の発音や語源の名残として綴りに残っている。
では、なぜ不便な綴りを改めないのか、と思うかもしれません。実は綴りを大きく変えようという試みは過去に何度もありました。しかし、すでに膨大な書物や辞書が今の綴りで作られているうえ、地域によって発音が違うため「正しい発音どおり」の綴りに全員で合わせることも難しいのです。綴りは、変えにくいからこそ歴史の記録として残り続けているとも言えます。読みにくさは不便ですが、その一文字一文字が、英語がたどってきた発音と借用の歴史をいまに伝えている、とも見られるわけです。
まとめ:綴りと発音のズレは、変化の時間差から生まれた
最初の問いに結論を示してまとめましょう。
英語の綴りが発音と合わないのは、発音は変わり続けたのに、綴りはある時代の形を残したからです。そこに印刷による固定と、語源を示す綴りが重なって、今のズレができあがりました。

今回の要点
- knife の k、night の gh は、昔は発音されていた音の名残(化石)。
- 発音だけが変化し、綴りは古い形を残したためズレが生まれた。
- 印刷の普及が綴りを固定し、その後も発音は動き続けた。
- debt の b のように、語源を示すために足された文字もある。
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